エネルギー産生栄養素バランス
栄養素のうち、たんぱく質、脂質、炭水化物(おもに糖質)の3つの栄養素だけがエネルギーになります。エネルギー量は1gあたりそれぞれ4kcal、9kcal、4kcalで、脂質は、ほかの2つの栄養素とくらべて高くなります。
エネルギー産生栄養素バランスは、総エネルギーがたんぱく質(protein)、脂質(lipid)、炭水化物(carbohydrate)から、どのくらいの比率でエネルギーをとっているかを示すもので、それぞれの頭文字をとって、PFCバランスといわれます。2つめの脂質が、「L」ではなく、「F」になっているのは、食品からとる脂質の多くは脂肪であり、食品中の脂質は、「fat」といわれる場合が多いため、「F」になっています。
生活習慣病予防においては、この比率が大切となります。基準となる値は、表のとおりです。
■たんぱく質
たんぱく質の食事摂取基準は、推定平均必要量を求め、ほとんどの人に不足の状態が起こらないようにするために、「推奨量算定係数」の1.25を掛けた数値を示しています。
たんぱく質の過剰摂取は、動物性脂肪摂取の過剰を招きやすいことや、腎臓への負荷が大きいため、望ましいことではありません。いっぽうでは、不足は低栄養、特に高齢者ではフレイルおよびサルコペニアの発症リスクを高めるとされています。生活習慣病やフレイルの発症予防を目的とする場合には目標量を満たす必要があります。目標量はおおむねの数値を示したものであり、弾力的に運用します。数値はエネルギー比率(%エネルギー)で示されて、総エネルギーの13~20%となっています。実際の目標量(たんぱく質の量:g)は、次の式で求めることができます。
総エネルギー(摂取エネルギー)×(0.13~0.20)÷4kcal
0.13~0.20を掛けてエネルギーを求めます。
4kcalで割るのは、たんぱく質は、1gあたり4kcalのエネルギーですので、たんぱく質量(g)に換算するためです。
たんぱく質のとりかたを考えるときに、どんな食品からとるのかも、重要となります。たんぱく質は、アミノ酸という物質が鎖のように連なってできています。筋肉、血液、ホルモンなどは、このアミノ酸の種類と連なりかたが違って、それぞれの性質が決まっています。人間のからだのアミノ酸は20種類のアミノ酸から成り立っています。
アミノ酸は、体内の必要量に応じて、からだのなかで、他のアミノ酸につくり変えることができますが、体内でつくることができないアミノ酸を、必須アミノ酸(トレオニン〈スレオニン〉、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニールアラニン、トリプトファン、リシン〈リジン〉、ヒスチジンの9種類)といい、これは食品からとる必要があります。
通称的ないいかたとして、「いいたんぱく質」いう言葉がありますが、これは必須アミノ酸を多く含む食品のたんぱく質をいいます。しかし、栄養学的には、「たんぱく価」が高い食品が、「人にとってよいたんぱく質を含んだ食品」で、単に必須アミノ酸が多いだけではなく、からだが必要としているアミノ酸の構成割合に近い食品をいいます。鶏卵、牛乳、魚肉類などの動物性食品、豆類のなかでも、大豆に必須アミノ酸が多く含まれています。
ただし、たんぱく価は、1食に食べる食事の食品の組み合わせかたでも、よくすることができます。穀類は、リシンというアミノ酸が少ないですが、リシンの多い動物性食品を一緒に組み合わせることで、アミノ酸を効率的に利用することができます。最近は、スポーツ栄養、フレイル・サルコペニア予防に有効とし、BCAA(Branched Chain Amino Acid:分枝鎖アミノ酸)として話題になっていますが、これは必須アミノ酸のうちのバリン、ロイシン、イソロイシンで筋肉中に多く含まれているアミノ酸であり、筋肉の合成を促進するアミノ酸として注目されています。
■脂質
脂質の食事摂取基準は、量と質(脂肪酸)の両方が示されています。量はエネルギー比率で示され、総エネルギーに対して、脂質からのエネルギーの割合が、どのくらいになるかを示したものです。1歳以上であれば、年齢・性別による違いはなく、20~30%となっています。これが脂質の量でどのくらいになるかは次の式で求めます。
総エネルギー(摂取エネルギー)×(0.2~0.3)÷9kcal
計算式の意味はたんぱく質の場合と同じですが、脂肪は1gあたり9kcalですので、割る数が9になります。
脂質の場合は、どんな脂質をとるか、すなわち脂質の質が生活習慣病の予防には重要となります。2020年版の食事摂取基準では、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸の摂取基準を表のように示しています。
