女性アスリート健康支援委員会 日本女子初の五輪メダリスト

スポーツを通じ周囲を変える
~有森裕子さんが語るマラソン人生(3)~


有森さん(右)と川原会長

有森さん(右)と川原会長

 ◇理解者を増やしていくシステム作りが重要

 ―その後はどんなテーマが取り上げられたのでしょうか。

 「今年9月の第2回ありもり会議では、『生理とスポーツ』のテーマで開催しました。日本の社会でもジェンダー問題やSDGS(持続可能な開発目標)など、いろいろな課題や問題への取り組みが言われていますが、ジェンダー問題で考えると、子どもを産む機能を持っている女の子が、女の子の体のことを分かっていないと同時にパートナーも親も分かっていないという問題があります。

 大学の女性アスリートは競技力以前に体のことを知らなければいけないということになり、こういう問題に一番力を入れている順天堂大学の力を借りて開くことができました。女性の生理について取り組んでいる競泳の伊藤華英さん、自分自身が生理の問題で苦しんだ経験もある室伏由佳さんのオリンピアンに加え、産婦人科医で順大女性スポーツ研究センターの北出真理先生、同センターの桜間裕子先生に『女性ホルモンと栄養がパフォーマンスへ及ぼす影響』『月経・生理用品がパフォーマンスに与える影響』と題してそれぞれ講演をしていただき、その後に『生理とスポーツ』をテーマにパネルディスカッションを展開しました」

 ―女性だけでなく、男性も参加したのですか。

 「第2回は順天堂大学の施設をお借りして対面で開くことができました。参加者も陸上や体操を中心に、男性アスリートや指導者の方にも参加していただいたのは良かったです。参加者の3分の1ぐらいが男性でした。結構な数でしたね。今、私の知り合いを通じて大阪の大学から『順天堂大学でやった内容の会議をぜひやってほしい』との話があります。このように、UNIVASは、その大学だけでなく大学同士をつなげていくことができます。UNIVASを通じて、各大学に、その知識を持った人たちが生まれていくことになります。『大阪の次は福岡で』というように広がっていけば、私たちがUNIVASを通じてやりたかったことの一つが達成できることになります」

 ―社会がもっと女性特有の問題やジェンダーの問題について理解を深めていく必要がありそうですね。

 「私も素人で何も知らなかったわけで、私が知らないことは一般の方も知らないことです。専門家だけが分かっていても問題は無くなりません。この問題を解決するのは知らない人たちだということです。専門家ばかりが集まって討議しても、おそらく問題は解決しないと思います。子どもたちも理解できない内容は問題の解決に結びつきません。併せて両親や教師も理解できていくことが大事です。強い女性アスリートが出始めているわけですが、現場はまだまだ男性指導者がほとんどで、選手を壊してから専門医に相談するということがいまだにあります。だからこそ、女性特有の生理のことを分かる人を増やしていくシステムを作っていかなければいけないと思っています」

 川原会長 私も関係者の一人として共感するところが多かったです。今後もいろいろな活動を通じて活躍されることを期待しています。長い時間、ありがとうございました。(了)

 有森裕子(ありもり・ゆうこ) 1966年12月17日生まれ、岡山市出身。就実高校、日本体育大学を経てリクルート入社。92年バルセロナ五輪の女子マラソンで日本女子初の銀メダル、96年アトランタ五輪でも銅メダルを獲得。公益財団法人・日本陸上連盟副会長、公益財団法人・スペシャルオリンピックス日本理事長、一般社団法人・大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長、公益財団法人・日本障がい者スポーツ協会理事。認定NPO法人・ハート・オブ・ゴールド代表理事、2010年国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞、同年津田梅子賞など受賞歴多数。

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