誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)〔ごえんせいはいえん(えんげせいはいえん)〕 家庭の医学

 誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液(だえき)、胃液が誤って気管や肺に入り(誤嚥)、そこで細菌が増殖して起こる肺炎です。日本呼吸器学会『成人肺炎診療ガイドライン2024』では「誤嚥のリスクがある宿主に生じる肺炎」と定義されています。
 2022年には全死亡の3.6%、その99%が65歳以上でした。入院を要する市中肺炎の約6割、また院内発症の肺炎の約9割を占めるといわれており、脳血管障害や認知症、寝たきりの状態の患者さんが合併することが多く、そのまま重症化の危険因子となります。市中肺炎で誤嚥性肺炎と診断された場合、30日以内の死亡率が約3.5倍に上昇するともいわれ、早期予防が不可欠と考えられています。

[原因]
 以下のようなことが原因として考えられています。
・嚥下機能の低下:加齢、脳卒中後遺症、パーキンソン病などでのみ込む力が弱まります。
・せき反射の低下:むせても十分にせきをすることができません。
・口腔内細菌の増加:歯みがき不足や乾燥で細菌がふえ、肺へ落ち込みやすくなります。
・胃食道逆流・嘔吐:夜間の逆流や嘔吐(おうと)物を誤嚥して気道が傷つきます。
・体力・栄養の低下:筋力が落ち、姿勢保持やせき自体が困難になります。

[症状]
・急性型:大量誤嚥で突然むせ込み、激しいせき・息苦しさ・高熱が出ます。
・慢性型:少量誤嚥をくり返すと、せきやたん、微熱、倦怠(けんたい)感がじわじわ続きます。高齢者では熱が出ず、「ぼんやりする」「日中よく眠る」など症状が軽微な例もあります。

[診断]
 胸部X線などの画像検査で肺炎の影を確認し、症状経過や誤嚥のリスクなどを総合して診断します。

[治療(急性期)]
 抗菌薬で炎症を抑えるのが基本ですが、治療後の再発予防がきわめて重要です。

[予防と日常ケア]
・食事の工夫:一口を少なめにゆっくり、飲み物にとろみをつけます。
・姿勢:食後1~2時間は座ります。
・口腔ケア:毎食後の歯みがき・義歯清掃も重要です。
・嚥下リハビリ:言語聴覚士の指導でのみ込む筋力を鍛えます。
・体力づくり:可能な範囲で散歩や筋トレをおこない、全身の筋力と食欲を保ちます。

[予後]
□抗菌薬治療の限界と根本原因としての嚥下機能の低下
 誤嚥性肺炎はあくまで「誤嚥のリスクがある宿主に生じる肺炎」であり、加齢や脳血管障害などによる全身機能・嚥下機能の低下といった「誤嚥のリスク」が根本原因です。抗菌薬は肺の炎症を抑える手段にすぎず、のみ込む力を改善・維持しなければ再発をくり返します。
・むせ込み増加は発症・再発サイン:臨床現場では早期受診と専門リハビリ相談が推奨されます。

□誤嚥性肺炎と“老衰としての肺炎”――治療方針を決めるポイント
 嚥下機能が大きく低下し、誤嚥性肺炎をくり返す段階は、ガイドラインでも「老衰の終末期」に位置づけられることがあります。ここで鍵になるのが 「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」――患者さん・家族・医療者が「どう生きたいか」を共有し、最適な医療・ケアを選ぶ対話の場です。

●ACPにもとづく誤嚥性肺炎の治療方針選択
―患者さんの価値観を尊重したアプローチ―
選択肢具体的な内容目的
症状緩和を
優先
抗菌薬や人工呼吸器は最小限にし、呼吸困難・不安をやわらげる緩和医療を中心におこなう苦痛を抑え、穏やかな時間を過ごす
延命を重視従来どおりの抗菌薬治療や支持療法を継続可能な限り寿命を延ばす


 いずれを選ぶ場合も、患者さんの価値観と生活の質(QOL) を最優先に、多職種チームで合意を形成することがガイドラインで推奨されています。
 治療を「おこなわない」というより、「どう生きたいか」を軸に最善の方法を一緒に探す――これが現代的な誤嚥性肺炎との向き合いかたです。

■自分と家族を守るために
 誤嚥性肺炎はのみ込む力の衰えがもたらす肺炎です。
1.早期にむせ込みサインを捉える
2.口腔・嚥下ケアで予防する
3.ACP を活用し、自分らしい医療を選ぶ
 これらを知っておくことで、自分や家族の暮らしを守ることができます。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 助手〔呼吸器内科学〕 田辺 悠記)
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