ここで、簡単に脂質のことを説明します。詳細は、「脂質異常症」の項(高脂血症の食事療法)をご覧ください。脂質は、グリセロールと脂肪酸が結合してできています。私たちが、日常摂取する食品の多くは、グリセロールに3つの脂肪酸がついた中性脂肪(トリグリセリド:トリは3つという意味です)。
脂質の栄養的な役割は、この脂肪酸の種類によって異なります。脂肪酸もたんぱく質と同様に体内でつくることができない必須脂肪酸があり、食事から摂取しなければなりません。必須脂肪酸には、n-6系脂肪酸のリノール酸、リノール酸からつくられるアラキドン酸、n-3系脂肪酸のα-リノレン酸があります。ダイエットで厳しい脂質の制限をおこなう場合でも、必須脂肪酸はとる必要があります。
摂取基準に示されている飽和脂肪酸は、獣鳥肉類に多く含まれ、血清コレステロールをあげるはらたきがあるとされ、とり過ぎを防ぐために、基準値が示されています。必須脂肪酸でもあるn-6系多価不飽和脂肪酸は、大豆や米の脂質、サフラワー油、大豆油、米油に、n-3系多価不飽和脂肪酸は、魚類の脂質、えごま油に多く含まれています。
みなさんのなかには、「トランス脂肪酸がからだにわるい」ということを聞いた人がいるかもしれません。トランス脂肪酸について、食事摂取基準では目標量を定めていません。これは、トランス脂肪酸は冠動脈疾患の危険因子の一つであるものの、その摂取量および健康への影響が飽和脂肪酸とくらべると小さいことが考えられることと、日本人における摂取の実態がわかっていないことを勘案したとし、参考値として1%エネルギー未満にとどめることが望ましいとしています。なお、「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(文部科学省)では、トランス脂肪酸は搭載されていません。トランス脂肪酸は、マーガリン、ショートニング、これを含む食品に含まれていますが、最近では健康志向から各メーカーともトランス脂肪酸の低減に取り組んでいます。食品安全委員会のホームページなどで情報を提供していますので、参考にされるとよいでしょう。
■炭水化物
2020年版の食事摂取基準では、炭水化物についても、食事摂取基準が示されました。この数値もエネルギー比率で示され、1歳以上では、性に関係なく50~65%となっています。炭水化物には、砂糖(ショ糖)、果物に多い果糖のように、単糖類・二糖類といわれる糖質と、穀類やいも類に多いでんぷん(多糖類)がありますが、生活習慣病予防の観点からはでんぷんでの摂取がすすめられます。
■食物繊維
食物繊維は、推奨値が示されていません。食物繊維は、現在、日本人に不足している栄養素と考えられており、目標量が示されています。摂取量を目標量に近づける栄養素として位置づけています。
■ビタミン、ミネラル
これらの栄養素は、栄養素がからだのなかで代謝するとき、細胞・血液・ホルモンなどをつくるときに必要とする栄養素です。ビタミンやミネラルは、個人の体格による違いが示されていませんので、個人の体格を考慮する必要はありませんが、ビタミンの種類によっては、次に述べますように、エネルギー摂取量、たんぱく質摂取量などで考慮を必要とする栄養素もあります。
ここで摂取に考慮を必要とする、おもなビタミン・ミネラルついて説明します。
□ビタミン
ビタミンには、大きく分けて脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンがあります。脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kがあります。水溶性ビタミンにはB1、B2、ナイアシン、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンCがあります。
脂溶性ビタミンは、読んで字のごとく、脂に溶けたかたちで運搬され、過剰に摂取すると肝臓に貯蔵されます。このため、過剰な摂取に気をつけたいビタミンです。特に、妊娠中のビタミンAの過剰な摂取は、胎児に影響が出やすいため、妊娠中の過剰摂取に気をつけましょう。しかし、ビタミンAは胎児に発育には不可欠なビタミンです。ふつうの食事であれば過剰に摂取することはありませんが、サプリメントや健康食品の摂取によって過剰となる可能性があります。
また、ビタミンEは、体内で不飽和脂肪酸(n-3系、n-6系脂肪酸)の酸化を防ぐはたらきがあるので、不飽和脂肪酸をとるときにあわせてとるとよいとされています。ビタミンDは骨の形成に関与し、フレイル・サルコペニア発症予防のビタミンとして重要ではないかといわれているビタミンです*1。
