「医」の最前線 新専門医制度について考える

総合診療専門医に大きな期待
~患者がジェネラリストを求める時代へ~ 第3回

 新専門医制度で大きな目玉となっているのが、19番目の基本診療科として新たに「総合診療科」が加えられ、本格的に総合診療専門医の育成が始まったことだ。2018年から始まった3年間の研修プログラムを経て、2021年秋に第1期生が誕生する。日本では、まだあまり認知されているとは言い難い「総合診療」。「ここにきて総合診療医がなぜ必要とされているのか?」「どういう位置付けで、どのような役割を果たすのか?」。専門医制度のマネジメントを担う第三者機関、一般社団法人日本専門医機構の総合診療専門医検討委員会委員長である羽鳥裕医師に話を聞いた。

羽鳥裕医師

 ◇少子高齢社会で全人的な医療が求められている

 ―総合診療専門医が必要とされる社会的背景は?

 専門性の高い医療技術の進歩によって、日本は世界一の長寿国*となりました。医療技術の発展で新しい治療法が確立しても、全ての疾患や医療問題が解決できるわけではありません。少子高齢社会を迎え、複数の慢性疾患を抱える高齢の患者が増加する中で、完治がゴールではなく、生活支援も含めた包括的かつ継続的な医療サービスや全身を診ることができる医師が求められているのです。

 そのため、プライマリ・ケアや地域包括ケアシステムを支える担い手として「総合診療専門医」の育成が急務となっています。俯瞰的に診療を行うジェネラリスト、患者に寄り添い、全人的な診療ができるスペシャリストが、専門医制度を刷新するタイミングで新たな基本領域の専門医として加えられたのです。

* 世界保健機関(WHO)が発表した2021年版の世界保健統計(World Health Statistics)

 ◇臓器別スペシャリストの育成で失ったもの

 ―医師の養成課程の中に総合診療は無かったのか?

 かつて、大学の医局は第一内科、第二外科のようにナンバー講座制が主流でした。例えば内科の場合、それぞれの教授が受け持つ研究室ごとに分かれてはいたものの、各講座間の交流もあり、内科の若い医師は内科全般を広く学べる環境にありました。けれども患者から分かりづらい、研究効率が悪いといった理由で、卒後2年間の初期臨床研修が必修となった2004年ごろから、全国の大学は循環器、消化器、呼吸器のように臓器別講座への改変が進みました。臓器別スペシャリストの養成が進み、広く診療を行うことができるジェネラリストを育成するための基盤を失ってしまったのです。

 これにより、ある年代以降、同じ内科であっても、呼吸器もしくは循環器のことしか分からない、専門の臓器以外の診療を行わない医師が増え、患者さんが別の医療機関を探さなくてはならないなどの不利益が生じる状況が起きました。つまり、総合的な診療を普通に経験できた時代には必要なかった総合診療や、プライマリ・ケアの担い手の養成を確実かつ計画的に行う必要性に迫られているのです。

 ◇地域から病院まで総合診療医の幅広い位置付け

 ―総合診療科の位置付けや役割は?

 総合診療医の大きな役割としては、患者さんと一番身近に接する地域医療を担うところがポイントです。内科全般はもちろんのこと、小児科や救急、小さな外科的手術から予防接種、認知症、在宅、みとりまで、あらゆる年代、さまざまな疾患を総合的に診ることができるのが総合診療専門医の強みです。アメリカで言うファミリードクターであり、開業医の先生にとっては一番なじみの深い分野と言えます。地域包括ケアシステムの中では中心的な存在となり、地域の医療機関や他職種をまとめてリーダーシップを取ることが求められます。

 さらに大病院の中では、来院する患者さんのゲートキーパーであり、ファーストタッチで的確な処置を行い、診療科全体のコーディネーターの役割を果たします。

 ◇かかりつけ医との違いは質の担保

 ―現在のかかりつけ医との違いは?

 かかりつけ医も患者にとっては何でも相談できる一番身近な存在です。ただ、ベテランのかかりつけ医が内科や外科など、それぞれの専門を持ちながら、多くの患者に接して診療経験を重ねているのに対し、総合診療専門医は学問的にそれを究めた存在です。ベテランのかかりつけ医はそれぞれの優れたスキルは持っていますが、専門とする診療領域以外の分野に対する対応にはどうしても個人差があります。総合診療専門医であれば、総合的な診断力、内科を基本とした小児科や救急対応などの、ある一定レベルの質が担保されています。

 ◇大病院で求められる診療科の枠を超えた広範な技術

 ―大病院ではどのような役割を果たしているか?

