高血圧
■病気の特徴
血圧は暑さ・寒さ、精神的緊張、運動、喫煙、飲酒などさまざまな状況でたえず変化しています。たとえば睡眠不足や緊張・不安、寒い季節、運動などでは血圧は上昇しますし、逆にあたたかい季節や睡眠中などでは血圧は低下します。
また、病院や職場だけではなく、自宅での血圧をチェックすることも重要です。家庭でリラックスしているときの血圧は正常なのに、病院で医師や看護師にはかってもらうと緊張のために血圧が上がってしまう、ということもよく経験します。このような高血圧のことを白衣高血圧と呼んでいます。いっぽう、病院ではかった血圧は正常なのに自宅ではかった血圧が高い場合もあり、“仮面高血圧”と呼ばれ、そのなかでも夜間から早朝にかけて高い夜間高血圧や早朝高血圧では、脳卒中や心臓病のリスクが増加します。
高血圧基準値は診察室血圧、家庭血圧、24時間自由行動下血圧で異なり、診察室血圧は140/90mmHg以上、家庭血圧は135/85mmHg以上、24時間自由行動下血圧は130/80mmHg以上の場合が高血圧に該当します。
血圧をどこまで下げるべきか(降圧目標)については75歳未満の成人であれば診察室血圧は130/80mmHg未満、家庭血圧は125/75mmHg未満、75歳以上では診察室血圧は140/90mmHg未満、家庭血圧は135/85mmHg未満、冠動脈疾患患者、たんぱく尿陽性の慢性腎臓病患者、糖尿病患者、抗血栓薬服用中の患者では年齢にかかわらず診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満となります。
■養生のポイント
高血圧は心臓血管系の合併症がないかぎり特別な症状はありません。よく頭痛、めまい、肩こりなどが高血圧の症状と考えている人がいますが、これらは高血圧の症状として出現しているというよりは、肩のこるような生活態度(たとえばストレスの多い生活)が血圧の上昇を招いている可能性があります。自分の生活に血圧を上昇させる要素がないか考えてみるのも大切なことです。
いっぽう、高度の高血圧が長期間続くと、心機能の低下にもとづく症状(労作時の息切れや呼吸困難、不整脈など)や、腎機能の低下に伴う症状(むくみや食欲低下など)が出現することがあります。本態性高血圧の場合、血圧を下げることが治療の最終目的ではなく、血圧を下げることによって心臓や腎臓、あるいは脳の血管性病変の発症を予防し、長寿につなげることが治療の目的です。ですから、長期間にわたる安定した血圧のコントロールが必要となります。
高血圧には特別な症状がないので、治ったと自分で判断して勝手に治療をやめてしまう人をときどき見受けます。高血圧は慢性疾患ですから、服薬して血圧が下がったから治療をやめてよいというものではありません。合併症の発症を防ぐことを目的として、高血圧とじょうずにつきあいながら、気長に治療することが大切です。
軽症高血圧の場合は、食事療法やその他の一般療法で正常血圧に戻ることもあり、必ずしも血圧降下薬を服用する必要はありません。血圧降下薬が必要な場合は、高血圧の程度や症状、副作用などに注意しながらもっとも適した薬を選んで、あるいは組み合わせてもらいましょう。
■生活上の注意
□食事
高血圧の食事の基本は次の3つです。
1.過食を避け、肥満にならないようにする。肥満は血圧を上昇させるばかりでなく、ほかの生活習慣病にも悪影響を与えます。また最近では、インスリンと高血圧の関係があきらかにされており、やせることによってインスリン分泌が少なくなり、血圧が下がるといわれています。
2.食塩をとりすぎないようにし、1日の摂取量を6g未満に抑える努力をします。日本人は平均して約10gの食塩を摂取していますので、思いきった減塩が必要です。
3.動物性脂肪を少なくし、動脈硬化を防ぎます。高血圧は動脈硬化を促進させます。そのため心臓や脳の血管には2重に悪影響を与えます。
高血圧には家族性の発症がありますし、また、食生活は代々にわたって受け継がれます。つまり、食生活は自分自身の問題であると同時に、家族あるいは子孫の問題でもあります。家族全体のことを考えて、食生活を改善しましょう。
□運動
運動は肥満を防ぎ、脂質代謝を改善して動脈硬化を予防し、あるいは軽症高血圧では血圧を正常化させます。適度な運動習慣は高血圧の患者にとってもたいへん重要です。しかし、強すぎる運動や筋力トレーニングは、高血圧にはかえって有害です。歩行のような律動的な運動を30分程度毎日おこなうとよいでしょう。
□ストレス管理
