日本糖尿病学会(JDS)とJADEC(日本糖尿病協会)は※11月1日に合同で開催したメディアセミナーにおいて、両者が進めている糖尿病の呼称変更について学会関係者らがよりいっそう強い姿勢で理解を求めた。呼称変更をめぐり、JDS理事で虎の門病院(東京都)院長の門脇孝氏が本音を明かす場面もあった。糖尿病という用語はスティグマを持つため、「ダイアベティス」への呼称変更が検討されている。(関連記事「【速報】『ダイアベティス』めぐり市民と意見交換」「糖尿病、なぜ『ダイアベティス』?」「薬剤供給不足、植木氏が示す原因と5つの解決策」)
「Diabetesの日本語をそのまま英訳してほしい」
糖尿病の呼称変更は50年前からJDSで議論されており、これまでに2回、理事会で変更が決まりかけたことがある。呼称も「高血糖症」「インスリン作用不全症」などが議論されていた。近年は、新しい呼称案として「高血糖症」などが出たが、いずれも病態を正しく表していないとして見送られた。
しかし2018年に米国糖尿病学会(ADA)からの「Diabetesを日本語ではどういうかそのまま英訳してほしい」との求めに端を発し、議論が加速する。JADEC理事長の清野裕氏とJDS理事長(当時)の門脇氏が「urine sugar disease」と述べると、「そのような呼称を人に付けるとは何事か。一刻も早く変更するように」との厳しい反応だった。国際糖尿病連合(IDF)も糖尿病という呼称に驚いていたという。
これを受け、翌2019年にJDSが糖尿病の新しい呼称について議論を推進し、最終案として「ダイアベティス」が残った。糖尿病患者1,000人を対象に実施した2021~22年のJADEC調査では、尿という漢字が使用されていることで不潔に思われたり、生活習慣病というイメージが広がったため怠惰な生活をした結果であると誤解されたりするという声が上がった。9割が疾患名に不快感や抵抗感を示し、8割が疾患名の変更を希望した。
「ダイアベティス(インスリン作用不足の状態)」を提案
JADEC業務執行理事で合同アドボカシー委員会の津村和大氏によると、昨年(2023年)11月に開いたJADECの会見記事が配信された後、12時間で4,000件以上寄せられたコメントや投稿を分析。「不摂生」「生活習慣病」「運動不足」「怠け病」などの誤解、偏見があったという。
ちなみに、母国語で「糖」「尿」「病」という語を用いているのは世界で日本、中国、韓国、モンゴル、中東の一部地域のみであることから、第16回アジア糖尿病学会(AASD 2024、8月15~17日)とJADECの合同シンポジウムでは用語に関する議論を継続し、進捗状況を把握することで合意した(J Diabetes Investig 2024; 15: 1533-1536)。
清野氏は、新呼称案をめぐり17府県を訪問し医療者との対話や、メディアセミナーの開催を通じて理解を求めてきた。
「言葉に染み付いた負のイメージを払拭するには、新しい呼称への変更が効果的であると考える」と同氏は述べ、ダイアベティスに変更する際は当面、括弧書きで分かりやすい日本語の説明を要するとして「ダイアベティス(インスリン作用不足の状態)」とすること、メタボリックシンドローム=メタボのように将来的には「ダイア」などの略称も考慮することなどを提案した。
「スティグマを意図して使用していないので従来通り」は使う側の論理
当日、記者から「ダイアベティス」では分かりにくく、伝わりにくいといった反対意見も聞かれた。
清野氏は、現状ではそのような意見もあるとした上で「患者がスティグマを感じている」「言葉の意味を伝え、皆が理解できるものであれば推進すべきだ」との認識を示した。門脇氏は「私自身、JDSで長年活動し理事長も務めた。呼称が変わることへの本能的な恐れもあり、最も反対していた」と本音を明かした。しかし清野氏と同席した際のADA側の反応に鑑み、門脇氏が糖尿病という呼称に慣れ親しんできた感覚と、患者が社会から受けるスティグマを自身なりに長い間考えたという。前述のAASD/JADEC合同シンポジウムでの議論を踏まえ、同氏は「私が変わった」と強調した。
現在、同氏が会長を務める日本医学会では「優性遺伝/劣性遺伝」に代わる推奨用語「顕性遺伝/潜性遺伝」を検討する際(当時、副会長の職)、所属する3分の2の学会は「スティグマを与えようとしてこれらの用語を用いているわけではないので、このままでよい」との意見だった。しかし「それは使う側の論理であって、スティグマを感じる側の立場を尊重すべきだ。そもそも優劣を使うのは誤訳である」と同氏は指摘した。
今回のメディアセミナーでの議論を通して、同氏らは「このように議論を続けることが大事だ」と呼びかけた。
(編集部・田上玲子)