こちら診察室 見過ごしたくない「#育児あるある」

予防接種、行く前に言う?言わない?
~子どもの力を信じよう~ 【第3回】

 ほとんどの予防接種は注射です。いかにも痛そうです。針は以前よりも細くなっているとはいえ、肌に刺すときも、薬液を注入するときも、やはり痛いです。でも、「お注射はしないから」とだまして病院に連れて行き、そこで注射をされたら子どもの心は大きく傷付きます。「痛くないから」という言葉も子どもにうそをついていることになります。「悪いことするとお注射してもらうよ」もやめてください。私たちが悪者になってしまいます。悪者の所には行きたくないでしょう。

 子どもの持つ力を信じましょう。「病気にかかりにくくする、大事なお注射をしに行こう」と説得すると、子どもたちなりにきちんと理解します。親が思っているよりも、ちゃんと理解できるのです。「痛いから嫌だ」と最初は嫌がる子も多いと思います。「そうだよね、痛いのは嫌だよね」と気持ちを受け止めた上で、きちんと話せば納得します。それでも診察室で泣くと思います。でも、だまされて泣くのと、覚悟を持って泣くのとでは大きな違いがあります。泣いてもいいんです。頑張ったのですから。

 ◇注射までの流れ

 1. 自宅
 子どもには、前もって注射することを伝えるようにします。それでも当日、病院に行くのを渋るかもしれません。その場合は「病気にかかりにくくする大事なお注射をしに行こう」と説得を繰り返します。「昨日は頑張るって言ったじゃない」と怒ってしまうのは厳禁です。辛抱強く説得しましょう。仕事を休んで病院に行く日をつくった方もいらっしゃるかもしれませんが、子どもの気持ちを優先し、時間をかけて子どもとお話ししましょう。

 2. 病院の入り口や待合室
 他の子どもの泣き声が聞こえたりすると不安になるかもしれません。でも、その気持ちを一緒に感じた上で、「ママ・パパが付いているから一緒に頑張ろう」と説得してください。子どもは頑張ってくれます。

予防接種を安全に行うために

予防接種を安全に行うために

 3. 診察室
 診察室に入るときから緊張しているのは自然なことです。ここでのポイントは、特に年少児では「抱っこ」になります。安全に予防接種を行うために看護師さんの指示に従って、子どもの腰と頭に手を置いて、自分の体に引き寄せるように抱っこしてください。「腕を押さえないと」と思いがちですが、腕は医師や看護師が押さえます。
 採血検査の注射と異なり、予防接種は薬液が体内に入るときにかなりの痛みを感じます。針の痛みには我慢できても、薬液注入時に反射的に動いてしまう子どもが多いのです。このような形で抱っこすると動きにくくなり、安全に予防接種を行えるようになります。また、子どもはぎゅっと抱きしめられると安心します。
 実際に注射する際は針の痛みもありますし、前述のように薬液の痛みもかなりあります。その時に「痛い!」と言うのは自然なことです。それに対し、「痛くない!」と言うのは厳禁です。子どもは自分の気持ちを受け止めてもらっていないと感じます。「痛いよね」と共感を示してください。
 何回か予防接種を経験し、慣れてくると、5歳くらいから1人で座ってできるようになる子もいます。本人が「1人で座る」と言ったら尊重してあげます。ただ、注射をする腕と反対側の手は、安全のために親が握っていてください。
 親に抱っこされたり手を握ってもらったりするのはまるで魔法です。きっと、「愛され、見守られている自分」を確認し、安心できるのだと思います。

 4. 退室後
 子どもの頑張りを必ず認めてあげましょう。注射で泣くのは自然なことなので、泣いても、多少動いても、「お注射できたね」とやり終えたことを認めてあげてください。そして、ぎゅっと抱きしめて安心させてあげてください。「できる自分、がんばれる自分」を確認し、成長できます。大変な体験を共有したことで、親子の絆も深まると思います。

 ◇子どもの権利

 最後に少し難しい話をします。「子どもの権利」を考えたことはありますか? 日本小児科学会では、2022年に「医療における子ども憲章」を公表しましたので、ぜひ、インターネットで検索してご覧ください。予防接種は同憲章に記載されている以下の権利に関わってきます。

 1. 子どもにとって一番よいこと(子どもの最善の利益)を考えてもらう権利
 適切な時期に予防接種を行うことは「子どもにとって一番よいこと」です。

 2. 安心・安全な環境で生活する権利
 できるだけ不安のないようなやり方で予防接種を受ける権利があります。うそをついて強制的に行ってはいけません。

 3. 病院などで親や大切な人といっしょにいる権利
 母親・父親に抱っこされて予防接種を受けるのは大事なことです。

 4. 必要なことを教えてもらい、自分の気持ち・希望・意見を伝える権利
 子どもは、自分の理解力に応じた予防接種の説明を受ける権利があります。それに対して「嫌だ」という権利もあります。嫌だという思いを頭ごなしに否定してはいけません。

 5. 希望どおりにならなかったときに理由を説明してもらう権利
 子どもが「嫌だ」と言っても予防接種は必要です。なぜ必要なのか、分かりやすい説明を受ける権利があります。こういったお話を子どもとしっかりすることが大切です。

医療における子ども憲章(日本小児科学会HPより)

医療における子ども憲章(日本小児科学会HPより)

https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=143


 子どもには予防接種を受ける権利があるだけではなく、説明を受け、話し合いを繰り返して、子どもなりに理解して、安全・安心な環境の中で予防接種を受ける権利があります。ぜひご自宅で、予防接種に関して子どもに丁寧にお話ししてみてください。(国立成育医療研究センター・窪田満)


窪田満(くぼた・みつる)
 国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長。
 1986年北海道大学医学部医学科卒。専門は小児科、小児総合診療(成人移行支援、小児在宅医療など)。医学博士、日本小児科学会小児科専門医、「子どもの心」相談医。日本小児科学会理事。

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