FEATURE レポート紹介

東洋医学研究会
=横浜市立大学医学部=

横浜市立大学東洋医学研究会の設立は1945年。70年以上の歴史を誇り、現在部員数は約100人の人気サークルだ。西洋医学が中心の医学部教育の中で、「だるい」「冷え」「ほてり」など、西洋医学では病名がつけられない不調を訴える患者さんが近年増えたことで、東洋医学に関心を持つ医師や医学生が増えている。東洋医学を学ぶ貴重な場として、入会する学生も多い。歴史ある東洋医学研究会の設立秘話や活動内容について、2016年度代表を務めた張田佳代さんと現代表である石川晴哉さんにお話を聞いた。

張田佳代さんと現代表である石川晴哉さん

――70年以上に設立されたということは、横浜市立大学医学部よりも前ということですか。

張田横浜市立大学東洋医学研究会、通称「よこいち東医研」の創設は1945年で、横浜市大医学部の前身である横浜市立医学専門学校時代に端を発します。部の歴史には、日本東洋医学会の設立に参加された故石原明先生や、現在ご活躍されている丁宗鐵先生などの著名な漢方医の方々が関わっています。二度の廃部を経て、現在の活動は2000年ごろに開始されたそうです。何度でもよみがえる生命力の強さが、長い歴史と東洋医学の面白さを物語っているのではないかと思います。

――由緒あるサークルなのですね。ところで東洋医学とはどのような学問なのでしょうか。一般の方にわかるように教えていただけますか。

張田東洋医学は、その名の通り東洋起源の医学です。中国の中医学、朝鮮半島の韓医学、インドのアーユルヴェーダ、アラブのユナニ医学、そして、日本の漢方医学を含む概念です。西洋医学は病気の根源を解明し、ピンポイントに原因を除去することを理想としているのに対して、東洋医学は自覚症状を和らげたり、体質を改善して病気を予防したりすることを理想としています。つまり、東洋医学は太古の昔から受け継がれてきた東洋の医師たちの経験に基づいた医療なのです。

漢方医学は、四診(望診、聞診、問診、切診)を用いて、「今の状態」=「証」(例:血色が悪いなど)を診断した後、治療法を選択します。治療法は漢方、もみ治療、鍼灸(しんきゅう)、養生と大きく四つに分かれており、それぞれの証に合うように、組み合わせて使われます。最近「個別化医療」(用語説明1)という言葉が話題ですが、東洋医学では古くからその概念を実践しているのです。

一般に病因論に基づく西洋医学は患者さんを悩ます原因(例:がんなど)の除去に優れており、病態論に基づく東洋医学は患者さんを悩ます状態(例:自律神経の乱れなど)の除去に秀でていると言われています。得意分野が異なるだけで、けっして優劣があるわけではありません。むしろ今後は、双方が共存・融合する医療のニーズが高まっていくのではないかと考えられています。

放課後、病室に集まって活動 施術をお互いに受けることで技を磨いていく

――近年、東洋医学が注目されているのはなぜでしょうか。医学生の立場でどのような面白さや魅力がありますか。

張田一つは、世界保健機関(WHO)が2018年6月に30年ぶりに改訂した「ICD-11」(用語説明2)に伝統医学として、漢方や鍼灸に関するコードの新設が決定したことに関係しているのかと思います。「海外からも注目されている医療なのに、東洋人が知らなくてどうするんだ!」という気持ちになりますよね。

また、東洋医学はエビデンスが薄くてうさんくさい気がする、けれども、なぜか効く、といういい意味でのギャップが面白いと思います。普段勉強している西洋医学は、「Aが原因だからBという現象がおきて、その結果Cという病態が生じる」という風に筋道立てて説明できるものが多いのですが、東洋医学では必ずしもそうではありません。説明できないのに、なぜか効く。そのミステリアスさもまた、学んでいてとても面白いですし、探究心をくすぐるものがあります。

――研究会では主にどのような活動を行っていますか。

張田毎週木曜日の活動日には、屋根瓦式(上級生が下級生を教える式)で漢方などの勉強をしています。また、医食同源を学ぶために薬膳料理を使ったパーティーやアロマセラピーの勉強会も開催します。実技としては横浜市立大学のオリジナルの手技療法である「柔軟操法」の練習を行っています。課外活動としては、池袋にある帝京平成大学帝京池袋鍼灸院・鍼灸臨床センターにお邪魔し、久島達也教授のもとで、鍼灸の勉強会を行っています。

