パーキンソン病の特徴的な症状の1つである歩行障害には多様な神経機能が関与しているが、歩行の代償機構を担う脳内ネットワークの詳細は明らかでない。京都大学大学院臨床神経学の西田聖氏〔現:倉敷中央病院(岡山県)脳神経内科医長〕らは、パーキンソン病の歩行障害に関わる神経ネットワーク機構を探索する研究を実施。歩行障害が重度の患者では前頭頭頂ネットワーク(FPN)と線条体の機能的結合が減弱しており、両者の機能的結合は前脳基底部の灰白質容積と相関すること、前脳基底部のアセチルコリン作動性神経の障害が両者の機能的結合を調節し歩行の代償に関係することが示唆されたと、Neurology(2024; 103: e209606)に発表した。(関連記事「ロボットがパーキンソン病の歩行機能を改善」)
単一課題と二重課題の条件下で歩行機能をクラスター解析
神経変性疾患の一種であるパーキンソン病では、小刻み歩行、すり足歩行、突進現象、すくみ足などの歩行障害が生じる。歩行障害には多様な神経機能が関係し、注意や遂行などの認知機能が代償的に働いていると考えられてきた。西田氏らは、パーキンソン病患者の認知機能による歩行障害への代償、代償の破綻による歩行悪化に関わる脳内ネットワークのメカニズムを検証した。
対象は、パーキンソン病患者56例。歩行機能、認知機能、頭部MRI構造画像、安静時機能的MRI(fMRI)を評価した。歩行機能は、歩行解析板を用いて歩幅や1歩にかかる時間など29項目について、通常歩行(単一課題)と認知的課題を伴う歩行(二重課題)の2つの条件下で測定。
次元削減のアルゴリズムにより、高次元の測定データを三次元に変換して可視化。クラスター解析を行い、①両課題条件下ともに歩行機能が保持された群(23例)、②二重課題条件下で歩行が悪化する軽度歩行障害群(16例)、③両課題条件下とも歩行が悪化する重度歩行障害群(17例)-の3群に分類した。他の2群に比べ、重度歩行障害群は注意や遂行といった認知機能の低下が認められた。
新たな視点での薬物療法やリハビリの開発を
次に安静時fMRIデータを用いた独立成分分析により、脳内ネットワーク間の機能的結合を調べたところ、歩行機能保持群に比べ重度歩行障害群では左右のFPNと線条体(特に尾状核)の機能的結合性が弱かった(左FPN:d=1.21、P<0.001/右FPN:d=1.05、P=0.004)。
さらにFPNと尾状核の機能的結合は、注意機能に影響する前脳基底部の灰白質容積と有意に相関していた(左FPN-尾状核:r=0.27、P=0.04)。これらを踏まえ、アセチルコリン作動性神経の障害が両者の機能的結合を調節し、パーキンソン病患者における認知的歩行の代償に関係していることが示唆された。
西田氏らは「パーキンソン病患者の歩行障害に対し、アセチルコリン作動性神経を刺激する薬物療法や、注意・実行機能を高めるリハビリテーションによる介入が有用である可能性が示された」と結論。今後は「健常者でもFPNと尾状核の機能的結合が歩行に影響するかなどの検証が必要」と付言している。
(小暮秀和)