現代社会ではストレスを受けない生活などありません。特に仕事や社会生活にはストレスがあふれていますが、ストレスを上手にコントロールすることが高血圧の治療には重要です。仕事、趣味、娯楽、嗜好などを問わず刺激や興奮の多い生活は避け、十分な睡眠やレクリエーションによってリラックスした生活を心掛けることが大切です。熱いお風呂に入らないとか、急に寒い戸外へ出ないとか、興奮しやすい娯楽や趣味は避けるといった注意も必要ですし、酒もほどほどが肝心です。つまり、万事ゆったりとしたリズムで生活を楽しむことです。
■心構え
高血圧は慢性疾患です。上手につきあい、気長に服薬することによって、合併症の発症を防ぎましょう。心臓病、腎臓病あるいは脳血管障害の発症を予防するには、長期にわたる安定した血圧のコントロールが必要であるということを十分理解し、治療することが肝心です。
服薬のしかたや副作用について医師から十分な説明を聞き、安心して服薬することも大切です。同じ高血圧だからと薬を友人からもらって服用したり、あるいは人にあげたりしないようにしてください。また血圧が下がったからといって薬をやめたり、血圧が下がらないといってこの医者は(薬は)だめだと判断して医者を替えてしまうようなことはやめましょう。血圧は日によって、状況によって上下しますし、安定したコントロールを得るためにはけっこう時間がかかります。
■血圧測定
高血圧の治療に入ったら、近くの医師に定期的(2週間~1カ月に1度)に血圧をはかってもらい、下がりすぎたり、高すぎたりしないようにすることが大切です。
しかし、病院に行ったり、看護師に血圧をはかってもらうと、緊張のためにふだんより上がってしまう人をしばしば見かけます。高血圧は自分の病気ですから、自分でも血圧をはかる習慣をつけましょう。
最近の研究では、家庭での血圧測定の重要性があきらかになっています。現在いろいろな家庭血圧計が市販されていますので、正しく使えば正確な血圧がはかれます。ただし、血圧というのは常に変動しており、はかるたびに違うものであり、できれば毎日一定の条件のもとに測定して、その数値を比較するようにします。日本高血圧学会では、家庭血圧測定には上腕カフ血圧計を用い、原則2回測定し、その平均値をそのときの血圧値として用いる方法を推奨しています。
【参照】血圧・血管の病気:高血圧、血圧のはかりかた
(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)
血圧は暑さ・寒さ、精神的緊張、運動、喫煙、飲酒などさまざまな状況でたえず変化しています。たとえば睡眠不足や緊張・不安、寒い季節、運動などでは血圧は上昇しますし、逆にあたたかい季節や睡眠中などでは血圧は低下します。
また、病院や職場だけではなく、自宅での血圧をチェックすることも重要です。家庭でリラックスしているときの血圧は正常なのに、病院で医師や看護師にはかってもらうと緊張のために血圧が上がってしまう、ということもよく経験します。このような高血圧のことを白衣高血圧と呼んでいます。いっぽう、病院ではかった血圧は正常なのに自宅ではかった血圧が高い場合もあり、“仮面高血圧”と呼ばれ、そのなかでも夜間から早朝にかけて高い夜間高血圧や早朝高血圧では、脳卒中や心臓病のリスクが増加します。
高血圧基準値は診察室血圧、家庭血圧、24時間自由行動下血圧で異なり、診察室血圧は140/90mmHg以上、家庭血圧は135/85mmHg以上、24時間自由行動下血圧は130/80mmHg以上の場合が高血圧に該当します。
血圧をどこまで下げるべきか(降圧目標)については75歳未満の成人であれば診察室血圧は130/80mmHg未満、家庭血圧は125/75mmHg未満、75歳以上では診察室血圧は140/90mmHg未満、家庭血圧は135/85mmHg未満、冠動脈疾患患者、たんぱく尿陽性の慢性腎臓病患者、糖尿病患者、抗血栓薬服用中の患者では年齢にかかわらず診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満となります。
■養生のポイント
高血圧は心臓血管系の合併症がないかぎり特別な症状はありません。よく頭痛、めまい、肩こりなどが高血圧の症状と考えている人がいますが、これらは高血圧の症状として出現しているというよりは、肩のこるような生活態度(たとえばストレスの多い生活)が血圧の上昇を招いている可能性があります。自分の生活に血圧を上昇させる要素がないか考えてみるのも大切なことです。
いっぽう、高度の高血圧が長期間続くと、心機能の低下にもとづく症状(労作時の息切れや呼吸困難、不整脈など)や、腎機能の低下に伴う症状(むくみや食欲低下など)が出現することがあります。本態性高血圧の場合、血圧を下げることが治療の最終目的ではなく、血圧を下げることによって心臓や腎臓、あるいは脳の血管性病変の発症を予防し、長寿につなげることが治療の目的です。ですから、長期間にわたる安定した血圧のコントロールが必要となります。