水溶性ビタミンのビタミンB1、B2は、エネルギー代謝に関係しているため、激しい運動などで、エネルギーをたくさんとるときには、一緒にふやす必要があります。
「朝は菓子パンにソフトドリンク、昼はおにぎり、夜はカップラーメン、お腹が空いたらスナック菓子」という食べかたを長く続けると、ビタミンB1不足となってしまいます。ビタミンB6は、アミノ酸代謝に関与しているビタミンです。たんぱく質をたくさんとる必要が生じたときは、同時にB6もとるようにします。
葉酸は、胎児の神経管閉鎖障害の発生の軽減がはかれるビタミンとして、妊娠前後3カ月の期間、付加的にサプリメントや強化食品などを利用して400μg/日の摂取がすすめられています。葉酸は緑黄色野菜に多く含まれています。このほかにも、葉酸には脳卒中や心筋梗塞の予防効果があるとして注目されています。葉酸には、過剰症の問題もありますので、サプリメントや強化食品でとる場合には過剰にならないように注意します。
*1 山田実 : 高齢者のサルコペニアと転倒. 日本転倒予防学会誌 2014; 1: 5-9.
□ミネラル
からだを構成する元素で主要元素(C、H、O、N)以外のものの総称をミネラルといいます。このうち、存在が100mg以上のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンを多量ミネラルといいます。存在が100mg未満のものを微量ミネラルといい、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンなどがあります。ミネラルもビタミンと同様に過剰症のリスクがあり、からだに不可欠なミネラルであっても過剰にとれば、からだに害を及ぼします。
多量ミネラルのナトリウムは、その多くを食塩(NaCl)からとっています。食塩の過剰摂取が、高血圧と関係があることはよく知られていますが、これは食塩の構成成分のナトリウムが、この原因となっている栄養素です。しかし、熱中症の予防などの水分補給に、「Na」の補給が重要といわれているように、少なければ少ないほどいいというものではありません。
令和元年の「国民健康・栄養調査」の結果によると、カルシウムは不足がみられるミネラルです。カルシウムは骨や歯に99%が含まれていて、骨や歯の主要な成分ですが、このほかに、血液のpHの維持や血液凝固にもかかわっています。摂取したカルシウムが吸収されるためには、ビタミンD(魚に多く含まれています)の存在も重要です。骨や歯が形成される成長期には、特に重要なミネラルです。牛乳・乳製品などからカルシウムをとって、骨を使う、すなわち運動が大切です。
微量ミネラルの鉄は、成長期でスポーツに取り組む生徒、若い世代でやせの見られる者に不足が見られやすいとされています。特に生理のある若い女性に、食事摂取基準を満たしていない、イコール「貧血などの健康障害がある」とはいえませんが、鉄欠乏性貧血の予防のためには、ヘム鉄を多く含む動物性たんぱく質(赤身の魚肉類)食品からとると吸収率がよく、すすめられます。
また、激しいスポーツをおこなう選手は、鉄の必要量が増すだけでなく、赤血球が壊れるため貧血になりやすくなります。若い世代で、激しいスポーツをおこなう、特に女性では、鉄欠乏性の貧血には注意が必要です。いっぽう、鉄には過剰症があります。サプリメントや強化食品からとろうとする場合には、過剰症に気をつけます。
このほかには、亜鉛は味覚障害に関係が深いミネラルです。亜鉛は、カキやイカ、レバー、大豆製品に多く含まれています。味覚障害があると、食事がおいしくなくなり、栄養状態の低下を招きます。予防が重要です。
ここでは主要なビタミンやミネラルだけを述べています。言い古されている言葉ですが
ビタミンやミネラルからみても。「からだを動かして、さまざまな食品群から、むらなくしっかり食べる」大切さが、おわかりいただけましたでしょうか。
エネルギー産生栄養素バランスは、総エネルギーがたんぱく質(protein)、脂質(lipid)、炭水化物(carbohydrate)から、どのくらいの比率でエネルギーをとっているかを示すもので、それぞれの頭文字をとって、PFCバランスといわれます。2つめの脂質が、「L」ではなく、「F」になっているのは、食品からとる脂質の多くは脂肪であり、食品中の脂質は、「fat」といわれる場合が多いため、「F」になっています。
生活習慣病予防においては、この比率が大切となります。基準となる値は、表のとおりです。
