治療・予防

加齢とともに衰える舌の機能
リハビリなどで維持・向上を(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック 菊谷武院長)

 年を取ってもおいしく食事をするには歯の健康が大切。そう思う人は多いだろうが、忘れてならないのが舌の役割だ。食べ物をかむ、飲み込む、言葉を発する際に欠かせないが、加齢によって足腰が衰えるのと同じように、舌の機能も低下すると専門家は指摘する。食事や会話にとどまらず、全身の健康への影響も見過ごせないという。

「口の体操」の一例

「口の体操」の一例

 ▽かめない、飲み込めない

 80歳で20本以上の歯を残そうという「8020運動」が始まって約30年。現在、2人に1人がこれを達成している。だが、「せっかく歯を残したのに、そしゃくに問題がある人は増え続けています」と日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック(東京都小金井市)の菊谷武院長は説明する。

 原因の一つが舌の機能の低下。歯や唇などと協調して、食べ物を口の中の適切な場所に保つ、喉の方に移して飲み込むといった機能の衰えだ。75歳を過ぎた頃からゆっくり表れるため、気付きにくいという。「気付いた時には、かめない、飲み込めない、うまく話せないなど日常生活に影響が出ている例が多いのです」

 舌の機能が低下すると、口の中に食べかすが残りやすくなって虫歯や歯周病の原因となる。肉類のようにかみ応えのある食材をうまく食べられず、タンパク質などの栄養摂取が低下して、全身の筋力低下にもつながりかねない。

 一方で、全身の筋力が低下していると、食欲が湧かず、食事の量が減って栄養が不十分になり、筋肉である舌の機能も低下する恐れがある。

 ▽おしゃべりの機会をつくる

 菊谷院長によると、舌の機能が落ちていないかを知るには、食べこぼしがあるか、人に聞き返されることが多いか、飲み込みにくいことがあるかなどを気に掛けるとよい。一部の歯科医院では、舌の筋力(舌圧)を測る検査もできる。

 舌の機能の維持・向上には、舌を頬の内側や唇の内側に強く押し付けるようにぐるぐる動かすリハビリの方法がある。口腔(こうくう)機能を総合的に使う早口言葉やカラオケもよいという。

 ただし、無理は禁物。「食事は自分に合った硬さの食品を食べるように心掛けましょう。目指すのは、硬い物を食べることではなく、おいしく食べて栄養が十分取れることです」と菊谷院長。その上で、「新型コロナの感染防止対策を行いつつ、人と楽しくおしゃべりしたり、食事したりする場面をつくることが重要です」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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