「医」の最前線 正しく恐れる

緊急事態宣言は再度あり得るか
~今後の展開三つのシナリオ~ ―コロナを正しく恐れる 第5回―

 緊急事態宣言が解除され、全国的に人流が増えています。新型コロナ患者の新規感染者数は、増加せず推移しています。

衆院選期間中も新規感染者数は減少傾向を続けた。最後の訴えを聞く有権者(10月30日午後、横浜港北区)

衆院選期間中も新規感染者数は減少傾向を続けた。最後の訴えを聞く有権者(10月30日午後、横浜港北区)

 その中で、衆議院選挙が行われ、自民党・公明党の与党が健闘(菅義偉前首相の時の支持率を考えると勝利と言ってよいでしょう。もともと安倍晋三元首相の登場までは、自民党単独で安定多数には到達することはほとんどありませんでしたので、かなり自民党優位な状況は、長く継続しています)、維新が躍進、立憲民主・共産党は退潮という結果になりました。日本政治全体から見ると、維新は右ウイングに属していますので、全体的に国民の意識も、やや右ウイングに傾いたということだろうと思います。維新の躍進の最大の理由は、吉村洋文・大阪府知事と松井一郎・大阪市長のコロナ対策ではないかと思います。陣頭指揮を執り、コロナの感染者数の状況に応じて、先読み対応をしてきたことが大阪府民や全国の方の指示を得たのではないでしょうか。(全国ネットのメディアでは報道がされないので、関東圏の方には理解しにくいでしょうが、関西圏での情報発信は素晴らしいです)

 今回のコロナ対策の要点は、もちろん国の対応であるわけですが、実質的に一番重要なのは、地方自治体での対応です。PCR検査、保健所の指揮からはじまり、病床確保やワクチン接種――など、対策の枠組みは国の問題であったとしても、実際は都道府県や市町村の対応次第であるわけです。その意味で、吉村知事と松井市長の対応を有権者が評価したということだと思います。

 ◇第6波を防ぐには

 さて、政治も一段落しましたので、今後の課題は第6波があるかどうか。また、その中でGoToキャンペーンのような地方経済振興策を打てるかどうかです。特に、来年夏には参議院選挙があり、政府与党としては2012年のねじれ現象が生じかねない参議院選挙をどう勝ち抜くかが最大の焦点になります。それまでには、GoToキャンペーンを再開したいと政府与党は考えているでしょうし、困窮している地方経済を考えれば、ぜひしてもらいたいと思います。そのためには、コロナ感染者、特に医療需給の逼迫(ひっぱく)につながる重症患者の発生を、どれぐらい抑え込めるかにかかっています。

 第5波の流行がなぜ収まったかは、いろいろ諸説があります。私はワクチン接種者におけるコロナ感染患者の10%以下への減少に示されるように、ワクチンの効果が大きいかと思います【表】。特に、日本の場合は、現在2回目接種者が70%以上になり、しかも、その多くの人が7~10月に接種し、一番ワクチンの効果のある時期にデルタ株の流行があったということが幸運であったと思います。

 では、欧米のように再度感染者が激増するのでしょうか。この点に関しては、いくつかのシナリオがあるかと思います。どのシナリオになるかを決めるのは、ワクチン接種後の経過時間に伴う抗体価の減少と3回目のワクチン接種が、いつから始まるかでしょう。

 シナリオその1は、人流が緊急事態宣言終了後増えているため、12月後半に入り、ワクチン2回目接種者後時間の経過した人、特に高齢者でコロナ感染者が増え、医療体制が逼迫し、再度緊急事態宣言か、まん延防止策が出されるパターンです。

 シナリオその2は、ワクチンの効果もあり、12月に感染者数は増えるが、重症者は少なく、年内は現状のままで推移。ワクチンの効果が薄れる来年3月に重症者が増え、3月の新入式シーズンに再度緊急事態宣言か、まん延防止策が出されるパターンです。

 シナリオその3は、ワクチン効果が薄れる来年3月までに3回目の接種が間に合い、感染者数はある程度増えるが、重症者は増えず、来年3月ごろにGoToキャンペーンなどの経済活性化策が可能となるベストシナリオです。

 現在のワクチンパスポートを含む経済活性化実証実験の結果にもよると思いますが、シナリオ3の可能性が60%、シナリオ2が30%、シナリオ1が10%ぐらいの確率ではないかと予想しています。鍵を握るのは、3回目の接種がいつごろから加速するかとワクチン接種率です。ワクチン2回目までの接種は、既に日本では70%を超えており、予想を上回る浸透率です。2回目のワクチン接種で副反応がひどく出た人で、3回目接種をどれくらい希望されるかが鍵になろうかと思います。

 副反応に関しては、若年男性でモデルナのワクチンで一過性ですが、心筋炎の副反応が起きています。なぜ、モデルナのワクチンがファイザーのものより心筋炎の発生率が多いのかの理由は分かっていません。繰り返しの接種時の反応が気になります。まだ、3回目のワクチン接種に伴う副反応の報告は十分ではありませんが、2回目の接種と同じぐらいではないかといわれています。まだまだ注視が必要です。

 ◇着実に開発進む国産ワクチン

 一方で、国産ワクチンも、ブースターワクチンとしての利用を目指して、着実に進んで来ています。不活化ワクチンのKMバイオロジクス、組み換え型ワクチンの塩野義製薬、RNAワクチンの第一三共製薬は、それぞれ次の治験に進むという報道がされています。我々のDNAワクチンも、安全性に問題がなかったことが今までの治験で明らかになり、高用量の試験をしています。その中で、インドのZyMed社のDNAワクチンが世界で初めて使用が許可されました。臨床治験では、デルタ株に対して67%の有効性を示したということですので、かなり高い有効率です。このDNAワクチンは、PharmaJetと言われる針なし注射器を用いて、DNAの量も我々よりかなり多く使用しています。同じプラスミドDNAを用いていますので、我々も今進んでいる高用量の試験の後、承認に向けた試験を進めていく予定です。

 ただ、ワクチン接種率が国内で70%を超えてきたことや、感染者が非常に少なくなってきたことから、国産ワクチンを国内開発だけで行うことは非常に困難になってきています。岸田新政権には、国産ワクチンの開発に関しても、よりリーダーシップを発揮していただきたいと思います。


森下竜一 教授

森下竜一 教授

 森下 竜一 1987年大阪大学医学部卒業。米国スタンフォード大学循環器科研究員・客員講師、大阪大学助教授を経て、2003年から大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授(現職)。内閣官房 健康・医療戦略室戦略参与、日本遺伝子細胞治療学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会総合プロデューサーなどを務める。著書に『機能性食品と逆メソッドヨガで免疫力UP!』、新著に『新型コロナワクチンを打つ前に読む本』など。自身で創業した製薬ベンチャーのアンジェス(大阪府茨木市)で、新型コロナウイルスの国産DNAワクチンを開発中。


【関連記事】


「医」の最前線 正しく恐れる