ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界

補正レンズ選択に難しさも
~日常生活用なら色合い抑え目~ 【第3回】

 こんにちは、長瀬です。皆さんは眼鏡を作るとき眼科に行きますか、それとも眼鏡店に行きますか。2014年の統計データを見ると、まず眼科に行ってからという人は少なく、最初から眼鏡店に行く人が85%と大半を占めています。眼科も眼鏡店も経験した私からすると、両者のメリットは少し違います。疾患の発見や検査に関して、眼鏡店は医療にかないません。ただ、新商品やいろいろなレンズを試せるという面では眼鏡店が優位にあります。今回お話しするのは、眼科ではなかなか試せないレンズでお客さまに喜んでいただき、「眼鏡士で良かった!」と心から思えた経験談です。

 ◇真っ赤で使えず

 皆さんの周りにも、「実は色弱です」という知り合いがいるのではないでしょうか。男性の20人に1人ですから、満員のバスに乗ると1人ぐらいいます。また、眼鏡に詳しい人は「色弱を補正できるメガネがある」と聞いたことがあるかもしれません。大手眼鏡チェーン店が大々的に販売している「ネオダルトン」の色覚補正レンズがそうです。私が現在働いている店では、さまざまな理由によりこのレンズを扱っていません。私自身もその種の補正レンズを使用・所持していません。理由は後日、色覚補正レンズの仕組みとともに詳しくお話ししたいと思います。

 私が働いている眼鏡店には不定期更新のブログやコラムがあります(筆者略歴に店のアドレスがありますので、気になる人はのぞいてみてください)。今回の連載記事ほど細かくはありませんが、色覚について書いています。

 先日、そのコラムの読者から問い合わせがありました。お子さんが色覚特性を持っていて、私と同じように度合いが強い(色の認識がかなり苦手)ということです。他店で色覚補正レンズを買ったようですが、レンズカラーの赤が濃過ぎて普段は使えないとのお話でした。もっと透明に近く、日常生活で支障なく使えるものを探していたところ、ブログで私が自身の使用する別のレンズを紹介していると知り、相談に及んだわけです。

 色覚補正のレンズはネオダルトン社のものだけではありません。同社の製品に限らず、色覚のずれが強い人だと仕上がったレンズは真っ赤になってしまいます。その場合、普段の使用や仕事用には向きません。

 想像してみてください。吉祥寺でおしゃれな眼鏡店を発見。のぞいてみたら、真っ赤なギラギラのサングラスを掛けたカジュアル過ぎるおじさん店員が「いらっしゃいませ」と言っている光景を。「すごい店に入ってしまった」と後悔すると思います。写真を見れば分かりますが、接客業の私が仕事で必要だからといって店頭で使えるものではありません。最近では照り返し(ギラギラ感)を改善したレンズも出ましたが、金額も少し張ります(写真のレンズはPIRESTPNE社、PROTAN用)。

 ◇透明商品いろいろ

 私が持っているレンズは以下の3種類。どれもほぼ透明です。
 ①加齢性色覚変化に対応したNikonの「シーネクストルビーコート」(https://www.nikonlenswear.com/jp/eyewear/seecoat-next-ruby/)
 ②コントラストアップを目的とし、視界が明るくなるKodakの「シーコントラスト」(http://sajapan.jp/products/antiglare.html)
 ③光の量を変えずに光を和らげる青山眼鏡の「b.u.iネッツペックコート」(https://aoyamaopt.co.jp/group/bui.php)

 上記のように、色覚のずれをマイルドにしてくれる透明なレンズはいろいろあります。ただ当然ですが、これらは先天性色覚特性の補正用に作られたものではないので、ネオダルトン社製と比べれば補正効果は落ちます。

 お客さまとスケジュール調整後、私が紹介していたこれらのレンズを実際に試していただくことになりました。その結果、お客さまは上記Kodakのシーコントラストという薄紫のレンズの購入を決定。シーコントラストの強化版、ネオコントラストもかなり具合が良かったようですが、今回は普段使えることが最優先でした。シーコントラストの実物はこんな感じ(写真)です。黒のフレームに入れると全く分からなくなります。

 一つ残念なのは、私がこのお客さまの顔を知らないことです。居住地が関東圏ではなく遠方だったので、近所の店を探して協力を仰ぎ、体感していただきました。従って、選んだレンズを手にした時の「笑顔」を見ていません。本当に残念です。

 ◇きれいな服でおしゃれ

 その日の終わりに、お母さまから「紹介していただいた店で購入が決まりました」とお礼の電話がありました。レンズが決まり、お子さまがこう話したそうです。「この眼鏡ができたら服を買いに行きたい」。今回のお客さまは非常に珍しい、女性の色覚特性だったのです。男性は20人に1人と書きましたが、女性は500人に1人と言われています(詳述しませんが、男女差は遺伝的要因によります)。私自身は服の色に興味がない青春時代を送っていたので、話を聞いた時は大きな衝撃を受けました。

 きれいな色の洋服を買っておしゃれを楽しむという、みんなが当たり前にしていることができない。特に若い女性にとって、こんなに苦しいことがあるでしょうか。私はその一言で感極まり、店のカウンターで目を潤ませてしまいました。「私がメガネ屋をやっている意味があった」。この文章を入力している今も涙腺が大活躍です。物をしっかり見たいときのために、いずれネオコントラストのレンズも購入したいと話していたとも聞きました。その際は一番かわいい服で吉祥寺に遊びに来てほしい。そうなったら私はまた泣いてしまうでしょう。

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