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手術前に「頑張って」と言っていい?
~子どもを励まし安心させる言葉~ 【第4回】

 お子さんの手術は、ご両親(保護者)やきょうだいなど家族にとって心配や不安を感じる大きな出来事です。お子さんにとっては、病院に行ったら注射されるかもしれないこと、手術をすること、夜は病院で母親や父親がいない中、一人で眠らなくてはならないことなどが怖かったり寂しかったりします。そのため「病院に行きたくない」「手術しない」「ママ(パパ)が一緒じゃなきゃヤダ」「ちっくん(注射)怖い」などと言って、泣いたり怒ったりすることもあるでしょう。加えて、ご両親も子どものそばにずっといられないことや、手術が子どもにとって痛い、つらい経験になるのではないか、手術はうまくいくのかといった不安に心を痛めるのではないでしょうか。

「病院に行きたくない」と言われたら

「病院に行きたくない」と言われたら

 そうした中、手術を受けるお子さんに「頑張って」と言うことが、そのお子さんにとってプレッシャーになるだろうかと悩んだり、お子さんを安心させようと「大丈夫だよ」と言ったら「大丈夫じゃないっ!」と返されて困ったりする保護者もいるかもしれません。では、どのように声を掛け、励ましたらよいのでしょうか。愛情や励まし、安心させたいという気持ちから、手術を受けるお子さんに対して言ってはいけないという言葉はないと思います。何を言ったらよいか迷ったとき、悩んだときは次のような言い方や言葉を参考にしてみてください。

 ◇孤独感を持たせない

 ・「一緒に頑張ろう!」
 「頑張って」の言葉は、言われた自分だけが頑張らなくてはならないという印象になり、孤独感につながる場合があります。「一緒に」という言葉を足せば「1人ではない」という安心感を与えられます。

 ・「○○を頑張ろう!」
 「麻酔で眠るのを頑張ろう」「お部屋(手術室)に行くのを頑張ろう」「先生にあいさつするのを頑張ろう」など、何を頑張ればよいのかという具体的な行動を伝えると、お子さんもその行動に意識を向けられます。また、お子さんがその行動を取って「できた」という達成感を感じたり褒められたりすると、前向きに治療や手術に取り組めます。

 ・「手術の間ずっと待っているよ。終わったら会えるよ」
 お子さんの手術中、保護者は病院内にいて帰ったりどこかに行ったりしないこと、手術が終わったらお子さんに会いに来ることを伝えると、お子さんも見通しを立てることができます。

 ◇きょうだいにも説明

 病気やけがによるお子さんの手術や入院は、保護者のみならず、きょうだいにも影響を与えます。保護者は手術や入院をするお子さんの面会や付き添いなどに多くの時間を取られるため、きょうだいと過ごす時間が少なくなる場合があります。一方、きょうだいは焼きもちをやいたり、孤独感を覚えたりするほか、入院をしているお子さんと会えないため、心配、不安、恐怖などを感じたりすることがあります。その結果、赤ちゃん返りをしたり、何かを怖がったりするなど、今までと違う行動を見せることがあります。

 こうしたネガティブな感情や行動を少しでも和らげるために、きょうだいへの説明も大切になります。説明する内容は発達や年齢に合わせてということになりますが、どのように言ったらよいか悩む保護者も多いと思います。その際には①なぜ手術や入院をするのか②元気になったら自宅に帰ってくる③自分の気持ちや心配ごとは保護者に話してよい―の三つを伝えるとよいでしょう。

きょうだいが手術や入院をすることで生じる不安や心配、孤独感を少しでも和らげたい

きょうだいが手術や入院をすることで生じる不安や心配、孤独感を少しでも和らげたい

 具体的に例を挙げてみます。

 ・「○○ちゃん/○○くんは、元気がない/○○がうまく働いていないから、病院に行って先生に治してもらう」

 ・「○○ちゃん/○○くんは、元気になったら/○○が治ったら、おうちに帰ってくるよ」

 ・「寂しい気持ちや心配なことがあったらママやパパに教えてね」 

 これらを伝えれば、手術や入院をするお子さんが自宅にいない理由、元気になったら自宅に帰ってくるという見通し、きょうだいの気持ちや心配事に保護者が関心を持っていることへの理解につながります。

 ◇ストレス軽減へ日常の変化を抑える

 また、祖父母や親戚がきょうだいの面倒を見るなど、日常生活が変化することがあります。保護者の不在と日常の変化は、子どもにとってストレスの一因となります。日常のルーティンや通園・通学、行事などを可能な限り今までと同様に維持することが、きょうだいにとっては安心感につながります。

 病院によってはチャイルド・ライフ・スペシャリストや療養支援士、心理士など、子どもを支援する専門家がいます。手術を受けるお子さんにどのように声を掛けたらよいか、きょうだいにどう伝えたらよいか悩んだら、病院のスタッフに相談するのも一つの方法です。(国立成育医療研究センター・米道宏子)


米道宏子(よねみち・ひろこ)
 国立成育医療研究センター チャイルド・ライフ・サービス室 米国認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト。
 2009年ラバーン大学院卒。一般社団法人日本チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会副会長。



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