メタボリックシンドローム

 生活習慣病と呼ばれているおもな疾患に「肥満症」「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症(高脂血症)」などがあります。これらの疾患は個々の原因で発症するというよりも、肥満、特に内臓に脂肪が蓄積した肥満が原因となっていることが多いです。そして、血圧、血糖値、脂質値のそれぞれが軽度でも重複して基準値を超えると、糖尿病や動脈硬化による循環器病(心筋梗塞狭心症脳梗塞閉塞性動脈硬化症など)の発症リスクが上昇します。
 このように、内臓脂肪の蓄積を基盤とし、動脈硬化の危険因子を複数合併した状態を「メタボリックシンドローム」といい、治療の対象として考えられるようになってきました。
 厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査によると、40~74歳において、男性の2人に1人(54.4%)、女性の5人に1人(16.7%)がメタボリックシンドロームか、その予備群であることが報告されました。
 文部科学省の「令和元年度の学校保健統計調査」によれば男女ともに1997年以降、体重の平均値は、1998-2006 年度あたりをピークにその後は横ばいもしくは減少傾向にあります。しかし、肥満傾向児の割合は、年齢層によりばらつきはありますが、この10年間ではおおむね横ばいから増加傾向です。30年前とくらべると約1.5~2倍にふえ、約10人に1人が肥満児です。これは脂肪の多い食事、いつでも食べられる環境、不規則な生活、運動不足などが原因としてあげられます。そして、子どもの肥満の約70%は成人肥満に移行するといわれています。また、高度な肥満では、小児期からでも糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を合併します。
 このようにメタボリックシンドロームという概念が確立された目的は、「動脈硬化による循環器病(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など)をできるだけ早い時期から予防しよう」ということです。なぜなら動脈硬化は、ある程度症状が進まないかぎりなかなか症状として出にくく、しかも、動脈硬化による循環器病は働き盛りに突然発症することが多く、生命にかかわる重大な病気であり、後遺症も深刻だからです。そのため、メタボリックシンドローム、ひいてはメタボリックシンドロームの予備群の段階で予防することが重要なのです。
[診断]
 メタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪蓄積(腹部肥満)を必須条件とし、ほかに、血清脂質異常(高トリグリセライド血症・低HDL-C血症)、高血糖、血圧高値の3つのうち、2つ以上あてはまる場合、「メタボリックシンドローム」と診断します。
 からだのどの部分に脂肪が付くかによって、肥満は2つのタイプに分かれます。
 下腹部、腰のまわり、太もも、おしりのまわりの皮下に脂肪が蓄積するタイプを「皮下脂肪型肥満」、内臓のまわりに脂肪が蓄積するタイプを「内臓脂肪型肥満」と呼びます。体形からそれぞれ「洋なし型肥満」「りんご型肥満」とも呼ばれています。
 この2つのタイプのうち、皮下脂肪型肥満は外見からあきらかにわかりやすいですが、内臓脂肪型肥満は外見ではわからないことがあります。そこで、内臓脂肪型肥満を簡単に調べる方法としてウエスト径(へそまわり径)が用いられ、男性では85cm以上、女性では90cm以上であれば内臓脂肪型肥満が疑われます。これは肥満というより肥満症と考えたほうがよいかもしれません。

内臓脂肪の蓄積
腹部肥満腹囲:男性85cm以上 女性90cm以上
ウエスト周囲長は男女ともに内臓脂肪量100cm2以上を基準に設定されているため、CTなどで内臓脂肪量測定をおこなうことが望ましい


脂質異常
トリグリセライド(TG)値・
HDLコレステロール値
トリグリセライド(TG)値:150mg/dL以上
HDLコレステロール値:40mg/dL未満
(いずれか、または両方)
メタボリックシンドロームでは、過剰な中性脂肪の増加とHDLコレステロールの減少が問題となります
高血圧
血圧最大血圧(収縮期血圧):130mmHg以上
最小血圧(拡張期血圧):85mmHg以上
(いずれか、または両方)
高血圧症と診断される「最大(収縮期)血圧140mmHg以上/最小(拡張期)血圧90mmHg以上」より低めの数値がメタボリックシンドロームの診断基準となっています
高血糖
血糖値空腹時血糖値:110mg/dL以上
糖尿病と診断される「空腹時血糖値126mg/dL以上」より低めの数値で、「境界型」に分類される糖尿病の一歩手前がメタボリックシンドロームの診断基準となっています


[予防]
1.健康診断を活用する
 健康診断には、法令により実施が義務づけられ学校や職場、地方自治体などでおこなわれているものと、人間ドックなど受診者の意思でおこなうものがあります。40歳以上で職場での健康診断を受けられない場合は、各地方自治体による基本健康診査を受けることができます。
 現在の健康診断受診率は、残念ながらあまり高くありません。サラリーマンの受診率は8割以上といわれていますが、主婦や自営業の人たちの受診率は低めのようです。健康診断を定期的に受診し、自分の健康状態をきちんと把握すること。そして、結果を放置せず、改善すべき項目は早めに改善しましょう。

2.運動は内臓脂肪を減らすのにいちばん有効な方法
 運動を毎日のライフスタイルに組み込むと、案外、簡単に実行することができます。会社の行き帰りに、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、バス停一つ分歩いてみる。こんなところから始めてみましょう。
 目安は「1日1万歩」といわれていますが、政府が策定した「健康日本21(第2次)」によると、健康維持に最適な運動消費カロリーは1週間で2000kcal、1日あたり約300kcalとされています。体重60kgの人が時速4km(やや早歩き)のペースで、歩幅70cmで10分間歩く(およそ700m、1000歩)ときの消費エネルギーは約30kcalになります。1日300kcalを消費するには、1日で1万歩を歩く計算になります。

3.食生活
 内臓脂肪がたまりやすい食事は、高脂肪食(脂っこいもの)、高ショ糖食(甘いもの)、高カロリー食(エネルギー量が高い物、食べすぎ)、低繊維食(緑黄色野菜の不足)です。また、濃い味つけは塩分をとりすぎるだけでなく、食欲をそそり、食べすぎを招きます。
 バランスのよい食事と腹八分目。これがメタボリックシンドロームにならないひけつです。
 アルコールは脂肪に変わりやすいのでとりすぎは禁物です。また、おつまみには高カロリーの物が多いので、おつまみの品を工夫したり、食べすぎに注意しましょう。

4.「体重計測」や「ウエスト日記」をつける習慣
 毎日のウエスト径や体重の変化をチェックすることで、生活習慣の反省点を見つけることができますし、ウエスト径の減少に成功すれば達成感が得られます。

(執筆・監修:東京女子医科大学 教授〔内科学講座 糖尿病代謝内科学分野〕 中神 朋子
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