GLP-1受容体作動薬の使用による自殺死亡リスクの上昇が懸念されている。スウェーデン・Karolinska InstitutetのPeter Ueda氏らは、同国とデンマークでGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬の使用者約30万例を対象に、薬剤の使用と自殺死亡リスクとの関連を検討。その結果、GLP-1受容体作動薬による自殺死亡リスクの上昇は認められなかった、とJAMA Intern Med2024年9月3日オンライン版)に報告した。関連記事「セマグルチド、自殺念慮の不均衡シグナル検出

自殺死発生率に差なし

 GLP-1受容体作動薬の2型糖尿病肥満に対する使用が増加している中、昨年(2023年)、欧州医薬品庁(EMA)はGLP-1受容体作動薬使用者で自傷や自殺念慮があった150例を調査し、それが薬剤によるものか、患者に潜在する疾患によるものか、またはその他の要因によるものかはまだ明らかでないと報告した。そこでUeda氏らはスウェーデンとデンマークのGLP-1受容体作動薬の使用者と、自殺との関連が報告されていないSGLT2阻害薬の使用者を対象に、薬剤の使用と自殺死亡および自傷リスクとの関連を検討した。

 対象は主に2型糖尿病の治療にGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬が使用され、2013~21年にスウェーデンとデンマークでこれらの薬剤の新規使用者として登録された18~84歳の成人患者29万8,553例〔GLP-1受容体作動薬使用者12万4,517例(平均年齢60歳、女性45%)、SGLT2阻害薬使用者17万4,036例〕。薬剤使用と自殺死亡リスクとの関係を検討するため、傾向スコア法を用い交絡因子を調整して発生率を、Cox回帰分析法を用いてハザード比(HR)を算出した。使用したGLP-1受容体作動薬は、リラグルチド(50%)とセマグルチド(41%)が多かった。

 検討の結果、平均2.5年の追跡期間中にGLP-1受容体作動薬群の77例(0.06%)、SGLT2阻害薬群の71例(0.04%)が自殺死亡した。1,000人年当たりの自殺死亡の発生率は0.23件 vs. 0.18件、HR 1.25(95%CI 0.83~1.88)、絶対差は1,000人年当たり0.05件(95%CI -0.03 ~0.16件)だった。

自傷、うつおよび不安症も差なし

 次に、登録前3カ月以内に自傷した者を除いたGLP-1受容体作動薬使用者12万4,459例、 SGLT2阻害薬使用者17万3,985例を対象に、薬剤使用と自殺死亡および自傷リスクとの関連を検討した。その結果、追跡期間中にGLP-1受容体作動薬群の489例(0.39%)、SGLT2阻害薬群の465例(0.27%)に自殺死亡または自傷が発生。1,000人年当たりの自殺死亡および自傷の発生率は1.47 vs. 1.78件 (HR 0.83、95%CI 0.70~0.97)だった。

 さらに、精神疾患患者を除外したGLP-1受容体作動薬使用者7万2,420例とSGLT-2阻害薬使用者11万1,083例を対象に、薬剤使用とうつおよび不安症の発生との関係を検討した。その結果、GLP-1受容体作動薬群の4,913例(6.78%)、SGLT2阻害薬群の5,848例(5.26%)でうつおよび不安症が発生。1,000人年当たりのうつおよび不安症の発生率は25.8件 vs. 25.4件、HR 1.01(95%CI 0.97~1.06)だった。

 以上から、Ueda氏らは「主に2型糖尿病患者を対象とした2カ国のコホート研究の結果、GLP-1受容体作動薬の使用による自殺死亡はまれで、SGLT2阻害薬に比べGLP-1受容体作動薬の使用で自殺死亡、自傷、うつおよび不安症のリスクは上昇しなかった」と結論した。

(医学ライター・大江円)