国立循環器病研究センター副院長の豊田一則氏らの研究グループは、インスリン非依存型で第二世代スルホニルウレア(SU)薬の糖尿病治療薬グリベンクラミドの重症脳梗塞治療に対する有効性を検討した第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照国際ランダム化比較試験(RCT)CHARMの結果について「広汎脳梗塞に対する有効性にプラセボとの差は示されなかったが、125mL以下の梗塞ではプラセボに比べmodified Rankin Scale(mRS)で評価した90日後の転機は良好だった」とLancet Neurol(2024; 23: 1205-1213)に報告した。
神経細胞のイオンチャネルを阻害し浮腫を予防
広汎脳梗塞は脳浮腫を引き起こし、これによって惹起される頭蓋内圧上昇や脳ヘルニアは高度機能障害や死をもたらすことがあるが、浮腫を軽減できる薬物治療は限られる。SU1-一過性受容体電位メラスタチン4は神経細胞に存在するイオンチャネルで、脳梗塞後の細胞傷害性浮腫や血液脳関門破綻に関与することが分かっており、グリベンクラミドの静脈投与が、このイオンチャネルを阻害し、浮腫を抑制することが動物実験で示されていた。少数の広汎脳梗塞患者を対象に行った第Ⅱ相二重盲検プラセボ対照RCT GAMES-RP(Lancet Neurol 2016; 15: 1160-1169)では、グリベンクラミドの安全性が示されていた。
そこで豊田氏らは今回、18~85歳の、発症から10時間以内に試験薬投与が可能な広汎脳梗塞患者を対象にグリベンクラミドの有効性を検証するⅢ相試験CHARMを実施。広汎梗塞の基準は、実測で80~300mLまたはAlberta Stroke Program Early Computed Tomographic Score(ASPECTS)が1~5点(10点満点で点数が低いほど障害範囲が広い)の広範囲虚血領域を有する脳梗塞例とした。2018年8月~23年5月に535例を登録し、518例が試験薬の投与を受けた。
全体でmRS、死亡率に差は見られず
今回の解析対象は、70歳以下のグリベンクラミド群217例、プラセボ群214例の計431例。主な背景は、女性がそれぞれ32%、34%、平均年齢が58歳、58.7歳、アジア人が20%、21%、静注血栓溶解療法施行率は38%、39%、経皮的血栓回収療法施行率は両群とも19%、米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)の中央値は両群とも19だった。
90日時点のmRSに、両群で差は見られなかった。90日死亡率も、グリベンクラミド群で32%、プラセボ群で29%と有意差はなかった。
一方、再灌流療法の対象となる125mL以下の梗塞を有する例に限定して解析すると、mRSの分布はグリベンクラミド群で自立患者が多い傾向が示された(図)。
図. 梗塞サイズ125mL以下の患者における90日後のmRS
(国立循環器病研究センタープレスリリースより)
重篤な有害事象を含めた安全性は、グリベンクラミドの既報と一致しており、低血糖の発生率はグリベンクラミド群で6%、プラセボ群で2%だった。
今回の結果から、豊田氏らは「広汎脳梗塞患者に対するグリベンクラミドの有効性は証明できなかったものの、125mL以下の梗塞例に絞ると良好な傾向が認められた」と結論。これまでの報告から、大幅な後遺症改善効果が期待できる血栓回収療法が有効な患者は、128mL程度の梗塞サイズであることが報告されていることに触れ、「今後はこうした患者に対する血栓回収療法とグリベンクラミドの併用などについて検討したい」と展望している。
(編集部・平吉里奈)