運動と心臓病 家庭の医学

 運動をすることによって、心臓、肺、筋肉などの臓器や器官の機能が発達し、その結果として健康人のみならず、心臓病患者においても運動能力が増加します。運動能力の指標として、最大酸素摂取量ということばがあります。これは「これ以上できない」という最大の運動をしたときに、人間がからだに取り込むことのできる酸素の量を意味しており、持久的な体力のもっともよい指標です。運動あるいはトレーニングをおこなうことによって、この最大酸素摂取量は飛躍的に増加します。
 また運動トレーニングによって、一定のそれほどきつくない運動をしたときの脈拍数や血圧が低下します。すなわち、運動をしたときに心臓が余力をもって対応できるようになります。
 これらの結果、たとえば狭心症がある患者では、運動時の心拍数や血圧が下がるために心筋が要求する酸素の需要が減少し、狭心症発作の閾値(いきち:発作が起こる最小の強度)が上昇します(つまり発作が起こりにくくなります)。このほかにも、つまった冠動脈に対する自然のバイパス(側副血行)を増加させることが示唆されており、これも狭心症の発作閾値を高めるのに重要な役割を果たします。
 さらに、肥満脂質異常症高血圧糖尿病などの動脈硬化の危険因子を是正することで、心筋梗塞の発生や再発による死亡が減少することが、大規模な臨床研究の結果、証明されています。

(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)