いつか子どもを産みたいが、今すぐではないという健康な女性の間で「卵子凍結」への関心が高まっている。若いうちに卵子を凍結して老化を食い止め、妊娠したい時期に使う技術で、費用を補助する企業や自治体も増加。女性の人生の新たな選択肢になりそうだが、専門家はメリットとデメリットをよく考えるよう呼び掛けている。
 ▽採卵・凍結に60万円
 卵子凍結は、卵巣から採った卵子を病院や専門バンクで凍結保存する手法。がん治療などで将来自然妊娠が難しくなる女性に加え、近年は健康に問題のない女性の間でも広がっている。卵子の数にもよるが、採卵や凍結に50万~60万円、保管に年間5万~10万円かかるといわれる。妊娠したいときに解凍し、精子と体外受精して子宮に移植する。
 「安心した」と話すのは、パナソニックコネクト(東京)の社員(30)。大きな病気を患い、回復した経験から、初期費用を最大40万円支給する同社の制度を使って卵子を凍結することを決断。「また何があるか分からない。今の元気な卵子を残しておきたかった」と話す。
 伊藤忠商事は昨年、社員からの提案で、海外駐在中の保管料を補助する制度を導入。「安心して海外に行けるよう選択肢を用意した」(担当者)という。利用者からは「もともと検討していた。補助はありがたい」などの声が届いている。
 ▽広がる自治体の支援
 卵子凍結は、公表する有名人が増えたことや、東京都が2023年度に費用補助を開始したことで認知度が高まった。都は、応募が殺到するなど反響が大きいことから、25年度の予算を10億円と前年度の倍にする。旗振り役の小池百合子知事は「このような選択肢が、私が若い頃にあったら良かったと思う」と語っている。
 山梨県や大阪府池田市も費用を助成しており、東京都港区や千葉県柏市も今年、開始する。
 ▽デメリットも理解を
 一方で、卵子凍結は金銭面だけでなく身体への負担も小さくない。必ず妊娠できるとは限らない上、そもそも高齢出産はリスクを伴う。日本産科婦人科学会は、健康な女性の卵子凍結を「禁止しないが、無条件に勧めない」との立場だ。
 東邦大の片桐由起子教授は「子を持つ手段は複数あり、卵子凍結はあくまでその一つ。今の自分に本当に必要か、メリットとデメリットを十分理解した上で判断してほしい」と話している。

 ◇企業・自治体の主な卵子凍結支援
【企業】
 パナソニックコネクト 採卵・凍結費用を最大40万円補助
 伊藤忠商事      海外駐在中の卵子保管料を補助
 JTB        共済組合会員を対象に無利子で最大 120万円貸し付け
 ソニーグループ    凍結にかかる費用の半額補助
 ユニ・チャーム    提携バンクで割安に保管。社員の2親等まで利用可能
【自治体】
 東京都        卵子凍結した初年度に最大20万円補助
 山梨県        医療機関への支払いの半額を補助

 【編集後記】子どもは欲しいが、今はパートナーがいない、あるいは仕事に集中したい。そんな状況だと卵子凍結は魔法のつえと映る。一方で、先行する欧米では凍結しても結局使わなかった人が大半という。ある企業の担当者が「妊娠を遅らせようという制度ではなく、人生について考えようという制度」と話していたのが印象深い。つえを振るも振らぬも自分次第。妊娠してもキャリアが中断されない労働環境を整えることや、若いうちから男性を含めて妊娠をもっと知ることも重要だと感じる。(時事通信経済部記者・藤田綾)。 (C)時事通信社