性別 | 男性 | 女性 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢等 | 目標量1, 2 | 目標量1, 2 | ||||||
たんぱく質3 | 脂質4 | 炭水化物5, 6 | たんぱく質3 | 脂質4 | 炭水化物5, 6 | |||
脂質 | 飽和脂肪酸 | 脂質 | 飽和脂肪酸 | |||||
0~11カ月 1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳 30~49歳 50~64歳 65~74歳 75歳以上 妊 婦 初期 中期 後期 授乳婦 | - 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 14~20 15~20 15~20 - - - - | - 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 - - - - | - - 10以下 10以下 10以下 10以下 10以下 8以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 - - - - | - 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 - - - - | - 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 13~20 14~20 15~20 15~20 13~20 13~20 15~20 15~20 | - 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 | - - 10以下 10以下 10以下 10以下 10以下 8以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 | - 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 50~65 |
1 必要なエネルギー量を確保した上でのバランスとすること。 2 範囲に関してはおおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること。 3 65歳以上の高齢者について、フレイル予防を目的とした量を定めることは難しいが、身長・体重が参照体位にくらべて小さい者や、特に75歳以上であって加齢に伴い身体活動量が大きく低下した者など、必要エネルギー摂取量が低い者では、下限が推奨量を下回る場合があり得る。この場合でも、下限は推奨量以上とすることが望ましい。 4 脂質については、その構成成分である飽和脂肪酸など、質への配慮を十分におこなう必要がある。 5 アルコールを含む。ただし、アルコールの摂取を勧めるものではない。 6 食物繊維の目標量を十分に注意すること。 |
■たんぱく質
たんぱく質の食事摂取基準は、推定平均必要量を求め、ほとんどの人に不足の状態が起こらないようにするために、「推奨量算定係数」の1.25を掛けた数値を示しています。
性別 | 男性 | 女性 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年齢等 | 推定平均 必要量 | 推奨量 | 目安量 | 目標量1 | 推定平均 必要量 | 推奨量 | 目安量 | 目標量1 |
0~5カ月 | - | - | 10 | - | - | - | 10 | - |
6~8カ月 | - | - | 15 | - | - | - | 15 | - |
9~11カ月 | - | - | 25 | - | - | - | 25 | - |
1~2歳 | 15 | 20 | - | 13~20 | 15 | 20 | - | 13~20 |
3~5歳 | 20 | 25 | - | 13~20 | 20 | 25 | - | 13~20 |
6~7歳 | 25 | 30 | - | 13~20 | 25 | 30 | - | 13~20 |
8~9歳 | 30 | 40 | - | 13~20 | 30 | 40 | - | 13~20 |
10~11歳 | 40 | 45 | - | 13~20 | 40 | 50 | - | 13~20 |
12~14歳 | 50 | 60 | - | 13~20 | 45 | 55 | - | 13~20 |
15~17歳 | 50 | 65 | - | 13~20 | 45 | 55 | - | 13~20 |
18~29歳 | 50 | 65 | - | 13~20 | 40 | 50 | - | 13~20 |
