脂質異常症(高脂血症)、動脈硬化〔ししついじょうしょう(こうしけっしょう)、どうみゃくこうか〕

 動脈硬化は、文字どおり血管がかたくなった状態をいいます。この状態が脳に起これば脳卒中発症の危険性が高くなり、心臓の血管に起これば心筋梗塞発症の危険が増します。動脈硬化は、脂質異常症、高血圧、糖尿病などが、危険因子となって起こります。動脈硬化を考えるときには、これらの因子を同時に考慮する必要がありますが、脂質異常症や高血圧や糖尿病については、各専門の学会(日本動脈硬化学会など)がそれぞれガイドラインを作成しています。
 日本動脈硬化学会は、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」で動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善として、次の7項目をあげています。

・禁煙し、受動喫煙を回避する
・過食と身体活動不足に注意し、適正な体重を維持する
・肉の脂身、動物脂、鶏卵、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
・魚、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆製品、未精製穀類の摂取量をふやす
・糖質含有量の少ない果実を適度に摂取する
・アルコールの過剰摂取を控える
・中等度以上の有酸素運動を、毎日合計30分以上を目標に実施する
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017, p.58, 2017.より引用)

 さらに「動脈硬化性疾患予防のための食事」として、次の7項目を示しています。

・総エネルギー摂取量(kcal/日)は、
 一般に標準体重(kg、(身長m)×22)×
 身体活動量(軽い労作で25~30、ふつうの労作で30~35、重い労作で35~)とする
・脂肪エネルギー比率を20~25%、飽和脂肪酸エネルギー比率を4.5%以上7%未満、コレステロール摂取量を200mg/日未満に抑える
・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取をふやす
・工場由来のトランス脂肪酸の摂取を控える
・炭水化物エネルギー比を50~60%とし、食物繊維の摂取をふやす
・食塩の摂取は6g/日未満を目標にする
・アルコールの摂取を25g/日以下に抑える
(日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017, p.58, 2017.より引用)

 これらは、高血圧、糖尿病の項で述べてきた内容とほぼ同じです。この項の最初に述べたように、これらの疾患とその発症は関連しあっているためです。

□その他の脂質異常症に対する食事療法のポイント
 ガイドラインでは、脂質異常症がみられる場合の食事療法の要点を下記のように示しています。

[危険因子を改善するポイント]
1. 高LDL-C血症
・飽和脂肪酸…総摂取エネルギーの7%未満に減らす
・コレステロール摂取の制限…1日200mg未満に減らす
・トランス脂肪酸…減らす(控える)
・脂肪の多い肉、乳類、臓物類、卵類を制限する
・緑黄色野菜を含めた野菜および大豆・大豆製品の摂取をすすめる

2.高トリグリセリド血症
・適正体重の維持
・アルコール…過剰摂取しないように制限する
・炭水化物の制限…炭水化物エネルギー比率を低める
・高カイロミクロン血症がみられる場合は、脂質制限をする(脂質エネルギー比率15%以下、中鎖脂肪酸をおもに用いる)

3.低HDLコレステロール血症
・適正体重を維持する
・トランス不飽和脂肪酸を減らす

■脂肪酸
 標準体重の維持や適正なエネルギー摂取、食塩のことは、高血圧や糖尿病の項で述べていますので、ここでは、食事療法でその摂り方が重要なポイントとなる脂肪酸の解説をします。
 食べ物からとる脂質のおもなものは、中性脂肪です。中性脂肪は、グリセリンと3個の脂肪酸が結合したものです。中性脂肪は、からだのなかで脂肪酸とグリセリンに分解されて使われます。グリセリンは炭水化物の一種ですから、脂肪の栄養的な役割を決めるのは脂肪酸です。脂肪酸は、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)が鎖のように長く連なってできており、連なりかたやその長さで性質が違ってきます。
 脂肪酸には、次のような種類があります。

□飽和脂肪酸(saturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のない構造をもった脂肪酸で、動物性食品(獣肉、ラード、バターなど)に多く含まれています。この脂肪酸を多くもつ脂肪は、常温(26℃程度)では、固形の状態であるため“脂”という文字を使います。「動物性の脂肪は少なく」といった場合には、この飽和脂肪酸を少なくしなさいという意味です。飽和脂肪酸を制限することは、血清脂質の改善に有効とされています。

