腹壁の構造とヘルニア

 腹壁の筋層は正面(正中部)と側腹部とで構造が異なります。腹壁の正面には、左右の腹直筋という細長い筋肉が縦に走っていて、その中央には白線という強い連結部があります。左右の側壁はそれぞれ外側から内側に向かって外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋という3層の筋肉があります。腹横筋の内側は横筋筋膜という膜で裏打ちされ、さらに腹膜という薄い膜がいちばん内側にあります。この腹膜に包まれている部分を腹膜腔・腹腔(ふくくう)と呼び、胃や小腸・大腸、肝臓などのいわゆる内臓は、この腹膜に包まれた空間(腹腔)の中にあります。

 腹壁はこのように多数の筋肉や構造があるため、そのつなぎ目の部分などに弱いところができて、腹腔内の臓器が腹膜におおわれた状態で突出することがあります。その際、腹部の表面からは皮膚が膨隆した(ふくらんだ)ように見えます。このような状態をヘルニアと呼びます。ヘルニアとは、本来臓器または組織の一部が本来の位置からすきまを通って脱出することを意味することばで、腹壁以外では、椎間板が脱出する椎間板ヘルニア、脳が頭部から脱出する脳ヘルニアなどがあります。腹壁にみられるヘルニアでは、鼠径(そけい)部が膨隆する鼠径ヘルニア、鼠径部よりやや下の大腿の付け根の部分に膨隆がみられる大腿ヘルニア、臍部が膨隆する臍ヘルニアなどの頻度が高く、白線にみられる白線ヘルニア、手術の後にみられる腹壁瘢痕ヘルニア、その他のまれなヘルニアがあります。脱出する臓器の多くは腸管で、腸管が脱出するので「脱腸」と呼ばれることもあります。

(執筆・監修:自治医科大学附属病院 病院長/自治医科大学外科学講座 教授〔消化器外科学〕 佐田 尚宏