30~49歳 | 50 | 65 | - | 13~20 | 40 | 50 | - | 13~20 |
50~64歳 | 50 | 65 | - | 14~20 | 40 | 50 | - | 14~20 |
65~74歳2 | 50 | 60 | - | 15~20 | 40 | 50 | - | 15~20 |
75歳以上2 | 50 | 60 | - | 15~20 | 40 | 50 | - | 15~20 |
妊婦(付加量) 初期 中期 後期 | - - - | - - - | - - - | - - - | +0 +5 +20 | +0 +5 +25 | - - - | 13~20 13~20 15~20 |
授乳婦(付加量) | - | - | - | - | +15 | +20 | - | 15~20 |
1 範囲に関してはおおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること。 2 65歳以上の高齢者について、フレイル予防を目的とした量を定めることは難しいが、身長・体重が参照体位に比べて小さい者や、特に75歳以上であって加齢に伴い身体活動量が大きく低下した者など、必要エネルギー摂取量が低い者では、下限が推奨量を下回る場合があり得る。この場合でも、下限は推奨量以上とすることが望ましい。 |
たんぱく質の過剰摂取は、動物性脂肪摂取の過剰を招きやすいことや、腎臓への負荷が大きいため、望ましいことではありません。いっぽうでは、不足は低栄養、特に高齢者ではフレイルおよびサルコペニアの発症リスクを高めるとされています。生活習慣病やフレイルの発症予防を目的とする場合には目標量を満たす必要があります。目標量はおおむねの数値を示したものであり、弾力的に運用します。数値はエネルギー比率(%エネルギー)で示されて、総エネルギーの13~20%となっています。実際の目標量(たんぱく質の量:g)は、次の式で求めることができます。
総エネルギー(摂取エネルギー)×(0.13~0.20)÷4kcal
0.13~0.20を掛けてエネルギーを求めます。
4kcalで割るのは、たんぱく質は、1gあたり4kcalのエネルギーですので、たんぱく質量(g)に換算するためです。
たんぱく質のとりかたを考えるときに、どんな食品からとるのかも、重要となります。たんぱく質は、アミノ酸という物質が鎖のように連なってできています。筋肉、血液、ホルモンなどは、このアミノ酸の種類と連なりかたが違って、それぞれの性質が決まっています。人間のからだのアミノ酸は20種類のアミノ酸から成り立っています。
アミノ酸は、体内の必要量に応じて、からだのなかで、他のアミノ酸につくり変えることができますが、体内でつくることができないアミノ酸を、必須アミノ酸(トレオニン〈スレオニン〉、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニールアラニン、トリプトファン、リシン〈リジン〉、ヒスチジンの9種類)といい、これは食品からとる必要があります。
通称的ないいかたとして、「いいたんぱく質」いう言葉がありますが、これは必須アミノ酸を多く含む食品のたんぱく質をいいます。しかし、栄養学的には、「たんぱく価」が高い食品が、「人にとってよいたんぱく質を含んだ食品」で、単に必須アミノ酸が多いだけではなく、からだが必要としているアミノ酸の構成割合に近い食品をいいます。鶏卵、牛乳、魚肉類などの動物性食品、豆類のなかでも、大豆に必須アミノ酸が多く含まれています。
ただし、たんぱく価は、1食に食べる食事の食品の組み合わせかたでも、よくすることができます。穀類は、リシンというアミノ酸が少ないですが、リシンの多い動物性食品を一緒に組み合わせることで、アミノ酸を効率的に利用することができます。最近は、スポーツ栄養、フレイル・サルコペニア予防に有効とし、BCAA(Branched Chain Amino Acid:分枝鎖アミノ酸)として話題になっていますが、これは必須アミノ酸のうちのバリン、ロイシン、イソロイシンで筋肉中に多く含まれているアミノ酸であり、筋肉の合成を促進するアミノ酸として注目されています。
■脂質
脂質の食事摂取基準は、量と質(脂肪酸)の両方が示されています。量はエネルギー比率で示され、総エネルギーに対して、脂質からのエネルギーの割合が、どのくらいになるかを示したものです。1歳以上であれば、年齢・性別による違いはなく、20~30%となっています。これが脂質の量でどのくらいになるかは次の式で求めます。
総エネルギー(摂取エネルギー)×(0.2~0.3)÷9kcal
