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高齢者専門大学病院における多職種によるサルコペニア実態調査ではサルコペニア有病率は21.4%で、一般地域住民の有病率より高率であった。サルコペニア患者では食品摂取の多様性が低下していることを確認

学校法人 順天堂
順天堂大学の浅岡大介教授(※1,4)、菅野康二准教授(※2)、松野圭准教授(※2) 、宮内克己特任教授(※3)らのグループは、高齢者専門大学病院における多職種による高齢者のサルコペニアの実態調査を本邦で初めて実施し、サルコペニアの有病率は 21.4% (223例/1042例) と一般の地域住民を対象とした過去の研究の有病率(約14%)より高く、高齢者サルコペニア患者では食品摂取の多様性(*1)が低下していることを確認しました。健康長寿に影響を及ぼすサルコペニアに対し、食品摂取多様性の重要性が示唆されました。本研究はBiomedical Reports誌のオンライン版に2024年6月25日付で公開されました。 ※1:順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科 ※2:順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 呼吸器内科 ※3:順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 循環器内科 ※4:順天堂大学 健康総合科学先端研究機構ジェロントロジー研究センター


■ 本研究成果のポイント
高齢者専門大学病院における多職種によるサルコペニア実態調査の大規模前向きコホート研究(JUSTICE研究)の登録時データを用いた横断研究では、サルコペニア(AWGS 2019基準)の有病率は21.4%であり、一般の地域住民を対象とした過去の研究の有病率(約14%)より高かった。

高齢者サルコペニア患者では食品摂取の多様性が低下していた。

サルコペニア患者では、非サルコペニア患者と比べて、高齢・男性・Brinkman Index・位相角高値・デイケア利用(+)・糖尿病(+)・骨粗鬆症(+)症例と関連し、BMI・QOL・認知機能(MMSE)は低値だった。



■ 背景
 サルコペニアは加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指すが、サルコペニアによる筋肉量低下は寝たきり・要介護や死亡等の生命予後と密接に関連しており、人生100年時代・超高齢社会のわが国において健康長寿を妨げる一因となっており、サルコペニア予防は喫緊の課題となっています。本邦におけるサルコペニアの疫学では、一般の地域住民を対象とした過去の研究で、約14%前後(7~22%)と報告されている(*2)が、高齢者専門大学病院における高齢者のサルコペニアの実態は不明であり、多職種によるサルコペニアに関する多岐にわたる実態調査は少ない。当センターでは長寿いきいきサポート外来を開設し、各内科疾患のみならず、フレイル・サルコペニア・認知症・骨粗鬆症診療も合わせて行い、高齢者をトータルマネージメントすることにより健康長寿を目指している。今回、アジアにおけるサルコペニア診断基準としては2019年に改訂版となり最新の診断基準であるAWGS 2019を用いて、高齢者専門大学病院における多職種によるサルコペニアの有病率ならびにサルコペニアのリスク因子を横断研究で検討することを目的としました。

■ 内容
研究方法
●対象者:当センター内科外来を受診した65才以上の高齢者で自立歩行可能(杖歩行含む)である男性 458例、女性 584例の計1042名(平均年齢 78.2±6.1歳、平均BMI 22.9±3.9)※(図1)
●試験デザイン:横断研究(高齢者専門大学病院における多職種によるサルコペニア実態調査の大規模前向きコホート研究(JUSTICE研究)の登録時データを使用)
●調査項目:
(1)「医師による」患者背景問診: 年齢、性別、BMI(身長、体重)、SpO2、飲酒(0: None or social、1; 1-4 days /week、2: 5-7 days / week)、喫煙(Brinkman Index: 本数x年数)、併存疾患(脳梗塞/出血・心筋梗塞・心不全入院歴・間質性肺炎・悪性腫瘍・高血圧症・糖尿病・心房細動・骨粗鬆症)。
(2)「薬剤師による」内服薬(お薬手帳): スタチン・酸分泌抑制薬降圧薬、下剤、ステロイド、鎮痛薬、抗認知症薬、骨粗鬆症治療薬、抗精神病薬。総内服薬剤数。
(3)「看護師・心理士による」質問票: 便秘重症度問診票(constipation scoring system(CSS))、腹部症状関連QOL問診票(Izumo scale)(逆流・胃痛・胃もたれ・便秘・下痢)、簡易QOL評価(EQ-5D)、嚥下評価問診票(EAT-10)、COPD問診票(chronic obstructive pulmonary disease (COPD) assessment test (CAT))、認知機能関連問診(MMSE (Mini-Mental State Examination))、老年期うつ病評価尺度(Geriatric depression scale 15;GDS15)、オーラルフレイル問診票 (Oral Frailty Index (OFI)-8)、転倒歴・デイケア利用歴
(4)「栄養士による」栄養評価: 食品摂取の多様性得点(DVS: Dietary Variety Score)), CONUT score = (Alb, total Lymphocyte count, TC)
(5)「看護師による」身体測定: 握力・歩行速度(6m)計測、BIA法による位相角(phase angle: PhA)測定。
(6)「放射線科技師による」骨格筋量・骨密度測定: 二重X線エネルギー吸収法(DXA法): 骨格筋量指数: SMI(Skeletal Muscle Mass Index)(kg/m2)、腰椎・大腿骨頸部骨密度
(7)「臨床検査技師による」生理機能検査: 心電図(ECG): 心房細動の有無、呼吸機能検査
●評価: 高齢者サルコペニアの有病率ならびに、リスク因子の検討(単変量・多重ロジスティック解析)