□不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)…化学的に水素と結合する余裕のある構造をもった脂肪酸で、1個の水素と結合できる脂肪酸を、一価不飽和脂肪酸、2個以上の水素と結合できる脂肪酸を、多価不飽和脂肪酸といいます。この脂肪酸は、植物性の食品(大豆、サラダ油、オリーブ油、ごま油など)に多く含まれています。不飽和脂肪酸を多くもった脂肪は、常温では液体の状態であるため“油”という文字を使います。「植物由来の油を多くとりましょう」という場合には、植物性の“油”を指します。動物性食品のなかでも魚の脂肪は、多価不飽和脂肪酸が多く、植物油に近い性質をもっています。
〈一価不飽和脂肪酸〉
 適正な総エネルギー摂取量のもとで一価不飽和脂肪酸の摂取量をふやすことによって、血清脂質の改善の可能性があるとされています。オリーブ油に、多く含まれていますが、ごま油などにも、含まれています。この脂肪酸のもう一つの特徴は、酸化されにくい性質をもつことです。
〈多価不飽和脂肪酸〉
 多価不飽和脂肪酸は、からだのなかでは、細胞膜の成分と脂溶性ビタミンの運搬をするなど重要なはたらきをしています。しかも、からだのなかで、ほかの物質からつくることができないので、食事からとらなくてはならない脂肪酸です。この脂肪酸は、酸化されやすいため、酸化を防ぐビタミンであるビタミンCやE、ポリフェノールなどといっしょにとることが必要となります。ビタミンやポリフェノールは、野菜、特に緑黄色野菜に多く含まれていますので、魚やオリーブ油で調理したものを食べるときには野菜をいっしょに食べることが理にかなっています。
 多価不飽和脂肪酸には、化学構造式で水素をもつことができる場所によってn-6系、n-3系等があります。前者は、大豆油や米油・サフラワー油に多く、後者は魚油、しそ油(えごま油)、あまに油に多く含まれています。

□トランス脂肪酸
 不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合の位置の違いで「シス型」と「トランス型」があり、自然の食品に含まれる不飽和脂肪酸の多くは「シス型」ですが、液状の油である大豆油やコーン油を工業的に「個体」(マーガリンやショートニング等)に加工すると、不飽和脂肪酸は「トランス型」となります。前述のようにトランス酸動脈硬化発症のリスクファクターとして摂取を控えることがすすめられています。マーガリンやショートニングは、パン、ビスケット、ケーキなどに広く使われています。
 日本人のトランス酸摂取はあまり多くないとされているため食事摂取基準に数値が示されていませんが、海外では数値を示している国もあります。日本でも、食品のトランス酸の表示をしている食品もあります。また、これらの流れを受けて、トランス酸の少ないマーガリンも出てきています。
□中鎖脂肪酸
 中鎖脂肪酸は、脂肪酸のつながりかたが短い脂肪酸(日常食べる食品は長鎖脂肪酸)で、ふつうの脂肪酸とは、体内での吸収のされかたが違うため、血中のコレステロールに、影響を与えないといわれています。また、血中のカイロミクロン(遊離脂肪酸)が、高い場合には、脂肪を中鎖脂肪酸に変えることが有効とされています。
 おもな食品の脂肪酸などを表に示しました。