計算式の意味はたんぱく質の場合と同じですが、脂肪は1gあたり9kcalですので、割る数が9になります。
脂質の場合は、どんな脂質をとるか、すなわち脂質の質が生活習慣病の予防には重要となります。2020年版の食事摂取基準では、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸の摂取基準を表のように示しています。
性別 | 男性 | 女性 | ||
---|---|---|---|---|
年齢等 | 目安量 | 目標量1 | 目安量 | 目標量1 |
0~5カ月 6~11カ月 1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳 30~49歳 50~64歳 65~74歳 75歳以上 妊婦 授乳婦 | 50 40 - - - - - - - - - - - - - - | - - 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 - - | 50 40 - - - - - - - - - - - - - - | - - 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 20~30 |
1 範囲に関しておおむねの値を示したものである。 |
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢等 | 目標量 | 目標量 |
0~5カ月 6~11カ月 1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳 30~49歳 50~64歳 65~74歳 75歳以上 妊 婦 授乳婦 | - - - 10以下 10以下 10以下 10以下 10以下 8以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 - - | - - - 10以下 10以下 10以下 10以下 10以下 8以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 7以下 |
1 飽和脂肪酸と同じく、脂質異常症および循環器疾患に関与する栄養素としてコレステロールがある。コレステロールに目標量は設定しないが、これは許容される摂取量に上限が存在しないことを保証するものではない。また、脂質異常症の重症化予防の目的からは、200mg/日未満にとどめることが望ましい。 2 飽和脂肪酸と同じく、冠動脈疾患に関与する栄養素としてトランス脂肪酸がある。日本人の大多数は、トランス脂肪酸に関するWHOの目標(1%エネルギー未満)を下回っており、トランス脂肪酸の摂取による健康への影響は、飽和脂肪酸の摂取によるものとくらべて小さいと考えられる。ただし、脂質に偏った食事をしている者では、留意する必要がある。トランス脂肪酸は人体にとって不可欠な栄養素ではなく、健康の保持・増進を図る上で積極的な摂取は勧められないことから、その摂取量は1%エネルギー未満にとどめることが望ましく、1%エネルギー未満でもできるだけ低くとどめることが望ましい。 |
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢等 | 目安量 | 目安量 |
0~5カ月 6~11カ月 1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳 30~49歳 50~64歳 65~74歳 75歳以上 妊 婦 授乳婦 | 4 4 4 6 8 8 10 11 13 11 10 10 9 8 - - | 4 4 4 6 7 7 8 9 9 8 8 8 8 7 9 10 |
性別 | 男性 | 女性 |
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年齢等 | 目安量 | 目安量 |
0~5カ月 6~11カ月 1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳 30~49歳 50~64歳 65~74歳 75歳以上 妊 婦 授乳婦 | 0.9 0.8 0.7 1.1 1.5 1.5 1.6 1.9 2.1 2.0 2.0 2.2 2.2 2.1 - - | 0.9 0.8 0.8 1.0 1.3 1.3 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.9 2.0 1.8 1.6 1.8 |
