日本心臓血管外科学会、日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本眼科医会は、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が11月11日に東京都で開いた記者懇談会で、各学会/医会として要望した今年度(2024年度)診療報酬改定外科関連加算の結果を総括した。一部の要望に配慮が見られるなど一歩前進するも、なお厳しい結果だった(関連記事「ロボット支援手術の増点は1件も認められず」)。

2つの体制加算、施設基準に心臓外科手術入らず

 日本心臓血管外科学会保険診療委員会委員で埼玉医科大学心臓病センターセンター長(同医科大学病院副院長兼任)の鈴木孝明氏は、施設集約化を目指し要望した今年度診療報酬改定の結果について報告した。

 心臓外科手術は国内の約600施設で行われているが、心臓外科医の数が少ない上に、心臓外科医が周術期管理の全てを担っている施設は少なくない。同学会が実施した会員調査では、働き方改革の実現には施設当たりの専門医数を増やす施設の集約化を求める声が43.5%にも上った。

 また心臓胸部大血管手術件数が多い施設では、死亡率がより低いこと(Gen Thorac Cardiovasc Surg 2012; 60: 625-638)から、医師の働き方改革と良質な医療提供の両面で施設の集約化が求められている。

 しかし、心臓胸部大血管手術実施施設の約3分の1はいまだ年間実施件数が50件未満にとどまっている。

 集約化の実現に向け、心臓血管外科専門医認定機構は今年度、基幹施設の認定要件として心臓胸部大血管手術件数を年間40件以上から100件以上に引き上げた。

 さらに同学会は昨年、厚生労働省に診療報酬に関する要望を2点提出した。1つ目は、2022年度改定で新設された急性期充実体制加算1に、実績要件として「心臓胸部大血管手術年間80例以上」を加えること。 今年度診療報酬改定で急性期充実体制加算1に同手術が加えられたが、件数については専門医機構に足並みをそろえ年間100例以上となった。施設集約化の足がかりとなりうるものの、急性期充実体制加算1の届出医療機関のうち許可病床数400床以上の医療機関の半数は心臓胸部大血管手術実施が年間100件未満だ(図1)。うち、今年度改定により急性期充実体制加算1を算定できなくなる施設は約10%と考えられている。

図1. 急性期充実体制加算改定により期待されること

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 2つ目は、総合入院体制加算1にある心臓手術要件として年間40件以上を、60件以上に引き上げること。これにより施設の集約化がさらに進むことが期待されるが、今年度改定では変更されなかった。さらなる施設の集約化に向け、同氏は「総合入院体制加算1の心臓手術実施件数の見直しが必要である」と主張した。

救急・集中治療、交代制勤務を組めない施設で要件変更

 今年度診療報酬改定では、特定集中治療管理料および救命救急入院料の要件が変更された。これを踏まえ、日本集中治療医学会理事長で香川大学救急災害医学教授の黒田泰弘氏は、同学会と日本救急医学会が合同で実施したオンライン調査の結果を報告した。

 改定点は、医師に関する条件として交替制勤務導入の有無で特定集中治療管理料および救命救急管理料の点数を変えた点だ(図2)。また、交替制勤務を導入できず、宿日直勤務で対応する施設への措置として「特定集中治療室管理料5または6」が新設されたが、点数は低く抑えられている

図2. 診療報酬改定後の届け出状況

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 両学会の調査(調査期間:今年8月20日~9月10日、対象:日本救急医学会の救命救急センター長307人、日本集中治療医学会評議員375人、両学会重複51人、回答:322件のうち同じ治療室への重複回答を除外した305治療室で集計)によると、改定後に49治療室(16.1%)が「特定集中治療室管理料5または6」への変更もしくは「特定集中治療室管理料」「救命救急入院料」の取り下げを行っていたという。その理由として、交代制勤務を組めず専任医師が宿日直を行っていることが挙げられた。

 内訳を見ると、「特定集中治療室管理料1または2」(115治療室)から「3または4」「5または6」への変更は10.4%、「特定集中治療室管理料3または4」から「5または6」への変更は半数超の52.0%にも及んでいた(図2)。

 一方、「救命救急入院料2または4」(52治療室)から「5または6」「特定入院料の取り下げ」への変更は9.6%(図2)。「救命救急入院料1または3」(78治療室)から「特定入院料の取り下げ」への変更は9.0%に見られた。

 自由回答欄には、地方都市では十分な人員が確保できず交替制勤務の導入が困難で診療報酬の大幅な利益減が見込まれるとの記載や、集中治療科・救急科専門医資格を有する麻酔科医を他科兼任なしで常駐させるなど交代制勤務と同等の体制だが、今回の改定により大幅減額となるため勤務実態に即した加算を望むなどの記載があった。

