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地域の医療守り、世界へ
文理融合で健康寿命を延伸―島根大学医学部

 島根大学医学部は、戦後の医師不足解消を目指す一県一医大構想の新設医大の一つとして、1976年に開学した。全国に先駆けて入学試験に地域枠を設け、独自の選抜スタイルを採るなど、過疎化の進む地域の医療を守るためにたゆまぬ努力を重ねている。また、地域の結び付きが強い特性を生かした健康づくり対策を、他学部と協力して行うなど、文理融合的な研究にも取り組んでいる。並河徹医学部長は「島根県で地域に役立つ医師を目指せば、世界中どこへ行っても役立つ医師になれる」と学生たちに期待を寄せる。

 ◇地元への定着を促進

 インタビューに応じる並河徹医学部長
 島根大学医学部は、県内唯一の医師の養成施設として、地域医療に貢献する医師を育てることを一番の目的としてきた。高齢化率が3割を超え、過疎化が進む島根県で、医師の確保は最重要課題である。

 「県とも協力して、あの手この手で地域に定着してくれる若い医師を増やそうと取り組んでいます」と並河徹医学部長。

 入学試験では、推薦入試の地域枠と緊急医師確保対策枠、一般入試の県内定着枠の三つを設けて、県内への医師定着を促している。地域医療に関心のある学生たちを卒後にかけてサポートする地域医療支援学講座も10年ほど前に開設されている。

 地域枠推薦は、受験前、高校3年の春休みや夏休みを使って、地元の病院を1週間見学して、リポートを書き、病院長の面接を受けることが要件。介護施設などの見学も行い施設長の面接も受ける。

 「地元の医療関係者に人柄を見てもらった上で入学試験を受けてもらう。本人にも病院や施設にとっても負担の大きい入試です。地元がとても好きで、ここで仕事をしたいと思ってくれる学生を選抜したい」

 現在、奨学金を受けるのは任意だが、次年度の入試からは義務化も検討中だという。

  「例年、地域枠、緊急医師確保対策枠ともに定員を上回る応募があり、実力、人柄ともに備わった優秀な学生が入ってくれています」

 ◇多彩な取り組みで貢献

 並河医学部長がセンター長を務める地域包括ケア教育研究センターでは、健康寿命の延伸に向けた研究が進行中だ。医学部だけでなく法文学部、人間科学部など他学部との文理融合的な研究で、地域のつながりが強い島根県の地域性を生かした、ユニークな取り組みが行われている。

 「人間関係が良好なコミュニティーは健康面にも良い影響を与えるといわれています。医師は病気になってから患者さんにアプローチすることが多いのですが、予防の観点から地域づくりを行い、地域住民の健康維持に働きかけたいと考えています」

 一県一医大構想の新設医大の一つとして1976年に開学した
 生活習慣病予防の観点では、総合理工学部と協同で尿中の塩分を測定して記録するスマートフォンのアプリの開発にも取り組んでいる。

  「自分では減塩しているつもりでも実際は減塩になっていないことがよくあります。減塩の効果が客観的にフィードバックされれば、さらにモチベーションが高まるのではないかと期待しています」


 整形外科では、骨折の治療で患者本人の骨を加工して作ったねじを患部の固定に使う手術を2007年から実施。手術室で無菌状態のまま加工するための機器が開発され、実用化されている。患者自身の骨なので、後でねじを抜く必要がない点が大きなメリットだ。

  「女優の米倉涼子さんが主役を演じたTVドラマ『ドクターX』で、骨ねじのエピソードを紹介したのですが、島根大学がモデルでした」

 このほか、小麦アレルギーがある人でも食べられるグルテンを含まない小麦粉、統合失調症を免疫学的アプローチで治療する方法の開発、高品質な間葉系幹細胞を用いた小児の遺伝性疾患治療など、さまざまな分野でユニークな研究が進められている。

 ◇国立大学で初のハイブリッドER

 医学部付属病院には、国公立大学では初の「ハイブリッドER」を備えた高度外傷センターが設置されており、全国的にも注目されている。主に交通外傷の患者が対象となるが、緊急検査と手術が同じ場所で一貫して行える。

  「島根では交通事故の実数は多くないですが、高齢者が多いことも影響してか、死亡者は意外に多い。そのような重症外傷患者の救命に貢献しています」と並河医学部長。

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