 総合診療医は大病院でもゲートキーパーとして力を発揮します。ドクターGのような総合診断はもちろんのこと、昨今では新型コロナ受け入れ病棟で、肺機能が低下した患者に対して率先して気管挿管(人工呼吸が必要な患者に対して、気管チューブを口から挿入する処置)を行い、その後の診療科との調整で司令塔的な役割を果たしています。

 本来、気管挿管は医師が行う基本的な技術で、初期研修時に基本のトレーニングを行います。英国では全ての医師に求められますが、日本の場合、日常的に行っていない医師がすぐにできるという手技ではありません。さらに、コロナウイルスの重症患者の大半は複数の疾患を持っていることから、肺だけでなく広範な知識と全身管理ができる能力が必要です。また、集中治療室(ICU)で重症患者の容体を安定させるための管理を行う集中治療医は現在、麻酔科医と救急医が大半を占めていますが、将来的には総合診療専門医の活躍の場としても期待されています。

 ◇さまざまな病態に対する鑑別診断

 ―実際にどのような診断や診療ができるのか?

 例えば、片足が不自由な患者さんを脳梗塞の疑いありということで、病院の総合診療に紹介されることがあります。診断は大腿(だいたい)骨骨折だったのですが、本来、触診して可動域(関節が動く範囲)を調べればすぐに分かることです。また、微熱があり、脈が速くてイライラしている患者さんは、まず最初に膠原(こうげん)病である甲状腺機能亢進症(バセドウ病)を疑うのですが、長い間、狭い専門領域の範囲内の診療ばかり行っていると、このような診断ができなくなる医師も多いのです。

 ◇大人の先天性心疾患患者への対応にも期待

 生まれながらの心臓病「先天性心疾患」は、かつては数年で命を落とす、いわば命を救えない病気でした。医療技術の進歩で病気を抱えながらも寿命を伸ばし、大人となる患者さんが増えています。1980年代は大人の割合よりも小児の患者数が圧倒的に多かったのですが、小児の患者が大人になったことで、2020年には大人の患者数が小児の患者数をはるかに超えました。今後も増え続けると思います。

 小児の先天性心疾患の一つに「ファロー四徴症」という病気があります。昔は2、3年で亡くなってしまった慢性の病気ですが、現在では手術後の生存率は25年生存率が96~98%となり、術後は定期的な受診と処置が必要となっています。大人になった小児の心疾患を診ることができる医師が少なく、25歳になっても、例えば、東京の榊原記念病院のような循環器専門病院の小児科に通院されている患者さんも少なくありません。そのような慢性疾患の患者さんを受け入れる仕組みをつくれば、総合診療専門医が対応できるようになるのではないかと考えています。

 ◇臨床以外でのさまざまな可能性

 ―総合診療専門医は将来活躍の場が広がるか?

 総合診療専門医の資格を取った後でも、本人が興味のある専門分野に自由に進めるようにしたいと考えています。循環器に興味があれば、その関連領域の専門医資格取得やカテーテル治療を修得したり、興味のある分野で博士論文を発表したりしても良いと思います。また、内視鏡専門医資格を取得するには、症例経験や高い技術が要求されるため時間もかかります。けれども、人間ドックのような場所で治療をせずにスクリーニングをするだけであれば、ある一定のレベルスキルで対応できます。将来的に総合診療専門医は内視鏡による治療まで行わないとしても、専門の研修の受講等を通じてスクリーニングを担当する医師として、内視鏡専門医に代わって活躍できる道がつくれます。

 また、臨床以外でも公衆衛生、疫学や医療統計などの社会医学に興味のある人も多いので、厚労省の医系技官やW H Oで活躍する道につなげることができれば良いと思っています。

 ◇総合診療専門医を地域全体で育てていく環境づくりに協力を

 ―総合診療専門医の養成に当たってメッセージを

 日本の高齢化は先進国では一番速く、超高齢社会における日本独自の医療体制の構築が進められています。この秋、新しく誕生する総合診療専門医が経験を重ね、地域医療の担い手としてリーダーシップを取れるようになることで、近い将来、多くの地域で患者さんが安心して、より質の高い医療を受けられる社会が実現できると考えています。地域全体で温かく見守っていただき、地域医療のリーダーの育成に協力していただければと思っています。(了)

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