研究結果
1.高齢者専門大学病院における高齢者サルコペニアの有病率(全体、年代、性別) ※(図2)
 高齢者におけるサルコペニアの診断は、アジアにおけるサルコペニア診断基準としては2019年に改訂版となり最新の診断基準であるAWGS 2019の診断基準に従い定義した。

サルコペニアの診断基準基準(AWGS 2019: Asian Working Group for Sarcopenia)は下記を満たすもの
AWGS 2019: Asian Working Group for Sarcopeniaの提唱するサルコペニア診断でサルコペニアと診断された患者 具体的には、下記の1か2、または両者該当し、かつ、3に該当すること 
 1.握力低下: 男性<28kg, 女性<18kg  
 2.歩行速度低下: < 1.0 m/sec  
 3.筋肉量の測定でDXA法による骨格筋量指数 (SMI) の低下 (男性<7.0kg/m2, 女性<5.4kg/m2)

全体(n=1042)におけるサルコペニア有病率は、 21.4% (223例/1042例) であり、年齢が上昇するにつれて、特に80代以降で増加し、女性と比べて男性では80代以降で有病率が急増することが明らかとなった。本邦におけるサルコペニアの疫学では、一般の地域住民を対象とした過去の研究では、約14%前後(7~22%)と報告されている(*2)が、本検討では一般地域住民の有病率より高かった。

2.高齢者サルコペニア患者のリスク因子の検討 (単変量解析) ※(図3)

・サルコペニア患者は非サルコペニア患者に比べて、高齢で、男性に多く、BMIは低値であった。また、併存疾患としては、脳梗塞/脳出血・心筋梗塞・心不全入院歴(+)・悪性腫瘍・糖尿病を有する症例に多く認めた。

・内服薬は、サルコペニア患者は抗認知症薬内服例が多く、総薬剤数が多かった。
・心理検査では、サルコペニア患者は認知機能(MMSE)が低く、うつのスコアが高値であった。
・生理検査では、サルコペニア患者は拘束性換気障害が多く、位相角が高値であった。

・栄養評価では、サルコペニア患者は、食品摂取多様性が低く、CONUT スコア(※上記数値が高いと低栄養)が高かった。
・他に、サルコペニア患者は、便秘重症度が高く、胸やけスコアや嚥下機能(※上記数値が高いと嚥下障害の可能性あり)や簡易QOL評価が低く、オーラルフレイル・転倒歴・デイケア利用歴が高かった。

3.高齢者サルコペニア患者のリスク因子の検討 (多重ロジスティック解析)

・多重ロジスティック解析では、高齢者サルコペニア患者では食品摂取の多様性が低下していた。
・サルコペニア患者では、非サルコペニア患者と比べて、高齢の男性に多く、Brinkman Index・位相角が高値で、デイケア利用(+)・糖尿病(+)・骨粗鬆症(+)症例と関連していた。また、BMI・QOL・認知機能(MMSE)は低値だった。