■コレステロール
 おもな食品に含まれているコレステロールの量を表に示しました。

●食品中のコレステロール含有量
食品名重量
(g)
目安量コレステロール
(mg)
魚介類
あんこう5039
うなぎ-かば焼100230
すけとうだら・たらこ251/2腹88
イクラ20大さじ1杯96
ししゃも-生干し201尾46
あゆ(養殖)401尾44
しらこ2072
はまち(養殖)801切れ62
子持ちがれい801切れ96
あなご4056
さんま80中1尾54
わかさぎ251尾53
さば801切れ49
煮干し10大さじ1杯55
さわら801切れ48
さけ801切れ47
まだら801切れ46
かずのこ(塩蔵)-水戻し201本46
あじ60中1尾41
さめ801切れ43
みなみまぐろ605切れ31
まかじき601切れ28
かつお(春獲り)6036
まいわし401尾27
みなみまぐろ・脂身302切れ18
しらす干し5大さじ1杯12
貝類
かき(養殖)705個27
しじみ2012
あさり-生3010個12
ほたてがい3010
その他の魚介類
いか100250
するめ20196
うに17大さじ1杯48
まだこ80120
くるまえび(養殖)452尾77
たらばがに10034
卵類
鶏卵・全卵60252
鶏卵・卵黄20M1個280
鶏卵・卵白300
乳類
アイスクリーム(普通脂肪)10053
普通牛乳20024
プロセスチーズ25小1個20
ヨーグルト(全脂無糖)10012
肉類
牛・肝臓-生60144
輸入牛・ばら・脂身つき6040
輸入牛・サーロイン・脂身つき6035
輸入牛・かたロース・脂身つき6041
輸入牛・もも・脂身つき6037
輸入牛・ヒレ・赤肉6037
豚・肝臓60150
豚・かたロース・脂身つき6041
豚・もも・脂身つき6040
豚・ヒレ・赤肉6035
ベーコン(豚)402枚20
ソーセージ(豚)・ウインナー302本17
ハム(豚)・ロース402枚16
若鶏・肝臓-生40148
若鶏・手羽(皮つき)501本55
若鶏・もも(皮つき)6053
若鶏・ささ身802本53
若鶏・むね(皮つき)6044
若鶏・もも(皮なし)6072
若鶏・むね(皮なし)6043
大豆製品
木綿豆腐1001/3丁0
糸引き納豆401パックTr
油脂類
マヨネーズ(全卵型)14大さじ1杯8
マヨネーズ(卵黄型)14大さじ1杯20
有塩バター13大さじ1杯27
ソフトタイプマーガリン(家庭用)13大さじ1杯1
調合油13大さじ1杯0
菓子類
シュークリーム60138
ババロア80136
カスタードプリン80112
クリームパン7091
ショートケーキ(果実無し)6084
カステラ3556
ドーナツ・イーストドーナッツ5512
どら焼6049
ミルクチョコレート408
あんパン700
もなか400
練りようかん300
(日本食品標準成分表2019)


 日常よく食べる食品のうち、コレステロールが多い食品は鶏卵です。平均1日半個(30g前後)をめやすにすればよいでしょう。
 また、いかはコレステロールが多いですが、低エネルギーという利点もあります。とはいえ、加工品(さきいか、燻製〈くんせい〉、塩からなど)で食べることが多い人は、コレステロールにはやや気をつけたい食品です。
 うなぎ、肝臓、魚卵は、好きな人はべつですが、頻繁に食べる食品ではありませんので、食べる頻度に配慮すればよいでしょう。なお、内臓や魚卵を食べる習慣のある魚(鮎やししゃもなど)は、コレステロールが多いことを忘れがちな食品ですので注意が必要です。
 血中のコレステロールを下げるはたらきのある成分として、食物繊維があります。食物繊維は、精白していない穀類(麦、玄米、胚芽米、全粒粉のパン)、海草、きのこなどに多く含まれています。食物繊維を1日25g以上とるためには、1日に1~2回麦飯あるいは玄米や胚芽米、全粒粉のパンなどを食べると簡単です。

■油脂の選びかた
 スーパーマーケットの油脂製品売り場に行くと、健康志向の流れを受け実に多くの油脂類が売られています。大豆油・コーン油などのように、1つの食品からの油だけでなく、いくつかの種類の油を混ぜたものもあり、脂肪酸の種類にあまりこだわると、選ぶのがむずかしくなります。サラダ油、ごま油、オリーブ油、しそ油、あまに油などは、味や風味に特徴がありますので、料理にあわせて使うようにされるのがよいかと思います。なお、n-3系を多く含むしそ油、あまに油は、加熱すると酸化されるため、加熱料理には向かないことが多いです。

■その他のビタミンなど
 動脈硬化性疾患の発症の危険因子を減らすには、血中のホモシステインを減らすことも有効とされています。このはたらきをもつ栄養成分として、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12などがあります。これらのビタミンは、肝臓、赤身の魚、卵、牛乳、緑黄色野菜などに多く含まれています。脂肪酸やコレステロールのコントロールから考えると、食べないほうがよい食品もあります。
 つまり1つの食品の中に、わたしたちに、プラスとなるものと、マイナスとなるものの両者が含まれているということです。このことは「○○は食べない」という偏った食べかたではなく、いろいろな食品を食べることの大切さを、示しているといえそうです。
横浜市立大学医学部医学科同窓会 倶進会