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白内障手術どこで受ける?
~医療機関選ぶポイント~ 【第9回】

 ③正確な検査

 屈折精度の向上に向けては、角膜の形状と眼軸長(角膜から網膜までの距離)の正確な測定が基本となります。

 角膜形状解析においてはTOMEY社のCASIA2やHeidelberg社のAnterion、OCULUS社のPentacamに相当するレベルの機器が導入されているかが重要です。これらは後に紹介する眼軸長測定装置の精度向上にも役立つほか、老視矯正レンズの適否の判断には必須となります。

 眼軸長測定装置は大きく分けると光学式と超音波式があります。現在は大半の施設で光学式が採用され、超音波式の使用は日本国内の医療機関では10~20%という報告があります。超音波式は光学式と比べ、操作した人による違いも含め測定誤差を生じやすいので、成熟白内障など光学式では測定不能な場合以外は使用しない方がよいでしょう。

 現在、主に使用されている光学式装置はTOMEY社のOA2000、Alcon社のARGOS、ZEISS社のIOLマスター700です。眼軸長測定装置(理想としては2台)で得られた角膜のデータと角膜形状解析装置の結果を比較し、測定結果に相違がないことを確認すれば、手術前検査の精度は飛躍的に向上します。

 角膜の計測に特化した前眼部OCTと眼軸長測定装置の複合機としてはPentacam AXL Waveがありますが、あまり良い結果が得られていないようです。ただ今後、オーストラリアのCylite社が開発している複合機が世界販売を控えているとの情報もあり、手術前検査はさらに大きく進化していきそうです。

 屈折精度でもう一つ重要なのが乱視矯正です。これにはイメージガイドシステムが欠かせず、Alcon社のVERIONやZEISS社のCALLISTO eyeが利用されています。高額なので、どの医療施設にもあるというわけではありません。ない場合には、顕微鏡を使って同等の乱視矯正効果を得る手法もあります。前回の連載で紹介した手術中波面収差解析装置が導入されていると、屈折精度はさらに高まります。

 ④適切なレンズ選択

 ここまでに紹介してきたさまざまな機器を駆使すると、安全性と屈折精度の大幅な向上は間違いないでしょう。しかし、精度をいくら高めても、皆さんの暮らしを豊かにする見え方を実現するためには、手術前、手術後、10年後、20年後の生活ぶりをイメージした焦点距離の決定が欠かせません。

 「遠くか近くのどちらに焦点が合う方がいい?」「いま近視だから手術後も近視を残すようにするね」「老視矯正レンズなんて良くないよ」などと、医師は自らの先入観や主観的な考えを押し付けるべきではありません。患者さんの生活実態を把握した上で術後の見え方の選択肢を提示し、希望をいかにかなえていくかを考えることが、最終的な手術の成功に結び付くとみられます。

 ◇効率重視行き過ぎか

 今回は、医療機関選びのポイントについて話を進めてきましたが、これらすべてを実践している医療機関は残念ながら多くはありません。診療報酬が固定されている一方、人件費や消耗品などの価格が高騰し、医療機関の収益が悪化しているからです。

 1件当たりの利益が下がれば、効率性を重視せざるを得ないのは当然かもしれません。しかし、営利を目的にしてはいけないという医療機関の大原則に立ち返ったとき、現在の白内障手術を取り巻く問題の根源には過度な効率性重視があると感じます。

 最後に①~④に優先順位を付けてみます。全てが重要ではありますが、あえて言えば ③ = ④ > ② > ① ではないでしょうか。参考になれば幸いです。(了)

渡邊敬三院長

渡邊敬三院長


渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
 近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。じぇう
 診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。

【参照】
Cox JT et al. Ophthalmology. 2019 Nov;126(11)
Modjtahedi BS et al. Ophthalmology. 2019 Mar;126(3) 
Ang RET et al. BMC Ophthalmol. 2024 Sep 19;24(1)

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