高血圧には特別な症状がないので、治ったと自分で判断して勝手に治療をやめてしまう人をときどき見受けます。高血圧は慢性疾患ですから、服薬して血圧が下がったから治療をやめてよいというものではありません。合併症の発症を防ぐことを目的として、高血圧とじょうずにつきあいながら、気長に治療することが大切です。
軽症高血圧の場合は、食事療法やその他の一般療法で正常血圧に戻ることもあり、必ずしも血圧降下薬を服用する必要はありません。血圧降下薬が必要な場合は、高血圧の程度や症状、副作用などに注意しながらもっとも適した薬を選んで、あるいは組み合わせてもらいましょう。
■生活上の注意
□食事
高血圧の食事の基本は次の3つです。
1.過食を避け、肥満にならないようにする。肥満は血圧を上昇させるばかりでなく、ほかの生活習慣病にも悪影響を与えます。また最近では、インスリンと高血圧の関係があきらかにされており、やせることによってインスリン分泌が少なくなり、血圧が下がるといわれています。
2.食塩をとりすぎないようにし、1日の摂取量を6g未満に抑える努力をします。日本人は平均して約10gの食塩を摂取していますので、思いきった減塩が必要です。
3.動物性脂肪を少なくし、動脈硬化を防ぎます。高血圧は動脈硬化を促進させます。そのため心臓や脳の血管には2重に悪影響を与えます。
高血圧には家族性の発症がありますし、また、食生活は代々にわたって受け継がれます。つまり、食生活は自分自身の問題であると同時に、家族あるいは子孫の問題でもあります。家族全体のことを考えて、食生活を改善しましょう。
□運動
運動は肥満を防ぎ、脂質代謝を改善して動脈硬化を予防し、あるいは軽症高血圧では血圧を正常化させます。適度な運動習慣は高血圧の患者にとってもたいへん重要です。しかし、強すぎる運動や筋力トレーニングは、高血圧にはかえって有害です。歩行のような律動的な運動を30分程度毎日おこなうとよいでしょう。
□ストレス管理
現代社会ではストレスを受けない生活などありません。特に仕事や社会生活にはストレスがあふれていますが、ストレスを上手にコントロールすることが高血圧の治療には重要です。仕事、趣味、娯楽、嗜好などを問わず刺激や興奮の多い生活は避け、十分な睡眠やレクリエーションによってリラックスした生活を心掛けることが大切です。熱いお風呂に入らないとか、急に寒い戸外へ出ないとか、興奮しやすい娯楽や趣味は避けるといった注意も必要ですし、酒もほどほどが肝心です。つまり、万事ゆったりとしたリズムで生活を楽しむことです。
■心構え
高血圧は慢性疾患です。上手につきあい、気長に服薬することによって、合併症の発症を防ぎましょう。心臓病、腎臓病あるいは脳血管障害の発症を予防するには、長期にわたる安定した血圧のコントロールが必要であるということを十分理解し、治療することが肝心です。
服薬のしかたや副作用について医師から十分な説明を聞き、安心して服薬することも大切です。同じ高血圧だからと薬を友人からもらって服用したり、あるいは人にあげたりしないようにしてください。また血圧が下がったからといって薬をやめたり、血圧が下がらないといってこの医者は(薬は)だめだと判断して医者を替えてしまうようなことはやめましょう。血圧は日によって、状況によって上下しますし、安定したコントロールを得るためにはけっこう時間がかかります。
■血圧測定
高血圧の治療に入ったら、近くの医師に定期的(2週間~1カ月に1度)に血圧をはかってもらい、下がりすぎたり、高すぎたりしないようにすることが大切です。
しかし、病院に行ったり、看護師に血圧をはかってもらうと、緊張のためにふだんより上がってしまう人をしばしば見かけます。高血圧は自分の病気ですから、自分でも血圧をはかる習慣をつけましょう。
最近の研究では、家庭での血圧測定の重要性があきらかになっています。現在いろいろな家庭血圧計が市販されていますので、正しく使えば正確な血圧がはかれます。ただし、血圧というのは常に変動しており、はかるたびに違うものであり、できれば毎日一定の条件のもとに測定して、その数値を比較するようにします。日本高血圧学会では、家庭血圧測定には上腕カフ血圧計を用い、原則2回測定し、その平均値をそのときの血圧値として用いる方法を推奨しています。
【参照】血圧・血管の病気:高血圧、血圧のはかりかた
(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)