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緩和ケア専門クリニック開設
患者のQOL向上に挑む

 大学病院など専門医療機関への通院患者を対象にした「緩和ケア」専門のクリニックが東京都内に昨年8月開設され、注目を集めている。緩和ケアは、終末期のがん患者の痛みを軽減するものだというイメージが強い。ただ、がんはもちろん、慢性心不全などの患者も対象とし、早期から患者の生活の質(QOL)を支える重要な治療だ。

 現在では治療開始当初からの緩和ケアの実施を国も求めているが、専門医等の資格を持つのは全国で1000人程度。比較的早期から取り組みが始まったがんの領域でも、医療機関によっては受けられる緩和ケアの時期や内容に濃淡がある。

治療開始から受けることが望ましい緩和ケア(国立がん研究センター・がん情報サービスより)

治療開始から受けることが望ましい緩和ケア(国立がん研究センター・がん情報サービスより)

 ◇「併診」スタイル

 緩和ケア専門として開設されたのは、早期緩和ケア大津秀一クリニック。都内の住宅街にあり、疾患自体については専門の医療機関で治療を受けながら、緩和ケアを受けるためにこのクリニックを定期的に訪れる「併診」と呼ばれるスタイルになる。

 病状が進んで通院が難しくなった場合は、患者の自宅近くで訪問診療に取り組む医療機関を紹介する。また、2回目以降の診察に限られるが、テレビ電話システムを使って遠隔診療も受けられる。

 このクリニックを開設したのは、ホスピスや緩和ケア病床、大学病院の緩和ケアチームなどで緩和ケアに取り組んできた大津秀一医師だ。いまだに早期から緩和ケアを受けられる医療機関が少ないことから、「『ここに来れば必ず早期から緩和ケアを受けられる』という場所を一つでもつくりたかった」と開設の目的を説明する。

患者にリラックスしてもらうため白衣を着用しない大津秀一医師

患者にリラックスしてもらうため白衣を着用しない大津秀一医師

 ◇痛みだけではない

 「緩和ケアイコール痛み止めではない」と大津医師は強調する。

 がんの進行に伴う疼痛(とうつう)に対してはモルヒネなどの医療用麻薬を含めた痛み止めが、以前に比べれば積極的に処方されるようになってきた。

 ただ、患者を悩ますのは痛みだけではない。身体症状に限っても吐き気や強い倦怠(けんたい)感、息苦しさや皮膚の炎症などと多岐にわたる。「痛み以外の症状にまであまり手が回っていない医療機関も少なくないのが実情だ。しかし、制吐剤や内服ステロイド剤、保湿剤などを適切に組み合わせて処方すれば、症状を大幅に軽減して患者のQOLを引き上げることができる」と大津医師は強調する。

 大津医師は、クリニックを受診した患者に対して必要に応じて薬を処方するとともに、治療に携わっている医師にその情報を提供している。

 ◇患者との意思疎通

 もう一つ大津医師が重視しているのが、対話に近い「問診」での患者との十分な意思疎通。同医師は「以前に比べれば、病状や治療法について医師から患者によく説明されているとはいえ、診察時間の短さから一方通行に終わっていたり、患者が病状や治療に関する不安や疑問を十分に伝えられなかったりすることは、残念ながらまだまだある。これが患者の不安や治療方針を決定する時のためらい、その後の後悔などにつながってしまう」と指摘する。

クリニックらしくないようにしつらえられた待合室

クリニックらしくないようにしつらえられた待合室

 このためクリニックの外来は予約制で、患者1人に対し、初診で40分、再診で30分の枠を確保している。薬の処方や患者の負担を考えて健康保険が適用される保険診療にする一方、初診時には1万9800円、再診時に1万円から5000円の予約料を「心苦しいが頂戴している」と言う。

 この背景について同医師は、現在の保険診療では検査や処置がない問診だけでの医療機関の収入は1人1200円程度。「これでは採算が採れず、クリニックを持続するのは困難だ。その結果、多くの医療機関がいわゆる『5分診療』にならざるを得ない」

 ◇台所苦しくても患者のため

 30分から40分の時間をかければ、患者は治療や病状についての疑問や不安を十分に医師に伝えられる。医師側も患者の家庭状況や精神状態まで把握し、必要なアドバイスをしたり、病状が悪化した場合の対処法などを相談しておいたりできる。

 大津医師は「東京都内のがんのセカンドオピニオンは、全額自己負担で40分3~4万円以上が相場。現在の予約料でも黒字とは言えないが、毎月1回通院する場合の患者の負担を考えて設定した」と苦しい台所事情を明かした。その上で、「治療について常にアドバイスを得られるメリットは大きい。何とかしてこの『がんの併診』を定着させたい」と力を込めた。(喜多壮太郎・鈴木豊)


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