脂質異常症(高脂血症)、動脈硬化〔ししついじょうしょう(こうしけっしょう)、どうみゃくこうか〕

 動脈硬化は文字どおり血管がかたくなった状態をいいます。この状態が脳に起これば脳卒中発症の危険性が高くなり、心臓の血管に起これば心筋梗塞発症の危険が増します。動脈硬化は脂質異常症、高血圧、糖尿病などが危険因子となって起こります。動脈硬化を考えるときには、これらの因子を同時に考慮する必要がありますが、脂質異常症や高血圧や糖尿病については各専門の学会(日本動脈硬化学会など)がそれぞれガイドラインを作成しています。
 日本動脈硬化学会は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」で動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善を次の7項目をあげています。
 1.禁煙し受動喫煙を回避する。
 2.過食を抑え、標準体重を維持する。
 3.肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を控え、魚類、大豆製品の摂取をふやす。
 4.野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取をふやす。
 5.食塩を多く含む食品の摂取を控える。
 6.アルコールの過剰摂取を控える。
 7.有酸素運動を毎日30分以上おこなう。
 さらに「動脈硬化性疾患予防のための食事」を次の6項目を示しています。
 1.エネルギー摂取量と身体活動量を考慮して標準体重(BMI=22)を維持する。
 2.脂肪エネルギーを20~25%、飽和脂肪酸を4.5%以上7%未満、コレステロール摂取量を200mg/日未満に抑える。
 3.n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取をふやす。
 4.炭水化物エネルギー比を50~60%とし食物繊維をふやす。
 5.食塩摂取は6g/日未満を目標にする。
 6.アルコール摂取を25g/日以下に抑える。
 これらは、高血圧、糖尿病の項で述べてきた内容とほぼ同じとなります。この項の最初に述べたように、これらの疾患とその発症は関連しあっているためです。

□その他の脂質異常症に対する食事療法のポイント
 ガイドラインでは、脂質異常症がみられる場合の食事療法の要点を下記のように示しています。
[危険因子を改善するポイント]
1. 高LDL-C血症
・飽和脂肪酸…総摂取エネルギーの7%未満に減らす。
・コレステロール摂取の制限…1日200mg以下に減らす。
・トランス脂肪酸…減らす(控える)。
・水溶性食物繊維(ごぼう、きのこ類、海藻類に多い)、植物性ステロール(大豆や胚芽に
多い)の摂取をふやす。
2.高トリグリセリド血症
・アルコール…過剰摂取しないように制限する。
・炭水化物の制限…炭水化物エネルギー比率を低める。
・高カイロミクロン血症がみられる場合は、脂質制限をする(脂質エネルギー比率15%以下、中鎖脂肪酸、n-3系多価不飽和脂肪酸をおもに用いる)。
3.低HDLコレステロール血症
・トランス不飽和脂肪酸およびn-6系多価不飽和脂肪酸の過剰摂取に注意する。

■脂肪酸
 標準体重の維持や適正なエネルギー摂取、食塩のことは高血圧や糖尿病の項で述べていますので、ここでは食事療法でその摂り方が重要なポイントとなる脂肪酸の解説をします。
 食べ物からとる脂質のおもなものは中性脂肪です。中性脂肪は、グリセリンと3個の脂肪酸が結合したものです。中性脂肪は、からだのなかで脂肪酸とグリセリンに分解されて使われます。グリセリンは炭水化物の一種ですから、脂肪の栄養的な役割を決めるのは脂肪酸です。脂肪酸は水素(H)、酸素(O)、炭素(C)が鎖のように長く連なってできており、連なりかたやその長さで性質が違ってきます。脂肪酸には次のような種類があります。

□飽和脂肪酸(saturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のない構造をもった脂肪酸で、動物性食品(獣肉、ラード、バターなど)に多く含まれています。この脂肪酸を多くもつ脂肪は、常温(26℃程度)では固形の状態であるため“脂”という文字を使います。「動物性の脂肪は少なく」といった場合には、この飽和脂肪酸を少なくしなさいという意味です。飽和脂肪酸は血中のコレステロールを上昇させる作用があります。

