中国・Shanghai Sixth People's Hospital Affiliated to Shanghai Jiao Tong University School of MedicineのZipeng Ye氏らは、前十字靭帯再建術(ACLR)後の多血小板血漿(PRP)関節内注射の有効性を検討するため、ACLRを受けた患者120例を対象に単施設単盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施。その結果、12カ月後の膝の症状や機能に対する有意な改善は認められなかったJAMA Netw Open2024; 7: e2410134)に報告した。(関連記事「膝OAに多血小板血漿療法は効果なし」)

PRP群に1カ月間隔で3回注射

 Ye氏らは今回、ACLR後にPRP関節内注射を施行する群と非施行群で主観的転帰と移植片の成熟度を比較する単施設前向き単盲検RCTを実施した。

 対象は、2021年3月21日~22年8月18日に中国の国立医療センターで登録したACLRを予定している16~45歳の前十字靭帯損傷患者120例(平均年齢29.0±8.0歳、男性70%)。1カ月間隔で3回の術後PRP関節内注射を行う群(PRP群、60例)と、術後PRP注射を行わない群(対照群、60例)に1:1でランダムに割り付けた。外科医および治験責任医師には患者の割り付け群を盲検化した。

 12カ月間追跡し、2023年8月28日に追跡を終了した。

 主要評価項目は、術後12カ月時点のKOOS(膝関節損傷・変形性関節症の転帰スコア)下位尺度4項目(痛み、症状、スポーツとレクリエーション、QOL)の平均スコア(範囲0~100、高値ほど膝関節の機能が良好)とした

 副次評価項目は、3、6、12カ月後の患者報告による転帰(PROs)、移植片の成熟度(MRIで評価)などとした。PROsは、12カ月後のグローバル変化評価 (GROC) スケール (範囲-7~7、高値ほど改善)の他、3、6、12カ月後のKOOS下位尺度、朝、午後、夜、活動時のVisual Analogue Scale(VAS)スコアの合計(同0~40、高値ほど疼痛が悪化)、Tegnerスコア(同0~10、高値ほど活動レベルが高い)、Lysholmスコア(同0~100、高値ほど膝関連症状が少ない)、国際膝記録委員会の自覚的膝評価用紙(IKDC)スコア(同0~100、高値ほどパフォーマンス向上)で評価した。

12カ月後のKOOSスコアの平均群間差は2.0で有意差なし

 120例中114例(95%)を主要評価項目の解析対象とした。

 intention-to-treat(ITT)解析の結果、術後12カ月時点の平均KOOSスコアは、PRP群で78.3±12.0(95%CI 75.2〜81.4)、対照群で76.8±11.9(同73.7〜79.9)と有意差は認められなかった(調整後の平均群間差2.0、95%CI -2.3~6.3、P=0.36)

 副次評価項目については、12カ月後に評価したGROCスケール、3カ月後および12カ月後に評価したその他のPROsともに両群で有意差はなかった。しかし、6カ月後に評価した2つのPROs〔スポーツおよびレクリエーションのKOOS下位尺度(調整群間差の平均6.8、95%CI 0.1~13.6、P=0.046)、Tegnerスコア(同0.8、0.3~1.3、P=0.001)〕は、対照群と比べPRP群で有意な改善を示した。

 移植片の成熟度は、対照群と比べPRP群で6カ月後の前内側束(関節内セグメントの中央値:13.6 vs. 10.3、P=0.03、大腿骨トンネル内セグメントの中央値:同17.4 vs. 13.4、P=0.003)および後外側束(同15.1 vs. 11.4、P=0.007、19.6 vs. 15.4、P=0.02)で改善が見られた。3カ月後および12カ月後の成熟度に両群で差はなかった。

 PRP群における介入関連の有害事象は軽度かつ一時的で、4例(6.7%)が注射部位の疼痛、3例(5.0%)が注射後の膝の腫脹を報告した。

 研究の限界として、Ye氏らは「参加者は自身の割り付け群を知っていた上、対照群には生理食塩水注射が行われず、PRO評価は主観的傾向やプラセボ効果の影響を受けた可能性がある。さらに、本試験における標準的治療とは異なる手術手技や治療プロトコルを適用する場合、今回の結果は一般化できない可能性がある」と説明した上で、「PRPの適切な適応を同定するには、さらなる研究が必要である」と結論している。

(今手麻衣)