「医」の最前線 新専門医制度について考える

外科医の働く環境整備が急務
~小寺泰弘医師インタビュー~ 第7回

 日本の外科専門医制度は1978年に始まり、現在、日本外科学会認定の外科専門医は23,335人(2019年)と内科専門医に次ぐ規模を持ち、日本の外科医療の発展に大きく貢献してきた。昨今、高度な医療技術の進歩に伴い、外科技術は多様化、複雑化する一方で、若い医師の外科離れという深刻な問題に直面している。外科医の質の担保と国民への分かりやすさを目的に始まった新しい専門医制度で外科専門医はどう変わるのか、外科医不足は解消されるのか、日本外科学会専門医制度委員長を務める小寺泰弘医師(名古屋大学医学部附属病院 病院長)に話を聞いた。

※厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会資料」〔2018年9月3日〕より

※厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会資料」〔2018年9月3日〕より

 ◇新制度で外科医希望者が増加している理由

 日本専門医機構の発表によると、2021年度の外科研修の専攻医の採用数は912人。18年度805人、19年度826人、20年度828人と、新制度開始以降、増加傾向にある。この理由について、小寺医師は「外科医は外科専門医認定後に、その上の消化器外科や心臓血管外科のようなサブスぺシャルティ領域の専門に進むのがスタンダードなコースになっています。サブスペシャルティ領域の専門医資格の取得は非常にハードルが高く、外科医は1人前になるのに時間がかかると言われていました。新制度では外科専門医の研修中に連動してサブスぺシャルティの研修も受けられるようになったため、早ければ外科専門医認定の1年後にはサブスぺシャルティの専門医資格も取れるように期間が短縮されたのです。資格取得後も身に付けるスキルには変わりはないので、更新時は大変なのですが、資格を短期間で取得し若くして専門医になるための道をつくったという意味で、これまでよりも入りやすい印象を与えている可能性はあるのかなと思います」と説明する。

小寺泰弘医師

小寺泰弘医師

 ◇各領域を経験し、ゼネラルな思考を身に付ける

 新しい外科専門医の認定には、一般外科医としての基盤を養成することに重きを置いている。3年間ないし4年間の外科研修プログラムに従い、手術経験数350例以上、うち術者として120例以上、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺外科、内分泌外科などの各領域で最低経験数をクリアする必要がある。「手術の内容も一般外科的な思考を身に付けるという意味では研修の内容はほとんど変わっていません。大きな変更点としては、外科専門医は国が認めた公的な資格として広告を認めること、学会内だけでクローズドだった合否判定に第三者機関である日本専門医機構が関わること、そして複数の医療機関をまたがって修練を行うプログラム制になったことです」

 ◇プログラム制により短期間で資格を取得

 旧制度はカリキュラム制(単位制)で、期限を設けず、基準を満たした時点で資格が認定されるため、何年もかけて外科専門医の資格を取得するということも珍しいことではなかった。新制度について、小寺医師は「プログラム制は採用された施設の研修プログラムに沿って期間内に決められた内容を履修することを可能とする仕組みです。短期間で必要な単位を集中して履修し、効率よく専門医資格が取得できることを意図したものです。それに加え、新制度では基幹施設と連携施設の二つ以上の病院での研修を経験することが義務付けられています。妊娠、出産、介護、留学など、ライフイベントで研修が継続できなくなった場合は研修をいったん中断することも可能ですし、復帰するときなどに他の地域の研修プログラムに異動する必要があれば、より自由度の高いカリキュラム制に変更することも可能です。かっちりしたプログラム制から外れても、残りの単位を取得すれば専門医の取得は可能です」と話す。

 ◇オールマイティーに何でも手術ができる医師はいない

 内科は症状が出て診断される前からの診療行為全般にわたるため、ゼネラリストとしての役割が大きい。外科はファーストタッチというよりも手術が必要になったときに受診するので、どこの部位を手術するかによってかかる医師が変わり、ゼネラリストといっても意味合いが違う。

 「『消化器の手術も心臓の手術も小児の手術も乳腺の手術も全てできます』という医師は漫画やドラマの世界だけで、ほとんどの外科医は六つのサブスぺシャルティ領域のいずれか一つ、あるいはせいぜい二つを担当します。患者さんの体に侵襲を与えるわけですから、自分の専門とする領域以外の手術を行う機会は限られます」

 ◇専門医資格を更新することで外科医としての質を担保

 「外科専門医資格を維持するためには、5年ごとの更新の際に定められた経験手術数が求められます。資格は無条件で継続できるものではなく、自分の専門領域の手術数をこなしながらスキルを高めていく必要がありますので、資格を保持する限り、そのサブスぺシャルティ領域の手術を行う外科医として一定の質は担保されます。例えば、私の場合は病院長になってから手術に入る機会が減ったため、このままの状態が続けば専門医の更新は難しいのですが、現場に復帰すれば専門医資格を復活させることは可能です。ただ、手術数が足りないと資格が失効するわけではなく、他の条件を満たしていれば認定登録医というものに登録され、手術件数を満たせば再度専門医に復帰できます」

 ◇外科の専門医資格は3段階のピラミッド方式

 外科専門医の上には、消化器外科専門医や心臓血管外科専門医のようにサブスペシャルティ領域の専門医資格があり、さらに消化器外科専門医の上には例えば、肝胆膵領域の高難度手術の経験を評価する高度技能専門医のような資格がある。

 「サブスペシャルティ領域の専門医資格となると、要求される手技や手術数も増え、論文の提出も求められます。ハードルがかなり上がりますので、全ての外科専門医がサブスペシャルティ領域の専門医資格を持っているとは限りません。手術は通常はチームで行いますので、難易度の高い手術にはサブスペシャルティ領域の専門医や、さらに上の資格を持った専門医が加わって行われることが望ましいと思います」

※同

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