□不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のある構造をもった脂肪酸で、1個の水素と結合できる脂肪酸を一価不飽和脂肪酸、2個以上の水素と結合できる脂肪酸を多価不飽和脂肪酸といいます。この脂肪酸は植物性の食品(大豆、サラダ油、オリーブ油、ごま油など)に多く含まれています。不飽和脂肪酸を多くもった脂肪は常温では液体の状態であるため“油”という文字を使います。「植物由来の油を多くとりましょう」という場合には、植物性の“油”を指します。動物性食品のなかでも魚の脂肪は多価不飽和脂肪酸が多く、植物油に近い性質をもっています。
〈一価不飽和脂肪酸〉
 一価不飽和脂肪酸は、LDLコレステロールの上昇を抑えるなどのはたらきで動脈硬化の進展を防いで、冠動脈疾患の発症率を減らす効果が期待できる脂肪酸です。オリーブ油に多く含まれていますが、ごま油などにも含まれています。この脂肪酸のもう一つの特徴は、酸化されにくい性質をもつことです。この性質が、動脈硬化の発症を抑制しているのではないかともいわれていますが、十分には解明されていません。
〈多価不飽和脂肪酸〉
 多価不飽和脂肪酸は、からだのなかでは細胞膜の成分と脂溶性ビタミンの運搬をするなど重要なはたらきをしています。しかも、からだのなかでほかの物質からつくることができないので、食事からとらなくてはならない脂肪酸です。この脂肪酸は、酸化されやすいため、酸化を防ぐビタミンであるビタミンCやE、ポリフェノールなどといっしょにとることが必要となります。ビタミンやポリフェノールは、野菜、特に緑黄色野菜に多く含まれていますので、魚やオリーブ油で調理したものを食べるときには野菜をいっしょに食べることが理にかなっています。多価不飽和脂肪酸には、化学構造式で水素をもつことができる場所によってn-6系、n-3系等があります。前者は、大豆油や米油・サフラワー油に多く、後者は魚油、しそ油、亜麻仁油に多く含まれています。
 n-6系脂肪酸の脂肪酸は総コレステロールを低下させるはたらきがありますが、同時に善玉コレステロールといわれているHDLコレステロールも下げてしまうといわれています。いっぽう、n-3系の脂肪酸はHDLコレステロールを下げることなく総コレステロールを下げるはたらきがあり、冠動脈疾患や脳梗塞の発症を抑制できるといわれています。

□トランス脂肪酸
 不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合の位置の違いで「シス型」と「トランス型」があり、自然の食品に含まれる不飽和脂肪酸の多くは「シス型」ですが、液状の油である大豆油やコーン油を工業的に「個体」(マーガリンやショートニング等)に加工すると、不飽和脂肪酸は「トランス型」となります。前述のようにトランス酸動脈硬化発症のリスクファクターとして摂取を控えることがすすめられています。マーガリンやショートニングはパン、ビスケット、ケーキなどに広く使われています。日本人のトランス酸摂取はあまり多くないとされていますが、食品のトランス酸の表示をしようとする動きも出てきています。これらの流れを受けて、トランス酸の少ないマーガリンも出てきています。
□中鎖脂肪酸
 中鎖脂肪酸は脂肪酸のつながりかたが短い脂肪酸(日常食べる食品は長鎖脂肪酸)で、ふつうの脂肪酸とは、体内での吸収のされかたが違うため、血中のコレステロールに影響を与えないといわれています。また、血中のカイロミクロン(遊離脂肪酸)が高い場合には脂肪を中鎖脂肪酸に変えることが有効とされています。
 おもな食品の脂肪酸などを表に示しました。


