治療・予防

インフルエンザ「新薬」
学会は積極的に推奨せず

 インフルエンザの本格的な流行シーズンを迎えた。医療機関を受診し、簡易診断キットでウイルス感染の有無を確認した上で症状の悪化と感染拡大を防ぐ抗ウイルス薬の処方を求める患者が増えている。最近、1回の内服で済む新薬「ゾフルーザ」が登場し、注目された。前シーズンは500万人以上の患者に投与されたと推定される。しかし、関係する医療学会はこの薬の処方を積極的に推奨していない。なぜか。専門家の意見を聞いた。

話題になっている新しい抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」=塩野義製薬HPより

話題になっている新しい抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」=塩野義製薬HPより

 感染症、小児科学会が「注意」喚起

 感染症学会や小児科学会は2019年~20年のシーズンに向けた治療指針や提言で、「12歳未満の患者への積極的な投与を推奨しない」「12歳以上には現時点では推奨・非推奨は決められない。12歳未満は低感受性株(ウイルス)の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する」などと指摘、ゾフルーザの投与に際して注意を喚起した。

インフルエンザA型のウィルス=国立感染症研究所提供

インフルエンザA型のウィルス=国立感染症研究所提供

 小児科学会は「新興・再興感染症対策小委員会」と「予防接種感染症対策委員会」の連名で公表した治療指針の中で、小児、特に12歳未満への使用経験が臨床試験を含めて少ないこと、ゾフルーザに対する「低感受性ウイルス」も登場し、この低感受性ウイルスが人から人に感染する家族内感染も確認されていることを指摘した。

 ゾフルーザ自体についても「12歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しない。一方で現時点においては 同薬に対する使用制限は設けないが、使用に当たっては耐性ウイルスの出現や伝播について注意深く観察する必要があると考える」との見解を示している。

岡田賢司・福岡看護大学教授

岡田賢司・福岡看護大学教授

 ◇「耐性」誘発の危険性

 両委員会委員長の岡田賢司・福岡看護大教授(小児科)は「新しい薬の評価が定まるには、数年はかかる。それまではそれぞれの医師が、一人一人の患者の様子をよく観察して薬を選ぶしかない」と言う。同時に「ウイルスや細菌に対して薬を使えば薬に対抗する変異を促し、薬が効きにくくなる『耐性』を誘発する。インフルエンザは自然治癒する病気でもあるので、抗ウイルス薬投与が必要な患者を選び、適正に投与することが重要だ」と話す。

 感染症学会インフルエンザ委員会の見解は、小児科学会と言葉遣いはやや異なるが、方向性は同じと見ることができる。インフルエンザ委員会の見解では対症療法のみで軽快することもしばしば認められることから、リスクを持たない若年層では全ての患者に抗ウイルス薬を投与する必要はないとする考えも肯定している。

 しかしその一方で、乳幼児や高齢者、免疫不全などのリスクを持たない人においても重症化する事例が認められ、それ以外の人でも「(重症化するかを)初期の段階で判断することは困難だ」として原則、早期の診断と抗ウイルス薬による治療を推奨している。

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