特集

画期的ながんゲノム治療
期待は大、ただ課題も

 がん細胞は、細胞内の遺伝子の変異で発生する。生じた変異によっては、変異を持つ細胞だけに効果を発揮する「分子標的薬」を使って、より高い治療効果を期待できるようになった。最近は、特定の遺伝子変異を調べるだけでなく、「ゲノム」(ヒトの全遺伝子情報)を広範囲に解析し、変異のパターンなどを把握して診療に反映させる「がんゲノム医療」が脚光を浴びている。がん治療は新たな段階に至ったのか。次世代のがん治療として期待を集めているがんゲノム医療について専門の医療関係者に聞いた。

ゲノム医療のイメージ

ゲノム医療のイメージ

 ◇一部のがん診療では既に実施

 「10年ほど前から、あるがん細胞の特定の遺伝子変異を見つけ、その変異にだけ有効に作用する分子標的薬を投与することで、これまでの抗がん剤治療より大きな治療効果を挙げている。その意味では既にがんゲノム医療は、一部だが実際の診療にも使われていると言える」

 慶応大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット長の西原広史教授(病理学)は、こう説明する。
 現在では、100種類以上の遺伝子の変異を同時に調べる「パネル検査」が普及し、より多くの遺伝子をカバーする「全エクソン検査」も始まるなど、1人の患者の中でどのような遺伝子変異が起きているかを把握することもできるようになっている。

西原広史・慶応大学医学部教授

西原広史・慶応大学医学部教授

 ◇個別化医療への期待

 西原教授は「遺伝子変異のパターンを捉えることで、似たような変異パターンの患者の記録を参考に患者一人一人の特性に応じた治療法の選択や、その後のがんの進展状況の予測ができる。これが、患者ごとに最適な治療を提供する『個別化医療』の実現につながる」と話す。

 具体的には、ある乳がん患者の遺伝子変異のパターンが一部の肺がん患者の変異パターンと似ていることが分かれば、その肺がん患者に有効な分子標的薬などの薬剤が有効な可能性が高いと推定できる。また、同じような変異パターンの乳がん患者が、乳がんに適用されている抗がん剤が効きにくく副作用も強いといったような場合は、治療薬の投与についてより慎重に対応することも可能になる。

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