直腸がんの男性患者は、手術後に性機能障害を起こし、QOLの低下や不妊に至る可能性がある。横浜市立大学市民総合医療センター講師の沼田正勝氏らは、直腸がん男性患者約400例を対象に、手術が性機能に及ぼす影響を腹腔鏡下手術とロボット支援下手術で比較検討する多施設前向き研究LANDMARCを実施。その結果、腹腔鏡下手術に比べロボット支援下手術で、直腸がん男性患者の性機能がより良好に維持されたAnn Surg(2024年10月22日オンライン版)に発表した(関連記事「前立腺がん治療の性機能障害、運動で改善」)。

開腹手術後の性機能障害発生率は約68%

 直腸がん手術を受けた男性患者は、直腸周囲の自律神経が損傷することにより、射精障害(射精ができない、精液を伴わない射精など)、勃起障害(勃起の程度が減弱)、性交障害(勃起不全のため性交ができない)などの性機能障害が起こりうる。特に開腹手術の場合、術後の性機能障害の発生率は約68%と高い。

 性機能障害はQOLの低下や不妊の原因となるため、男性患者にとっては看過できない合併症である。しかし、これまでに直腸がん手術と性機能障害との関連について検討した研究はほとんどない。

 また、直腸がんの手術法としては、開腹中心の時代から2010年代には腹腔鏡下手術が、2020年以降はロボット支援下手術が普及してきたが、腹腔鏡下手術に対するロボット支援下手術の有用性については明らかでない。

腹腔鏡群、ロボット群を各152例選出

 そこで沼田氏らは、直腸がん手術が性機能に及ぼす影響を腹腔鏡下手術とロボット支援下手術で比較検討する前向き研究LANDMARCを実施した。

 対象は、全国の大学、がんセンター、地域基幹病院など49施設で、直腸がんに対して腹腔鏡下またはロボット支援下による手術予定で70歳以下の男性患者410例(年齢中央値59歳)。1:1の傾向スコアマッチングにより、腹腔鏡群、ロボット群を各152例選出した。

 主要評価項目は性機能障害の発生率で、性機能は術前および術後3カ月、6カ月、12カ月に射精機能アンケート(EORTC QLQ-CR38)と勃起機能アンケート〔勃起高度スコア(EHS)、国際勃起機能スコア(IIEF-5)〕で評価した。勃起障害はEHSのベースラインからの1ポイント低下、射精障害は術前に射精可能だった患者における1ポイントの悪化、性交障害はEHSが術前3ポイント以上で術後2ポイント以下と定義した。

射精障害は腹腔鏡群40.9%、ロボット群25.0%

 検討の結果、術後12カ月時の性機能障害発生率は、全体で射精障害が29.8%、勃起障害が34.7%、性交障害が20.6%だった。

 解析の結果、術後12カ月時における射精障害の発生率は、腹腔鏡群の40.9%に対しロボット群では25.0%と有意に低かった(P=0.049、)。一方、勃起障害の発生率は38.8%、37.2%で、両群に有意差はなかった(P=0.796)。

図.手術アプローチ別の術後性機能障害発生率(腹腔鏡群 vs. ロボット群)

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(横浜市立大学プレスリリースを基に編集部作成)

 また、術後12カ月時における性交障害の発生率は、腹腔鏡群の29.0%に対しロボット群で17.8%と低い傾向が示された(P=0.055、)。

 以上から、沼田氏らは「直腸がん男性患者の性機能維持において、腹腔鏡下手術に比べロボット支援下手術がより有用。男性患者に対するロボット支援下手術の選択割合が増えれば、性機能障害に苦しむ患者が減少することが期待できる」と結論。さらに、今後について「性機能障害のリスク因子や年齢層別の性機能障害発生率などについて解析を進める予定だ」と展望した。

(編集部・比企野綾子)