■コレステロール
 おもな食品に含まれているコレステロールの量を表に示しました。

●食品中のコレステロール含有量
食品名重量
(g)
目安量コレステロール
(mg)
魚介類
あんこう5039
うなぎ-かば焼100230
すけとうだら・たらこ251/2腹88
イクラ20大さじ1杯96
ししゃも-生干し201尾46
あゆ(養殖)401尾44
しらこ2072
はまち(養殖)801切れ62
子持ちがれい801切れ96
あなご4056
さんま80中1尾52
わかさぎ251尾53
さば801切れ49
煮干し10大さじ1杯51
さわら801切れ48
さけ801切れ46
まだら801切れ46
かずのこ(塩蔵)-水戻し201本46
あじ60中1尾41
さめ801切れ43
みなみまぐろ605切れ31
まかじき601切れ28
かつお(春獲り)6036
まいわし401尾27
みなみまぐろ・脂身302切れ18
しらす干し5大さじ1杯12
貝類
かき(養殖)705個36
しじみ2012
あさり-生3010個12
ほたてがい3010
その他の魚介類
いか100250
するめ20196
うに17大さじ1杯49
まだこ80120
くるまえび(養殖)452尾77
たらばがに10034
卵類
鶏卵・全卵60252
鶏卵・卵黄20M1個280
鶏卵・卵白300
乳類
アイスクリーム(普通脂肪)10053
普通牛乳20024
プロセスチーズ25小1個20
ヨーグルト(全脂無糖)10012
肉類
牛・肝臓-生60144
輸入牛・ばら・脂身つき6040
輸入牛・サーロイン・脂身つき6035
輸入牛・かたロース・脂身つき6041
輸入牛・もも・脂身つき6037
輸入牛・ヒレ・赤肉6037
豚・肝臓60150
豚・かたロース・脂身つき6041
豚・もも・脂身つき6040
豚・ヒレ・赤肉6035
ベーコン(豚)402枚20
ソーセージ(豚)・ウインナー302本17
ハム(豚)・ロース402枚16
若鶏・肝臓-生40148
若鶏・手羽(皮つき)501本55
若鶏・もも(皮つき)6053
若鶏・ささ身802本54
若鶏・むね(皮つき)6044
若鶏・もも(皮なし)6072
若鶏・むね(皮なし)6043
大豆製品
木綿豆腐1001/3丁0
糸引き納豆401パック0
油脂類
マヨネーズ(全卵型)14大さじ1杯8
マヨネーズ(卵黄型)14大さじ1杯21
有塩バター13大さじ1杯27
ソフトタイプマーガリン(家庭用)13大さじ1杯1
調合油13大さじ1杯0
菓子類
シュークリーム60138
ババロア80136
カスタードプリン80112
クリームパン7091
ショートケーキ(果実無し)6084
カステラ3556
ドーナツ・イーストドーナッツ5512
どら焼6049
ミルクチョコレート408
あんパン700
もなか400
練りようかん300


 日常よく食べる食品のうちコレステロールが多い食品は鶏卵です。平均1日半個(30g前後)をめやすにすればよいでしょう。またいかは低エネルギーの食品ですが、加工品(さきいか、燻製〈くんせい〉、塩からなど)で食べる機会があるので、コレステロールにはやや気をつけたい食品です。うなぎ、肝臓、魚卵は好きな人はべつですが、頻繁に食べる食品ではありませんので、食べる頻度に配慮すればよいでしょう。なお、内臓や魚卵を食べる習慣のある魚(鮎やししゃもなど)はコレステロールが多いことを忘れがちな食品ですので注意が必要です。
 血中のコレステロールを下げるはたらきのある成分として食物繊維があります。食物繊維は、精白していない穀類(麦、玄米、胚芽米、全粒粉のパン)、海草、きのこなどに多く含まれています。食物繊維を1日25g以上とるためには1日に1~2回麦飯あるいは玄米や胚芽米、全粒粉のパンなどを食べると簡単です。

■油脂の選びかた
 スーパーマーケットの油脂製品売り場に行くと、健康志向の流れを受け実に多くの油脂類が売られています。大豆油・コーン油などのように1つの食品からの油だけでなく、いくつかの種類の油を混ぜたものもあり、脂肪酸の種類にあまりこだわると選ぶのがむずかしくなります。平凡ですが、サラダ油、ごま油、オリーブオイル、シソ油などは味や風味に特徴がありますので料理にあわせて使うようにされるのがよいかと思います。

■その他のビタミンなど
 動脈硬化性疾患の発症の危険因子を減らすには、血中のホモシステインを減らすことも有効とされています。このはたらきをもつ栄養成分として葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12などがあります。これらのビタミンは、肝臓、赤身の魚、卵、牛乳、緑黄色野菜などに多く含まれています。脂肪酸やコレステロールのコントロールから考えると食べないほうがよい食品もあります。
 つまり1つの食品の中に、わたしたちにプラスとなるものとマイナスとなるものの両者が含まれているということです。このことは「○○は食べない」という偏った食べかたではなく、いろいろな食品を食べることの大切さを示しているといえそうです。