子宮頸がんと副反応、埋もれた調査
「名古屋スタディ」監修教授に聞く
---名古屋スタディがワクチン接種状況に何らかの影響を与えましたか。
定期接種が始まった当初は、70%の接種率でしたが、0.6%まで落ちていると聞きます。現在でも、定期接種は行っているわけですから、無料でワクチン接種を受けることはできる状態です。ただ、厚生労働省が積極的な勧奨を中止した状態が続いている以上、接種率は上がらないでしょう。
「名古屋スタディ」の論文を紹介する鈴木貞夫教授
---名古屋スタディとは相反する解析結果を示した論文も出ていますが。
論文に不備があった場合、科学者の世界では、論文を掲載した出版社に「レター」を出して指摘します。その指摘が妥当だと判断されれば、レターが受理され、最終的に論文が取り下げされる場合もあります。私は、HPVワクチンと症状に関連が観察されたという正反対の結論を導き出した論文に対して、撤回すべきというレターを出しました。ちなみに、私の論文に対するレターは一つも出ていません。レターが提出され、受理されれば、いつでもそれにお答えします。
---ワクチンを接種しても100%頸がんが防げるわけではありません。かかるかどうかわからないものを予防するより、検診で早期発見すればよいという考えもありますが。
子宮頸がんの予防は、ワクチン接種による一次予防と子宮がん検診による二次予防が車の両輪となって両方で行うことで効果が高まります。検診は子宮頸がんによる死亡を減らすだけで病気そのものを減らすわけではない。
◇年間3000人が死亡
ワクチンはHPV感染そのものを減らすことによって、子宮頸がんにかかること自体を防ぐものです。現在、日本で使用可能な2価あるいは4価のHPVワクチンで6~7割、日本で未承認の9価のワクチンであればさらに高い予防効果があるとされています。100%でないからといって、有効な予防法があるのに使わないのは、いい選択肢とは言えないと思います。
子宮頸がん検診の受診率が4割程度と先進国の中で低いことも問題です。子宮頸がんは発症年齢が若く、妊娠、出産にも影響します。とくに20歳~40歳代の若い世代で著しく増加している子宮頸がんの予防は、きわめて重要な課題だと思います。
---今後のワクチン接種、子宮頸がんをめぐる状況は、疫学の立場からご覧になって、どうなっていくと思われますか。
インタビューに応える鈴木貞夫教授
現在の状況は、正義感や価値観が動きすぎていて、根底にある科学性が無視されている。複雑になりすぎて、総合的に判断する人が誰もいない状況だと思います。私の論文がオンライン上に公開されたのが昨年の2月。1年以上たった現在になっても、この論文に関する新聞の取材や報道は私の知る限り、ゼロです。
疫学者の立場で言えることは、HPVワクチンを接種した世代だけ子宮頸がんによる死亡率が下がり、その後の世代はそれ以前と同じように毎年3000人死亡する状況に戻るだろうということ。
世界保健機関(WHO)のワクチン安全性諮問委員会は2016年12月17日に「HPVワクチンの安全性に関する声明」を出し、異例の名指しで日本のHPVワクチンへの対応を批判しています。HPVワクチンと子宮頸がんスクリーニングを急速かつ広範に実施することで、子宮頸がんは21世紀末までに世界のほとんどの国でごくまれな疾患となると推定されています。その中で、日本はどういうかじ取りをしていくのか、今後の動向を客観的に見守っていきたいと思います。(聞き手 医療ジャーナリスト・中山あゆみ)
(2019/06/11 16:45)