医学生のフィールド
医学生が将来像を描くための「居場所」
~Doctors' Style~
医学部に入っただけでは漠然としている将来像について、どうしたら具体的イメージを描くことができるのか。
それは、実際に経験者に会って、話を聞いてみること。大学、専門、年代、性別を超えて、経験を積んだ医師と接して、自分なりの理想像を築き上げる。
それが医学生と医師の交流の場であり、第三の居場所(サードプレイス)となる。
そうした思いから「Doctors’ Style」を創設した正木稔子医師と、幹事である独協医科大学5年の野島大輔さんに話を聞いた。
正木医師
◇教えてくれる人がいない
――設立には何か、きっかけがあったのですか。
正木医師 構想に8年ぐらいかかっています。患者さんを大切にしたいという私の気持ちから始まりました。
医師として、患者さんに、どのように接していいのか正直、自分も分からないことが多く、そのことを教えてくれる人が周りにいないと思っていました。
経験を積んだ医師でも、「こういう患者さんには、こう接した方がいいよ」と、系統立って教えてくれるわけではありませんでした。
特に患者さんを亡くして、ショックを受けたときも、一人で乗り越えないといけない。それを口に出して理解し合える場所がないんです。
いろいろなことを全て一人で抱え込んで、自殺する医師も多いんです。
たまたま、同級生のいとこの学生を紹介され、カフェでいろいろ話をしているうちに、医療への熱い思いについても触れたところ、彼から「友達を連れてくるので、そういう気持ちをもっと話してほしい」と言われました。
その後も、彼らが友達を連れてくる回数が増え、人数も多い時には30人くらいになることもありました。
――その学生さんが正木先生を大学に呼び、セミナーを開催したのが始まりですよね。その時は、どんな内容だったのですか。
正木医師 キャリアと医療への思いをテーマにした内容で、2時間ぐらい講演しました。
女性医師の仕事と結婚の両立については、女性の関心がとても高く、自分の離婚の経験や、どうして耳鼻科を選んだのかとか。
最後は医師として、どういうふうに患者さんに接しているのか、何を大切にしているのかを話しました。
ある時、一人の学生が質問をしながら、不安のあまり泣いてしまったんです。
学校で勉強は教えてくれるけど、その先のことは分からない。就職先も選ばないといけない。
仕事を優先させると、プライベートってどうなっちゃうんだろうとか。
学生の不安な姿を見て、これはなんとかしてあげようって痛感したんです。医師の人生について話せる場所があっても良いのかなと。
交流会は食事をしながら、カジュアルな雰囲気で
◇カフェやダイニングを借り切って
――その後はどんな活動に移っていきましたか。
正木医師 基本テーマは人生っていうところと、医者の倫理観をメーンにしています。
どんな医師になりたいのかって、具体的に思い描くことで、人生はそこへ向かっていきます。
具体的なイメージがない場合、実際にロールモデルとなる医師に会って話をしてみると、分かることがたくさんあります。
その上で、キャリアや、女性は結婚、妊娠、出産について考えることで、自分なりの将来像が見えてきます。
――会って話すことが大切なんですね。どんなスタイルで会うのですか。
正木医師 各地で交流会を開催しています。会場は、誰でも気軽に参加できるように、普通に飲み屋さんとか、カフェ、ダイニングみたいなところです。
お茶や、20歳以上であればお酒を飲みながら、ご飯も食べられて、3時間ほど借り切って、医師と医学生だけで、気兼ねなく話せる雰囲気づくりをしています。
東京で開く時は、アクセスしやすいのか、毎回、全国から集まります。2019年2月の開催では、北は岩手、南は福岡から21校の学生が集まりました。
毎回、ゲストを1人呼んで、科を選んだ理由、いつ結婚したのか、結婚で大変だったこと、結婚と仕事との両立で悩んだことなどをインタビューします。
その後、私がキャリア、専門医制度、医局のことなどをレクチャーして、参加してくれた医師たちが順番に学生さんが座っているテーブルを回ります。
前回は51人の学生に対して17人の医師が参加してくれました。
――どのぐらいのペースで開催しているのですか。
正木医師 2~3カ月に1回、全国のどこかで開催しています。
現在、スタッフは全国に30人以上いて、18年は福岡、名古屋、金沢で地元のスタッフが中心となって開催しました。
大人数での食事付きの交流会のほか、留学や漢方をテーマにしたり、患者さんをゲストに招いたりするセミナーを「mini」と称して少人数で行っています。
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(2019/04/25 08:23)