「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

コロナ対策、続々と緩和
~キーワードは臨機応変~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第45回】

 新型コロナウイルスの感染対策が次々と緩和されています。これは5月の大型連休後も感染者数が減少傾向にあり、社会経済を再生する方向にかじが切られているためです。世界的にもこの方向に進んでいますが、日本では第6波の流行が続いている最中での緩和になります。今回は、流行を再燃させずに対策緩和を進める方法について解説します。

観光庁の訪日観光実証事業で成田空港に到着した米国からの旅行者ら=5月24日

観光庁の訪日観光実証事業で成田空港に到着した米国からの旅行者ら=5月24日

 ◇大型連休後のリバウンドはわずかだった

 2022年春の大型連休は、3年ぶりに緊急事態宣言などの行政措置が発令されておらず、友人との会食や旅行を楽しんだ方も多かったと思います。ただ、国内では第6波の流行が続いている中での連休であり、接触や移動の機会が増えることで流行が再燃することも懸念されていました。

 しかし、こうしたリバウンドは一部の自治体で見られたものの、日本全体で見るとわずかだったようです。これはワクチンの追加接種率が高くなったことや、国民の皆さんが予防対策を自主的に取るようになった効果と考えます。

 このように連休後のリバウンドがわずかだったことから、これから夏までの新型コロナの流行状況が見えてきました。すなわち、今後も感染者は一定数発生するでしょうが、大きな増加を起こすことはないという予測です。これに基づいて、政府や自治体では社会経済を再生させるために感染対策の緩和を始めています。例えば、東京都では5月23日から認定飲食店での人数や滞在時間の制限を撤廃しました。

 ◇水際対策の緩和

 政府としては6月から新型コロナの水際対策を緩和します。

 日本の水際対策は世界でもかなり厳しく、全入国者に出国前の陰性証明書の提出や、入国時の抗原検査、入国後の健康監視を要求していました。特に、入国時に空港で行われる抗原検査は手間や時間がかかるため、入国者数を増やすのに大きな障害になっていたのです。

 これを解決するため、世界の国々を感染リスクなどで3段階に分け、感染リスクの低い国からの入国者については入国時検査を免除することにしました。中等度の国からの入国者もワクチン接種を3回受けていれば検査が無くなります。政府はこの緩和策により、検査を受ける入国者が8割は減らせるとしています。

 世界的にも入国時の検査を要求していない国は多く、今回の日本政府の水際対策の緩和は妥当なものと考えます。ただし、重要なのはどのような基準で3段階に評価するかで、政府はそれを明示するとともに、この評価で分類された国のリストを適宜更新する必要があります。

 ◇マスク着用も緩和

 政府はマスク着用に関しても緩和策を発表しました。

 マスク着用は感染対策として有効なものですが、日本ではそれを国民が自主的に実施してきました。しかし、マスクを外しても良い場面はあり、流行がある程度落ち着いてきた段階で、それを具体的に提示したわけです。

 もともと屋外で他人と距離が取れる場合は、マスクの必要がないとされてきました。今回はこれに加えて、屋外で近い距離でも会話をしない場合や、屋内でも距離が取れて会話のない状態ならば不要であることが示されました。

 夏場は屋外でマスクをしていると熱射病になることもあり、マスクを外せるものなら、その方が健康的にも良いでしょう。ただ、現状でマスクをしないで公園を散歩していると非難の目で見られることも少なくありません。今回、政府がマスク着用の目安を出したことで、こうした過剰な反応がなくなることを期待したいと思います。

マスクを着用して皇居沿いを走るランナー=5月20日、東京都千代田区

マスクを着用して皇居沿いを走るランナー=5月20日、東京都千代田区

 ◇5類感染症への引き下げは困難

 今後、感染対策の緩和として期待されているのが、感染症法上の新型コロナの扱いを5類に引き下げる件です。現在は2類相当であるために、保健所が中心になり感染者の隔離や濃厚接触者の健康監視などの対応が取られていますが、オミクロン株の流行なら重症化も少ないため、隔離や健康監視は不要との意見も聞かれます。

 ただ、私はもうしばらくの間、現在の2類相当のままでいいと思います。オミクロン株が流行してからは、現状でも感染者が無症状なら隔離期間を7日に短縮していますし、濃厚接触者の健康監視期間も短くなっています。保健所も濃厚接触者の追跡をあまりしなくなりました。これが5類になってしまうと、こうした措置が一切取れなくなります。

 さらに、現時点で5類に引き下げると、今後、オミクロン株に代わる新たな変異株が出現した場合、それに対処できなくなることも考えられます。感染力がオミクロン株よりも強く、重症化も起こしやすい変異株が出現する可能性はまだあるのです。

 ◇流行状況は依然として不安定

 新型コロナは19年12月に中国で武漢株という最初のウイルスが発生してから、アルファ株、デルタ株、オミクロン株と立て続けに変異株が出現し、そのたびに世界的な流行が発生しました。現在のオミクロン株は21年11月にアフリカ南部で出現し、まだ半年しか経過していません。このオミクロン株は感染力が強い一方で、重症度が低いために感染対策の緩和が進んでいるのです。

 しかし、この先もずっとオミクロン株が流行するとは限りません。新型コロナの流行状況は依然として不安定です。新たな変異株によってさらに流行が拡大した場合、感染症法の5類では対応しきれないことが十分想定されます。

 さらに、こうした新しい変異株の出現を考えると、今回の感染対策の緩和が再強化されることも当然あるでしょう。今年の秋以降にオミクロン株の流行が再燃した場合も同様です。あくまでも、今後の流行状況を見ながら臨機応変に感染対策を実施していくことが必要なのです。

 オミクロン株の流行により、日本だけでなく世界的に感染対策が緩和されていますが、それは「オミクロン株だから」という、ただし書きの下での対応です。今後も新たな変異株の出現を監視しつつ、流行が再燃したら感染対策を再強化する。今はそんな対応が求められています。(了)


濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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