■ 今後の展開
 順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センターは、超高齢社会・人生100年時代において、健康寿命延伸対策として、健康長寿いきいきサポート外来を開設し、各内科疾患のみならず、フレイル・サルコペニア・認知症・骨粗鬆症診療も合わせて行い、高齢者をトータルマネージメントすることにより高齢者の健康長寿に積極的にかかわり、予防対策に努めてきている。今後、本研究での知見をもとに、高齢者の健康寿命延伸を目標に、精力的に臨床・研究をすすめていきたいと考えています。

■ 用語解説
*1 食品摂取の多様性得点 (DVS: Dietary Variety Score)
主食や嗜好品を除き、日本人が普段食べる主菜・副菜・汁物の約80%を占める食品群として、肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、果物、いも類、および油脂類の10食品群の1週間の食品摂取頻度から評価する。各食品群に対して、「ほぼ毎日食べる」に1点、「2日に1回食べる」、「週に1、2回食べる」、「ほとんど食べない」の摂取頻度は0点とし、その合計点をDVSとするもの。

Kumagai S, Watanabe S, Shibata H, Amano H, Fujiwara Y, Shinkai S, Yoshida H, Suzuki T, Yukawa H, Yasumura S, et al: Effects of dietary variety on declines in high-level functional capacity in older people living in a community. Nihon Koshu Eisei Zasshi 50:1117-24, 2003

*2 参考文献
1.Yoshida D, Suzuki T, Shimada H, Park H, Makizako H, Doi T, Anan Y, Tsutsumimoto K, Uemura K, Ito T, Lee S. Using two different algorithms to determine the prevalence of sarcopenia. Geriatr Gerontol Int. 14 Suppl 1:46-51. 2014
2. Akune T, Muraki S, Oka H, Tanaka S, Kawaguchi H, Nakamura K, Yoshimura N. Exercise habits during middle age are associated with lower prevalence of sarcopenia: the ROAD study. Osteoporos Int. 25:1081-8, 2014
3. Kitamura A, Seino S, Abe T, Nofuji Y, Yokoyama Y, Amano H, Nishi M, Taniguchi Y, Narita M, Fujiwara Y, Shinkai S. Sarcopenia: prevalence, associated factors, and the risk of mortality and disability in Japanese older adults. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 12:30-38, 2021
4. Yamada M, Nishiguchi S, Fukutani N, Tanigawa T, Yukutake T, Kayama H, Aoyama T, Arai H. Prevalence of sarcopenia in community-dwelling Japanese older adults. J Am Med Dir Assoc. 14:911-5, 2013

■ 原著論文
 本研究はBiomedical Reports誌のオンライン版に2024年6月25日付で公開されました。
タイトル: Association between dietary variety status and sarcopenia as defined by the Asian Working Group for Sarcopenia 2019 consensus in older outpatients at a hospital specializing in geriatric medicine: A cross‑sectional study with baseline data of prospective cohort study (JUSTICE‑TOKYO study)
タイトル(日本語訳): AWGS 2019診断基準による高齢者専門大学病院におけるサルコペニアと食品摂取多様性の関連(サルコペニアの前向きコホート研究(JUSTICE-TOKYO study)の登録時データを用いて)
著者: Daisuke Asaoka1, Koji Ssugano2, Kei Matsuno2, Nobuto Shibata3, Hideki Sugiyama3, Noemi Endo3, Yoshiyuki Iwase4, Miyuki Tajima5, Naoko Sakuma5, Megumi Inoue5, Mariko Nagata5, Taeko Mizutani6, Mizuki Ishii6, Sachi Iida6, Yoshiko Miura7, Yuji Nishizaki8, Naotake Yanagisawa8, Akihito Nagahara9 and Katsumi Miyauchi10
著者(日本語表記): 浅岡大介1, 菅野康二2, 松野圭2, 柴田展人3, 杉山秀樹3, 遠藤野恵美3, 岩瀬嘉志4, 田嶋美幸5, 佐久間尚子5, 井上恵5, 永田真理子5, 水谷多恵子6, 石井みづき6, 飯田茶稚6, 三浦佳子7, 西崎祐史8, 柳澤尚武8, 永原章仁9, 宮内克己10
著者所属: 1)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 消化器内科、 2)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 呼吸器内科、 3)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター メンタルクリニック、 4)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 整形外科、 5)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 薬剤科、 6)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 看護部、 7)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 栄養科、 8)順天堂大学 革新的医療技術開発研究センター 臨床研究支援センター、 9)順天堂大学 消化器内科、 10)順天堂大学医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 循環器内科
DOI: 10.3892/br.2024.1811
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