ここで、簡単に脂質のことを説明します。詳細は、「脂質異常症」の項(高脂血症の食事療法)をご覧ください。脂質は、グリセロールと脂肪酸が結合してできています。私たちが、日常摂取する食品の多くは、グリセロールに3つの脂肪酸がついた中性脂肪(トリグリセリド:トリは3つという意味です)。
脂質の栄養的な役割は、この脂肪酸の種類によって異なります。脂肪酸もたんぱく質と同様に体内でつくることができない必須脂肪酸があり、食事から摂取しなければなりません。必須脂肪酸には、n-6系脂肪酸のリノール酸、リノール酸からつくられるアラキドン酸、n-3系脂肪酸のα-リノレン酸があります。ダイエットで厳しい脂質の制限をおこなう場合でも、必須脂肪酸はとる必要があります。
摂取基準に示されている飽和脂肪酸は、獣鳥肉類に多く含まれ、血清コレステロールをあげるはらたきがあるとされ、とり過ぎを防ぐために、基準値が示されています。必須脂肪酸でもあるn-6系多価不飽和脂肪酸は、大豆や米の脂質、サフラワー油、大豆油、米油に、n-3系多価不飽和脂肪酸は、魚類の脂質、えごま油に多く含まれています。
みなさんのなかには、「トランス脂肪酸がからだにわるい」ということを聞いた人がいるかもしれません。トランス脂肪酸について、食事摂取基準では目標量を定めていません。これは、トランス脂肪酸は冠動脈疾患の危険因子の一つであるものの、その摂取量および健康への影響が飽和脂肪酸とくらべると小さいことが考えられることと、日本人における摂取の実態がわかっていないことを勘案したとし、参考値として1%エネルギー未満にとどめることが望ましいとしています。なお、「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(文部科学省)では、トランス脂肪酸は搭載されていません。トランス脂肪酸は、マーガリン、ショートニング、これを含む食品に含まれていますが、最近では健康志向から各メーカーともトランス脂肪酸の低減に取り組んでいます。食品安全委員会のホームページなどで情報を提供していますので、参考にされるとよいでしょう。
■炭水化物
2020年版の食事摂取基準では、炭水化物についても、食事摂取基準が示されました。この数値もエネルギー比率で示され、1歳以上では、性に関係なく50~65%となっています。炭水化物には、砂糖(ショ糖)、果物に多い果糖のように、単糖類・二糖類といわれる糖質と、穀類やいも類に多いでんぷん(多糖類)がありますが、生活習慣病予防の観点からはでんぷんでの摂取がすすめられます。
■食物繊維
食物繊維は、推奨値が示されていません。食物繊維は、現在、日本人に不足している栄養素と考えられており、目標量が示されています。摂取量を目標量に近づける栄養素として位置づけています。
性別 | 男性 | 女性 |
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年齢等 | 目標量 | 目標量 |
0~5カ月 6~11カ月 1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳 30~49歳 50~64歳 65~74歳 75 歳以上 妊 婦 授乳婦 | - - - 8以上 10以上 11以上 13以上 17以上 19以上 21以上 21以上 21以上 20以上 20以上 - - | - - - 8以上 10以上 11以上 13以上 17以上 18以上 18以上 18以上 18以上 17以上 17以上 18以上 18以上 |
■ビタミン、ミネラル
これらの栄養素は、栄養素がからだのなかで代謝するとき、細胞・血液・ホルモンなどをつくるときに必要とする栄養素です。ビタミンやミネラルは、個人の体格による違いが示されていませんので、個人の体格を考慮する必要はありませんが、ビタミンの種類によっては、次に述べますように、エネルギー摂取量、たんぱく質摂取量などで考慮を必要とする栄養素もあります。
ここで摂取に考慮を必要とする、おもなビタミン・ミネラルついて説明します。
□ビタミン
ビタミンには、大きく分けて脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンがあります。脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kがあります。水溶性ビタミンにはB1、B2、ナイアシン、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンCがあります。
