人工膝関節全置換術(TKA)は、歩行や階段昇降など日常生活動作の改善に有効な一方、施行後の長引く痛み(遷延痛)に悩まされる患者もいる。遷延痛の予防には周術期の疼痛管理が重要だが、疼痛の要因や性質は多様である。畿央大学大学院健康科学研究科の古賀優之氏らは、TKA前後に患者が訴える疼痛の性質と術後の疼痛強度との関連を分析。疼痛の中でも、術後2週時の「ひきつるような痛み」が遷延痛に関連していることを明らかにしたと、Sci Rep(2024; 14: 15217)に発表した。(関連記事「小児の術後遷延痛、チーム医療が緩和に有効」)
疼痛の性質22項目について分析
変形性膝関節症(膝OA)患者に対するTKAは有効性が高く、膝の痛みや機能障害の改善、歩行能力の回復、QOLの向上が見込める。ただし、約20%が術後に3カ月以上の遷延痛を経験する。遷延痛には術前の疼痛強度や術後の急性疼痛の関連が指摘されており、周術期の疼痛管理が重要となる。
疼痛の要因は多岐にわたり、関節炎に由来する痛みと感覚異常に由来する痛みでは表現が異なる。古賀氏らは、TKA前後に患者が訴える疼痛の性質に着目し、遷延痛との関連を分析した。
対象は、2018年4月~23年12月に協和会病院(大阪府)でTKAを受けた入院患者52例(平均年齢76.2±8.3歳、女性50例、Kellgren-Lawrence分類グレードⅢ 19例、Ⅳ 56例)。TKA前後の疼痛について、Short Form McGill pain questionnaire-2(SFMPQ-2)に基づき22項目の疼痛の性質(感覚的表現・感情的表現)を、Numerical Rating Scale(NRS:0~10、高スコアほど強い痛み)を用いて強度をそれぞれ評価し、遷延痛に関連する因子を探索した。
術後2週時に4項目が改善、2項目が悪化
まず、疼痛の性質別に術前と術後2週時の強度を比較したところ、「ずきんずきんする痛み(NRSスコア中央値4.5→0、P<0.001)」、「鋭い痛み(同2→0、P<0.001)」、「うずくような痛み(同3.5→0、P=0.001)」、「疲れてくたくたになるような(同0.5→0、P=0.002)」の4項目が有意に改善した。一方、「さわると痛い(同0→1、P=0.025)」、「むずがゆい(同0→0、P=0.013)」はわずかながら有意に悪化していた(図1)。
図1.疼痛の性質別に見た術前と術後2週時の疼痛の強度
次に、マルコフ連鎖モンテカルロ法による事後分布推定を用いたベイズアプローチにより、術前・術後2週時の疼痛の性質と術後3、6カ月時の疼痛の強度との関連を分析した。その結果、術前の4項目〔「ビーンと走る痛み(推定値0.42、95%CI 0.06~0.81)」、「うずくような痛み(同0.50、0.02~1.04)」、「軽く触れるだけで生じる痛み(同-0.68、-1.41~-0.01)」、「感覚の麻痺/しびれ(同0.42、0.05~0.78)」〕、術後2週時の1項目〔「ひきつるような痛み」(同0.50、0.03~1.02)〕が、術後3カ月時の疼痛の強度と有意に関連していた。術後6カ月時の強度に関連する項目はなかった。
さらに、これら5項目と遷延痛(NRSスコア3以上)との関連を分析すると、術後2週時の「ひきつるような痛み」のみが術後3カ月時(推定値1.42、95%CI 0.60~2.37)および6カ月時(同0.95、0.21~1.78)の遷延痛と有意に関連していた。(図2)
図2.術前および術後2週時の疼痛の性質と遷延痛との関連
(図1、2とも畿央大学プレスリリースより)
以上を踏まえ、古賀氏らは「TKA後の遷延痛には、術後2週時の『ひきつるような痛み』が関連することが明らかとなった。今回の知見は、疼痛の病態に基づくより具体的な遷延痛予防のための介入法選択の一助となりうる」と結論。「今後は、疼痛の性質の背景にある運動障害や末梢/中枢神経制御のメカニズムについて検証を進めたい」と付言している。
(小暮秀和)