ドイツ・University of CologneのJonathan Henssler氏らは、抗うつ薬の中止後発現症状(discontinuation symptoms)の発生率を評価するため、79件の研究・2万1,000人超の患者を対象にシステマチックレビューとメタ解析を実施。その結果「約3人に1人に抗うつ薬中止後発現症状が発生していた。プラセボを投与された患者でも約6人に1人に発生していた」とLancet Psychiatry(2024年6月3日オンライン版)に報告した(関連記事「抗うつ薬、減薬のポイントは」)。
めまい、頭痛、吐き気などが数カ月続くケースも
抗うつ薬を用いる場合、患者に抗うつ薬を突然中止するリスクについて知らせ、漸減することが推奨されている。抗うつ薬の中止後発現症状として頻繁に報告されている症状はめまい、頭痛、吐き気、不眠、易怒性などで、中止後数日以内に出現し、一時的なものが多いが、数週間から数カ月にわたって続くケースもあるという。
患者の半数ほどに発生し、重症と分類される症状も約半数を占めるとの報告もあるが、選択バイアスや不満バイアスが生じやすいオンライン調査などを含むという理由から、その信頼性が疑問視されてきた。また、こうした症状はうつ病の再発によるものかどうかが不明なことや、一般集団やプラセボでも起こりうることから定量化が困難で、発生率は明らかでなかった。
そこでHenssler氏らは、抗うつ薬を中止した患者とプラセボを中止した患者における中止後発現症状の発生率と、重症の中止後発現症状の発生率を検討するため、システマチックレビューおよびメタ解析を実施。PubMed、EMBASE、CENTRALに2022年10月13日までに収載された論文から、精神障害、行動障害、神経発達障害の患者を対象に、既存の抗うつ薬(抗精神病薬、リチウム、チロキシンを除く)を中止または漸減した研究を探索した。
最も発生率が高いのはイミプラミン
スクリーニングされた6,095報の論文のうち、76報の研究79件〔ランダム化比較試験(RCT) 44件、観察研究35件〕を抽出した。2万1,002例(女性72%、平均年齢45歳)のうち、抗うつ薬中止例が1万6,532例、プラセボ中止例が4,470例だった。
解析の結果、62件の研究において、抗うつ薬の中止後発現症状の発生率は0.31 〔95% CI 0.27~0.35、予測区間(PI)0.11~0.62、I2=94.1%〕だった。発生率はバイアスリスク(RoB)が低い研究25件の0.29 (同0.24~0.35、0.10~0.61、I2=95.6%) に対し、RoB が高い研究37 では0.33 (同0.27~0.39、0.10~0.67、I2=92.5%)だった。
2件以上の研究からエビデンスが得られた抗うつ薬のうち、中止後発現症状の発生率が最も高かったのは三環系抗うつ薬イミプラミン(0.44、95%CI 0.25~0.66)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のベンラファキシンまたはdesvenlafaxine(同0.40、0.35~0.45)で、最も低かったのは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のfluoxetine(同0.15 、0.01~0.80)とセルトラリン(同0.18、0.08~0.35)だった。
22件のプラセボ対照RCTにおいて、プラセボ投与例の抗うつ薬中止後発現症状の発生率は0.17〔95%CI 0.14~0.21、PI 0.06~0.41、I2=90.0%〕だった。発生率はRoBが低い研究14 件の0.20 (同0.16~0.26、0.07~0.47、I2=91.9%)に対し、RoBが高い研究8件では0.11 (同0.07~0.18、0.02~0.40、I2=81.4%)だった。
19件の研究で重症の抗うつ薬中止後発現症状が報告され、発生率は0.028〔95% CI 0.014~0.057、PI 0.001~0.377、I2=84.1%〕だった。6件の研究におけるプラセボ治療中止後の重症の抗うつ薬中止後発現症状の発生率は0.006(95%CI 0.002~0.013)だった。最も発生率が高かったのはイミプラミン(0.123、95%CI 0.015~0.577)、SSRIのパロキセチン(同0.053 、0.025~0.107)、ベンラファキシンまたはdesvenlafaxine(同0.056 、0.002~0.678)の投与中止後であった。
I2および τ2統計に基づく大きな異質性を示しており、広いPIに反映されていた。
過度に心配する必要はない
今回の結果から、Henssler氏らは「抗うつ薬を中止した患者の約3人に1人が、なんらかの抗うつ薬中止後発現症状を呈し、重症の症状は約30人に1人に発生したことが示された。プラセボ投与例でも約6人に1人に同様の症状が発生していた」と結論。
「漸減期間などの研究デザインや使用された抗うつ薬の大幅な異質性により、確固とした結論は出せない。結果を解釈する際には残存または再発する精神病理学を考慮する必要がある」とした上で、結果について「臨床医は患者に過度の不安を引き起こすことなく、抗うつ薬の中止症状が現れる可能性のある範囲について知らせることができるだろう」と述べている。
(平吉里奈)