働き盛りに発症のピーク「膵神経内分泌腫瘍」
進化する希少がんの治療法
膵臓(すいぞう)の腫瘍の一種である膵神経内分泌腫瘍(膵NET)は、米アップル社のCEOを務めたスティーブ・ジョブズ氏が発症し、亡くなるまで闘った病気だ。膵臓でホルモンを分泌する内分泌細胞から発生するまれながんだが、近年相次いで新薬が登場し、治療法もかなり進歩している。2011年に専門外来を開設し、全国から患者が受診しに来る東京医科歯科大学医学部付属病院(東京都文京区)肝胆膵外科の工藤篤講師に話を聞いた。
膵神経内分泌腫瘍(膵NET)の特徴
▽肝転移が生命予後に影響
国内の疫学調査によると、2010年の膵NETの患者数は、05年に比べ1.2倍に増加した(有病率は人口10万人当たり約2.7人)。工藤講師はその理由を「CT(コンピューター断層撮影)や超音波検査などの診断技術の進歩により、新たに診断される人が増えた可能性があります」と分析する。働き盛りの50代に発症のピークがある、患者の30~85%は肝臓に転移する、その場合の5年生存率は40%と低いなどの点から、対策が急務だという。
ホルモン分泌により特徴的な症状が表れる機能性腫瘍と特徴的な症状のない非機能性腫瘍に分類され、後者が3分の2を占める。機能性腫瘍には幾つかのタイプがあるが、最も多いインスリノーマ(インスリンを大量に分泌する腫瘍)では発汗や震えなどが、ガストリノーマ(ガストリンを大量に分泌する腫瘍)では下痢などが表れる。非機能性腫瘍は自覚症状が乏しいため発見が遅れがちで、健康診断などで見つかることが多い。
▽遺伝子レベルで経過を予測
膵NETの治療には、腫瘍の切除、薬物療法、血流を遮断して腫瘍を壊死(えし)させる局所療法などがある。「2011年以降、エベロリムスやスニチニブといった分子標的薬の登場で、薬で腫瘍を縮小させて、手術で切除できる例が増えています。薬か手術かの二者択一ではなく、両方を適正に組み合わせて治療しています」と工藤講師は話す。
工藤講師らは、腫瘍に「PAX6」という遺伝子が多く認められる膵NET患者は、肝臓への転移がほとんどなく、5年生存率が100%であることを突き止めた。
工藤講師は「PAX6の血液検査の研究にも着手しています。実用化されれば、膵NETの生命予後を決める肝転移のリスクの高い人と低い人を事前に知ることができるでしょう。PAX6に着目した新たな分子標的薬の開発に結び付けることも期待できます」と話す。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/04/11 06:00)