 調査結果を踏まえ、同氏は「重症患者を診ている施設であっても、人員不足から交代制勤務を組めない施設が一定数存在する」などと説明した。ただし今回「ハイケアユニット管理料1」の間に「特定集中治療室管理料5または6」が新設されたことで、届出を変更しても「ハイケアユニット管理料1」よりも2,001点高く、急激な診療加算の変更は回避できた点を同氏は評価した。

 しかし最優先課題は、交替制を維持できる救急科専門医および集中治療科専門医の増員で、それには特定集中治療室管理料および救命救急入院料の「1または2」「3または4」の診療報酬の引き上げが求められる。

 これらの点から同氏は、両学会の協同声明3点を紹介した。

  • 今回の診療報酬改定で地域医療を支えている救命救急センターなどが経済的損失を被っていることが明らかになった。救急科専門医/集中治療科専門医が少ない中、宿日直勤務で運営可能な特定集中治療室管理料5または6の新設により激変は緩和されている
  • 学会としてのあるべき姿は交代制勤務であり、理想とする夜勤体制確立のために両学会として人員確保に尽力したい
  • 働き方改革を進めつつ質の高い急性期医療システムを維持するために、救急科専門医/集中治療科専門医が増えるような施策(インセンティブなど)をお願いしたい
    *責任や負担の大きさに見合った適正な報酬が得られる、救急科専門医/集中治療科専門医の待遇改善/インセンティブの付与

白内障手術の全身麻酔管理料など算定できず

 国内における白内障手術件数は年間150万件以上にも上る。白内障手術は、日帰り手術/検査に必要な術前・術後管理や定型検査などを包括的に評価する短期滞在手術等基本料の対象で、算定方法は包括払いとなる。しかし、短期滞在手術等基本料による負の影響を受けているのが白内障手術だ。

 日本眼科医会副会長で柿田眼科(千葉県)院長の柿田哲彦氏は、麻酔管理料が算定できないなどの問題点を説明した。

 短期滞在手術等基本料は、①日帰り手術の「短期滞在手術等基本料1」、②4泊5日までの「短期滞在手術等基本料3」―がある。しかしいずれも診療報酬が改定される度に点数が引き下げられ、①は2020~24年で-1,588点(-53.9%)、②は両側で-6,154点(-16.3%)、片側で-4,954点(-22.1%)引き下げられた(図3)。白内障手術を年間数百件実施している施設では1,000万円以上の減収となるという。

図3. A400短期滞在手術等基本料3(K282水晶体再建術 1眼内レンズを挿入する場合、ロ その他のもの)

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(図1~3とも記者懇談会発表資料)

 包括医療では、医療機関が努力すればするほど経営が赤字になるデフレスパイラルに陥る。②の診療報酬が引き下げられると、医療機関は入院日数の短縮、検査や処方控えを行うなどの経営の効率化を図る。これは過少診療につながるリスクがあるものの、厚労省が出来高ベースに換算すると効率化による低い点数がはじき出され、診療報酬の点数引き下げにつながるという。

 昨年5月29日~6月30日に実施した短期滞在手術等基本料を算定している医療機関に調査〔ウェブおよび紙、回答1,280件中484件(38.6%)〕を実施したところ、2022年4月から1年間で「眼科医数が減少した」(10.7%)、「白内障手術を中止した」(4.9%)、「眼科医を常勤から非常勤に変更した」(3.9%)の他、「眼科外来を閉鎖した」(1.0%)などの変化があった。

 調査の自由記載では次のような意見も見られた。

 50~60km圏内に入院して白内障手術を実施できる施設がないものの、手術患者は内科的併存症がある後期高齢者や独居が多く、日帰り手術は困難である。また認知症患者が増加し、独居や老々介護の状況があり術後眼の清潔保持や適切な点眼使用が困難である。

 短期滞在手術等基本料については、麻酔管理料などを算定できないという問題点もある。例えば、前述の意見にもあるように認知症患者に加えて精神病院の長期入院患者もおり、白内障日帰り手術は困難である。しかし「短期滞在手術等基本料3」では、全身麻酔の手技料・管理料が包括となるため算定できない。先の調査によると、全身麻酔の手技料・管理料を病院の持ち出しで実施した施設があり、中には50件以上を持ち出しで行っている施設も存在するという。

 同氏は、全身麻酔による手術が必要な患者の入院手術を阻んでいるとし、「社会的責任感により採算を度外視して、そのような患者を受け入れている病院の善意に甘え現状を放置することは大きな問題である」と指摘した。

(編集部・田上玲子)