横浜市立大学オリジナルの手技療法である「柔軟操法」を練習するメンバー

――「柔軟操法」は初めて聞きますが、どのような治療法ですか。

張田柔軟操法は「足の太陽膀胱(ぼうこう)経筋に属する筋肉を押圧刺激する横浜市立大学のオリジナル手技療法」です。いうなれば、マッサージのような、ツボ押しのようなものです。もともと久島先生が鍼灸の施術の前に患者さんに行っていたものを、健康な方向けにアレンジしています。

東洋医学では、「気(エネルギー)」「血(血液)」「水(体液)」が滞りなく巡っている状態が健康と考えられています。この気と血の通り道を「経絡」と言います。経絡のうち「足の太陽膀胱経」は、目頭から出発し、頭部からうなじ、背中、腰、お尻、脚の後側から足の小指の爪の外側を流れる長い経路で、たくさんのツボがあります。

太陽膀胱経筋はこの経絡に属する筋肉を指します。太陽膀胱経筋への押圧刺激は日常生活の疲れがたまりやすい背中を刺激することで、筋に加え自律神経も良い方向に調節しているのではないかと考えています。この手技の科学的効果については、昨年の第68回東洋医学会学術総会で学会発表を行いました。

――学生が学会で研究発表するとはスゴイですね!具体的にどんな症状に効果があるのでしょうか。

張田柔軟操法はあくまで「健康な方」向けですので、例えば椎間板ヘルニアなどを患っている方には安全面の問題で施術することができません。主たる効果はリラックスできて、「気持ち良い」と感じていただくことです。学会で発表した内容も、「気持ち良いってなんだろう、もしかしたら自律神経の変動と関係があるのではないか?」という疑問からきています。治療を求めている方には申し訳ありませんが、治療を目的とせず、気持ち良さを実感してみたいと思われたら、ぜひMedical Festivalに足を運んでいただければと思います。

――張田さんが東洋医学研究会に入会しよう思ったのはなぜですか。

張田最初のきっかけは面白い先輩がいっぱいいたので、軽い気持ちで入部したのですが、入ってみてわかったのは、大学の授業はほぼ西洋医学。東洋医学の授業もあるのですが、内容がとても薄い。深く東洋医学について学びたいと思ったら、自分で勉強するしかないのです。そういうときに仲間と一緒に学べるというのは、心強いし、何といっても楽しいです。

さらに柔軟操法では、人の体に直接触れるので、5年生の実習で人の体に触れるときに緊張せずに済むと思います。施術しているときに相手をリラックスさせるため、話しかけたりするので、コミュニケ―ションスキルも身につきます。毎年、学園祭(Medical festival)で一般の来場者に向けて、部員による柔軟操法の施術を体験していただくイベントを開催しています。今年は11月10日、11日の10時から16時まで開催しておりますので、ご興味を持ってくださった方にはお越しいただきたいです。

学会に参加するにあたって、研究を行ったのですが、「なんでだろう?」と思ったことを自分たちの手で確かめられる環境を与えていただけたのは、とても恵まれていると思います。

学園祭(Medical festival2018)に向けて問診の練習から行う

――将来、医師になったときに経験が生かせるということですね。どんな医師を目指していますか。

張田私は臓器別に診療するというよりも、膠原(こうげん)病などの免疫系や血液内科のような全身を診る病気に興味があり、そういう分野の専門医になりたいと思っています。まだ特効薬のない病気も多いので、患者さんの苦痛を和らげるために手技療法の知識があったほうがいいし、東洋医学の知識があれば、できるだけ負担がかからないように患者さんの治療をサポートできると思います。

自分が臨床の現場に出たときに、この研究会での経験を役に立たせたいです。将来は、研究にも携わりたいと思っていますので、今後も常に「なんでだろう?」と疑問を持つことを忘れないようにしたいです。

【用語説明】

(1)個別化医療:患者の体質や病気の特徴に合った治療を行うこと。従来の治療法では同じ病気の患者に対し、同じ薬剤を投与していた。けれども、同じ病気でも効果に差が出るということがわかってきた。近年、バイオテクノロジーに基づいた患者の個別診断の技術が向上したことで、たくさんの医療資源の中から、効果が高く、副作用の少ない、個人に合った治療法を選び出して提供することが可能となってきている。

(2)ICD-11 疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems