心不全にも緩和ケア
患者・家族はいざというときの準備を
重い病を抱える患者やその家族に対し、痛みなどの身体的苦痛や、心理的、精神的、社会的苦痛を早期に発見し、適切な治療や処置を行うことで和らげる「緩和ケア」。がんの治療ではその重要性が広く知られているが、心不全に対しても2018年4月から公的医療保険の対象となった。今後取り組む医療機関が増えそうだ。
人生の最終段階に緩和ケアを必要とする疾患(成人)
▽高齢患者を中心に増加
心不全は、心臓の機能が衰え、息切れやむくみが起こり、徐々に悪化し、生命を縮める病気だ。国内の心不全患者の約7割が、75歳以上の高齢者。近年、患者数が増加し、20年には120万人に達すると予想されている。
慶応大学病院(東京都新宿区)循環器内科の河野隆志特任講師は、「心不全は適切な治療で症状は良くなっても、心不全そのものが完全に治ることはありません。症状が再発することもあり、入退院を繰り返しながら悪化し、病期が進行した段階では息苦しさや体の痛みに悩まされることも多い」と説明する。入院したことのある人は、平均で約半数が5年以内に亡くなり、乳がんより生存率が低い。
▽つらい症状は知らせて
世界保健機構(WHO)の調査では、人生の最終段階で緩和ケアを必要とする人の割合は、心不全を含む心血管疾患が38%とトップで、がんの34%を上回る。進行すると、呼吸困難、だるさ、痛み、食欲低下、不安・うつなど、さまざまな症状が表れる。症状を軽減、予防するために、心不全の治療と緩和ケアを並行して行うことが強調されている。
例えば、呼吸困難は心不全の末期に最もよく見られる症状だが、医療チームによる慎重な判断を踏まえて、呼吸を楽にするために少量のモルヒネを使用する。通常の心不全治療を中止することなく並行して行うことが可能である。
心不全になった場合、患者や家族はどう対応すればよいのか。「まず心不全ががんと同様に命を短くする病気であることや、症状が悪化した際に患者自身が判断できない状況になり得る病気であることを理解してほしい。病期が進行した段階で治療をどう選択するかは、それぞれの患者さんの価値観で異なるため、家族の間で“もしものとき”のことについて話し合い、いざというときの準備をすることは大切です」と河野特任講師。さらに、「つらい症状があれば和らげる治療・ケアがあるので、我慢せずに医療スタッフに伝えてください」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/05/31 06:00)