脂溶性ビタミンは、読んで字のごとく、脂に溶けたかたちで運搬され、過剰に摂取すると肝臓に貯蔵されます。このため、過剰な摂取に気をつけたいビタミンです。特に、妊娠中のビタミンAの過剰な摂取は、胎児に影響が出やすいため、妊娠中の過剰摂取に気をつけましょう。しかし、ビタミンAは胎児に発育には不可欠なビタミンです。ふつうの食事であれば過剰に摂取することはありませんが、サプリメントや健康食品の摂取によって過剰となる可能性があります。
また、ビタミンEは、体内で不飽和脂肪酸(n-3系、n-6系脂肪酸)の酸化を防ぐはたらきがあるので、不飽和脂肪酸をとるときにあわせてとるとよいとされています。ビタミンDは骨の形成に関与し、フレイル・サルコペニア発症予防のビタミンとして重要ではないかといわれているビタミンです*1。
水溶性ビタミンのビタミンB1、B2は、エネルギー代謝に関係しているため、激しい運動などで、エネルギーをたくさんとるときには、一緒にふやす必要があります。
「朝は菓子パンにソフトドリンク、昼はおにぎり、夜はカップラーメン、お腹が空いたらスナック菓子」という食べかたを長く続けると、ビタミンB1不足となってしまいます。ビタミンB6は、アミノ酸代謝に関与しているビタミンです。たんぱく質をたくさんとる必要が生じたときは、同時にB6もとるようにします。
葉酸は、胎児の神経管閉鎖障害の発生の軽減がはかれるビタミンとして、妊娠前後3カ月の期間、付加的にサプリメントや強化食品などを利用して400μg/日の摂取がすすめられています。葉酸は緑黄色野菜に多く含まれています。このほかにも、葉酸には脳卒中や心筋梗塞の予防効果があるとして注目されています。葉酸には、過剰症の問題もありますので、サプリメントや強化食品でとる場合には過剰にならないように注意します。
*1 山田実 : 高齢者のサルコペニアと転倒. 日本転倒予防学会誌 2014; 1: 5-9.
□ミネラル
からだを構成する元素で主要元素(C、H、O、N)以外のものの総称をミネラルといいます。このうち、存在が100mg以上のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンを多量ミネラルといいます。存在が100mg未満のものを微量ミネラルといい、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンなどがあります。ミネラルもビタミンと同様に過剰症のリスクがあり、からだに不可欠なミネラルであっても過剰にとれば、からだに害を及ぼします。
多量ミネラルのナトリウムは、その多くを食塩(NaCl)からとっています。食塩の過剰摂取が、高血圧と関係があることはよく知られていますが、これは食塩の構成成分のナトリウムが、この原因となっている栄養素です。しかし、熱中症の予防などの水分補給に、「Na」の補給が重要といわれているように、少なければ少ないほどいいというものではありません。
令和元年の「国民健康・栄養調査」の結果によると、カルシウムは不足がみられるミネラルです。カルシウムは骨や歯に99%が含まれていて、骨や歯の主要な成分ですが、このほかに、血液のpHの維持や血液凝固にもかかわっています。摂取したカルシウムが吸収されるためには、ビタミンD(魚に多く含まれています)の存在も重要です。骨や歯が形成される成長期には、特に重要なミネラルです。牛乳・乳製品などからカルシウムをとって、骨を使う、すなわち運動が大切です。
微量ミネラルの鉄は、成長期でスポーツに取り組む生徒、若い世代でやせの見られる者に不足が見られやすいとされています。特に生理のある若い女性に、食事摂取基準を満たしていない、イコール「貧血などの健康障害がある」とはいえませんが、鉄欠乏性貧血の予防のためには、ヘム鉄を多く含む動物性たんぱく質(赤身の魚肉類)食品からとると吸収率がよく、すすめられます。
また、激しいスポーツをおこなう選手は、鉄の必要量が増すだけでなく、赤血球が壊れるため貧血になりやすくなります。若い世代で、激しいスポーツをおこなう、特に女性では、鉄欠乏性の貧血には注意が必要です。いっぽう、鉄には過剰症があります。サプリメントや強化食品からとろうとする場合には、過剰症に気をつけます。
このほかには、亜鉛は味覚障害に関係が深いミネラルです。亜鉛は、カキやイカ、レバー、大豆製品に多く含まれています。味覚障害があると、食事がおいしくなくなり、栄養状態の低下を招きます。予防が重要です。
ここでは主要なビタミンやミネラルだけを述べています。言い古されている言葉ですが
ビタミンやミネラルからみても。「からだを動かして、さまざまな食品群から、むらなくしっかり食べる」大切さが、おわかりいただけましたでしょうか。
(執筆・監修:聖徳大学 人間栄養学部人間栄養学科 兼任講師 宮本 佳代子)