誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)〔ごえんせいはいえん(えんげせいはいえん)〕 家庭の医学

 誤嚥により異物が気管支や肺に侵入した結果、肺に感染を起こし肺炎がひき起こされたものを誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)と呼びます。

[原因]
 嚥下(えんげ:食物などの飲み込み)を円滑におこなうための機能として嚥下反射があり、異物が気管支の中へ侵入するのを阻止する防御能としてせき反射があります。高齢者では、脳血管障害、中枢神経障害が生じ、これらの防御能が破綻していることが多くみられます。75歳以上の肺炎の約80%が誤嚥性肺炎といわれています。
 これらの障害によって、自覚症状がないままに口腔(こうくう)内残留物が持続的に気管支内へ吸引された結果、細い気管支を中心に炎症がおこることがあります。さらに、これらの炎症が進展すれば、肺炎として胸部X線検査で陰影を示すことになります。
 また、高齢者では、胃の内容物を嘔吐(おうと)して誤嚥した場合には、ぜんそくに似た気管支の攣縮(れんしゅく:収縮)が生じて気管支の閉塞あるいは肺炎をひき起こし、致死的な低酸素血症となることもまれではありません。
 吐物を誤嚥した際の気管支や肺の炎症には、直接の化学物質による傷害のほかに炎症性サイトカインの関与も指摘されています。

[症状][診断]
 大量の誤嚥では息苦しさが突然起こり、発熱や低酸素血症を示すチアノーゼがみられます。少量ずつ回数を多く誤嚥をくり返して発症する例では、せき、発熱、うみのようなたん、息苦しさが数日から数週間を経て出現してきます。しかし、高齢者の肺炎では熱がなく、意識障害や眠る傾向がおもな症状となっていることがあり、病気の発見が遅れることもあるので注意が必要です。
 胸部X線検査やCT検査をすれば、肺炎に特徴的な浸潤(しんじゅん)影がみられます。また、進行した場合には、肺内にうみが貯留したり胸膜炎や膿胸(のうきょう)になったりします。

[治療]
 病原体の検出が理想的ですが、実際には肺内の病巣部から検体を採取することは困難なので、発病の原因となる菌を想定して抗菌薬を使用します。
 誤嚥性肺炎の原因となる嚥下物の供給源としては、経口摂取された食物や口腔内の残留物、胃内容物の逆流などがあげられます。
 したがって、感染予防対策として以下のような工夫が必要です。
 1.歯みがき等の日常的口腔ケアの励行
 2.う歯や歯周病のケア
 3.汁物や飲み物にとろみをつける(とろみの程度は飲み込み力に応じて変更)
 4.一口の食物摂取量を少なめに、ゆっくり食べる(固形物は小さく切るなど食べやすい工夫を)
 5.食物を複数回に分け嚥下、食事の最後に飲み物を飲んで、のどに残った食物を流す
 6.食後に座位の体位を2時間程度とる
 また、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬は、低下したせき反射を活性化させる効果のあることから予防的に使用する試みがなされています。

(執筆・監修:順天堂大学大学院医学研究科 講師〔呼吸器内科学〕 市川 昌子)
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