特集

画期的ながんゲノム治療
期待は大、ただ課題も

 ◇これからの課題

 しかし、それまで投与しても意味がないと考えられた薬が効果を持ちそうだ、と分かる患者はまだ少ないという。なぜなら、開発が進んだとはいえ、がんを誘発すると見られる遺伝子変異に比べ、開発されている分子標的薬の数は決して十分ではない。現状では「全遺伝子の検査を受けたがん患者のうち、新たな治療薬が見つかるのは1割程度だ」と指摘する。

 このような状態の背景には、現在のがん医療が臓器別の診断・治療が前提とされており、検査や使用できる薬剤も臓器別に定められていることがある。このためゲノム医療の効果が十分に生かせないなどの問題が指摘されている。「まだまだゲノム医療の恩恵を多くの患者が受けられるまでに解決すべき課題は多いし、時間もかかる。パネル検査などの遺伝子検査を受ければ大きな成果を得られる患者がいることは確かだが、それはごく一部に限られることも知っていてほしい」と、西原教授は念を押す。

ゲノム検査のために開発された専門ロボット(西原広史教授提供)

ゲノム検査のために開発された専門ロボット(西原広史教授提供)

 ◇データベース化が鍵

 そこで、西原教授らが力を入れているのが信頼できるゲノム解析情報の蓄積とデータベース化だ。「ゲノム医療には信頼できる情報が不可欠だが、そのためには実際のゲノムサンプルの摂取から検体の作成と分析、データの解析・評価までの各段階での精度を上げる一方、一定の水準の信頼性を保った日本人のゲノム情報を蓄積することが、今後のゲノム医療には欠かせないし、今しなければならないことだ」と同教授は力説する。

 このため、慶応大では2018年度から3年間かけて1万人のがん患者を対象にゲノム解析を行う臨床試験を始めたほか、実際のサンプル作成作業専用のロボットも開発・配備して、信頼の置ける全エクソンレベルのデータベースを構築する新たな臨床研究に乗りだしている。

 西原教授は「がんを対象にしたゲノム医療を実際の診療で活用するには、現在の制度ではさまざまな作業やコストが必要になる。また医療事務などの面でも複雑になることが予想される。これらの問題にどう対処するかも同時に議論することが、現在の大きな課題だ」と指摘する。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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