こちら診察室 介護の「今」

在宅ターミナルでの選択 第36回

 ◇白羽の矢

 娘は母親の看病の際、特に本人の体が急速に衰弱していく終末期において、あたふたとわれを忘れてしまった苦い思い出がある。

 「今度は、母親の時のような間違いはしたくない」と強く思った。

 そのために重要なのは、相談できる専門家の存在だと思っている。まずは、今回の入院前から在宅介護で世話になっているケアマネジャーに白羽の矢を立てた。

 病院の相談室で「父親にはもう、あんな思いはさせたくないの」と言ったと時、「その方法を探すお手伝いをさせていただきます」と機敏に返したケアマネジャーの言葉に、何よりも頼もしさを感じたからだ。

 ◇今の在宅医療事情

 その後、何度かケアマネジャーと相談した結果、娘には今の時代の在宅医療事情が分かってきた。

 ▽母親をみとった15年前に比べ、訪問診療医はかなり増えてきた。

 ▽「病院から在宅へ」という流れがあり、訪問診療に手厚い報酬が付くようになったのが大きな理由だ。

 ▽その結果、訪問診療医は玉石混交ともいえる時代になってきた。極端な場合、みとりまで責任を持たず、訪問診療医がいるのにもかかわらず、警察や検察が介入する検視(検案事例)になるケースがあるという。

 ▽痛みを緩和する投薬などについても、腕の良しあしの差は大きい。

 ▽在宅ターミナルでは、訪問診療医とともに訪問看護ステーション選びが重要だ。

 ▽訪問看護ステーションもさまざまで、在宅ターミナルに定評があるところと、そうでないところがある。

 ▽ 在宅ターミナルに当たっては、しゃくし定規な「指導」ではなく、本人や家族の意向を尊重する「柔軟性」が大切だ。

 ▽柔軟な対応は、本人や家族の「生活の質」に直結する。「柔軟性」を可能にするのは、高い看護技術と職業倫理だ。

 本人や家族の精神的なサポートまでを自分たちの重要な仕事として取り組む訪問看護ステーションを選ぶかどうかで、在宅ターミナルの質は大きく変わってくる。

 娘はケアマネジャーの助言を得ながら、まずは、有能で信頼できる訪問看護ステーション選びから始めることにした。(了)

 佐賀由彦(さが・よしひこ)
 1954年大分県別府市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。フリーライター・映像クリエーター。主に、医療・介護専門誌や単行本の編集・執筆、研修用映像の脚本・演出・プロデュースを行ってきた。全国の医療・介護の現場を回り、インタビューを重ねながら、当事者たちの喜びや苦悩を含めた医療や介護の生々しい現状とあるべき姿を文章や映像でつづり続けている。中でも自宅で暮らす要介護高齢者と、それを支える人たちのインタビューは1000人を超える。

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