運動と高血圧 家庭の医学

 運動中に血圧は上昇します。歩行・走行などのような律動的な運動(動的な運動)では、収縮期血圧は上昇しますが拡張期血圧は不変かわずかに低下します。これに対して重量挙げや綱引きのような筋肉を緊張させる静的な運動では収縮期血圧、拡張期血圧ともにいちじるしく上昇します。
 いっぽう、軽症高血圧の患者が運動療法をおこなうと、時間経過により安静時の血圧が低下していきます。低下の程度はそれほど大きくはなく、せいぜい20~30mmHg程度です。ですから、軽症高血圧の場合は運動療法によって正常血圧に戻ることもありますが、中等度以上の高血圧では運動だけで正常血圧までもっていくことは不可能で、薬物療法を併用する必要があります。しかしながら、運動療法を併用することによって薬剤の量を減らすことができますし、また運動には肥満脂質異常症の是正など多くの利点がありますので、高血圧に対する運動療法はそれなりの意味をもっているといえます。
 規則的な運動をすることで血圧が下がるしくみは複雑でよくわかっていませんが、基礎の交感神経の緊張が低下すること、循環血液量が減少すること、レニン・アンジオテンシン系という血圧上昇に関連する内分泌系のはたらきを抑制すること、動脈の伸展性が増大することなど、いくつかの要因の複合的な結果であろうと推測されています。ただし、運動をやめるとまた血圧は上がってきますので、運動の習慣が重要であるということになります。そのためには週2~3回、1回あたり30分以上の軽い運動をする習慣をつけるとよいといわれています。

(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)