教えて!けいゆう先生

医師は病気をどう診断するか
意外に知らない検査結果の解釈

 医師が検査結果を示して「あなたは〇〇という病気です」と病名を告げ、患者さんが落胆する―。こんなシーンを医療ドラマでよく見ます。「医師が検査結果を見れば明確に病気を診断できるのが普通だ」と信じている方は多いでしょう。しかし、実は病気の診断はそうシンプルでないことの方が多いのです。

 ◇病気の診断はどうなされるか

 病気の診断は、さまざまな情報を組み合わせなければ行えません。経過について問診し、体を診察し、血液検査やさまざまな画像検査などを行い、その結果を総合的に見て診断します。

病気と病気で無い状態の間には、なだらかに変化するグラデーションがある

 例えば、糖尿病は誰もがご存じの病気でしょう。この診断は、血糖値(測定方法に3種類あり)、HbA1cと呼ばれる検査値、糖尿病に典型的な症状などの条件を組み合わせ、かつ必要に応じて再検査を行う、という複雑なフローチャートによってなされます。

 また、全身性エリテマトーデスと呼ばれる自己免疫疾患には、症状や検査結果など診断に必要な項目が11種類もあり、そのうち4項目以上を満たすもの、という基準があります。

 ◇単純ではない人間の体

 病気の診断には、多くのステップが必要となるのが一般的なのです。当然ながら、「何らかの病気の兆候がある可能性はあるが、その所見はまだあいまいで、病名をつけることができない」というような患者さんも現れます。

 「明確な診断はつかないものの、時間をおいて再検査したり、生活改善を行ったりするなど、取り組むべきことはある」というケースもあります。「病気か病気でないか」は、白黒はっきりした概念ではありません。

 「病気」と「病気でない状態」の間には、なだらかに変化するグラデーションがあるということです。1回の診察で病気をズバッと診断できる医師や、単一の検査で病名をはっきりさせてくれる医師が名医である、と思う方は多いかもしれませんが、人間の体はそう単純なものではないのです。

 ◇カットオフ値という言葉

 病気の診断がシンプルではない、という点で、もう一つ重要な特質を解説します。

 健康診断などで血液検査を受け、その数値が異常であったために医療機関の受診を指示された、という経験のある方は多いと思います。しかし、「検査結果が異常か正常か」というのもまた、白黒はっきりした概念ではありません。

 お酒の好きな方がよく気にされる「γ―GTP」を例に挙げてみましょう。

 γ―GTPは、血液検査で測定が可能な数値で、アルコール性肝障害など肝臓の障害がある方で高くなる傾向があります。γ―GTPの基準範囲の上限は男性で50、女性は32程度に設定されていることが一般的です。

 この数値を「カットオフ値」と呼び、この値を超えていると健康診断で「高い」と言われる可能性があります。では、このカットオフ値は「正常か異常か」を二分するラインなのでしょうか。γ―GTPが50の男性は正常、51なら異常としていいのでしょうか。

 ◇「正常」と「異常」の間

 もちろんそうではありません。

 単一の検査結果を「正常か異常か」という観点で単純に解釈することはできません。前述の「健康か病気か」の議論と同じように、「正常」と「異常」の間にはグラデーションがあるからです。

 よって、検査結果の数値が、そのグラデーションのどの値に位置しているかによって、医師が患者さんに伝えるべきことは異なりますし、患者さんがすべきことも異なってきます。「正常なら何もしなくていい、異常なら治療しなくてはならない」というシンプルな二元論は成立しないのです。

 また、単一のタイミングでの検査値より、「検査値の推移」を見ることも大切です。

 検査値が基準範囲を超えていても、「数回の検査結果の推移を見ると徐々に下がっている」というケースでは、「何も治療せずに様子を見る」という選択が可能かもしれません。逆に、基準範囲には入っているものの、徐々に増加傾向にあるなら、何らかの注意喚起が必要なこともあるでしょう。

 こうした検査結果の変化は、臨床現場ではしばしば単一の検査結果よりも重要な判断基準と捉えられます。

 病気の診断や検査結果の解釈については、医師―患者間でコミュニケーションエラーの原因となることがあります。ここに書いた特質を知っておくと、こうした誤解は防げるのではないかと思います。(医師・山本健人)


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