母親の常用薬が影響-新生児薬物離脱症候群
妊娠前に主治医と相談を
妊娠中に母親が摂取した栄養は胎盤を通じて胎児に運ばれるが、同時に、服用した薬やアルコールなどの成分も胎盤を通過して胎児に影響を及ぼしている。新生児薬物離脱症候群(NAS)は、母親の常用する薬や嗜好(しこう)品の影響が出産によって急に断たれることで、新生児の脳や自律神経、消化器官などに起こる一時的な症状(離脱症状)を指す。昭和大学横浜市北部病院(横浜市都筑区)こどもセンターの井上真理医師は「妊娠を考えている場合は、薬を服用する際に必ず主治医と相談してください」と話す。
薬や嗜好品は胎児に影響する。医療機関に相談を
▽薬や嗜好品が原因に
NASを起こす原因となるのは、抗てんかん薬や抗うつ薬、抗不安薬などの向精神薬と、鎮痛薬、気管支拡張薬のほか、過度のアルコールやカフェイン、麻薬といった嗜好品の摂取などが挙げられる。井上医師は「日本では麻薬を原因とする発症は少なく、代わりに鎮痛薬や向精神薬で発症する例が多く見受けられます」と説明する。
NASの症状は、生まれた直後ではなく時間を置いて表れる。影響を受けていた成分が体外に排出されることで断薬状態になるからだ。
「ぐったりとして手足が震える、ミルクの飲みが悪い、異常な発汗や発熱、嘔吐(おうと)や下痢などが起こります。最も注意が必要なのは、呼吸が止まってしまったり、けいれんを起こしたりすることです」
▽正確な情報提供を
リスクがあると予測される新生児には「新生児薬物離脱症候群チェック表」を使って、脳や自律神経、消化器官のさまざまな項目を数時間ごとにチェックする。症状に応じて点数化し、ある基準以上になればNASと診断する。「基準に満たなくても、けいれんや呼吸が止まるなどの重い症状があった場合は、NASの疑いが濃厚と診断され、症状に応じた薬が処方されます」と井上医師。治療後は3~4週間ほどで快方に向かうという。
NASの早期発見のためには、出産をする医療機関の医師に、常用薬や嗜好品についてあらかじめ正確に伝えておく必要がある。リスクを予測し、母親の体調を最優先しつつ、薬の変更や減薬などの対応が可能か検討するためだ。同院でも、精神科や産婦人科、小児科の医師が連携し、リスクを最小限にする服薬方法を見いだしている。
井上医師は「向精神薬などは、一度服用するとすぐにはやめられないことがあるので、妊娠の可能性がある場合は、事前に主治医と十分に相談してください」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/05/04 16:16)