「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

発症・予防に効果 軽い副作用は高率
コロナワクチンの最新情報~終息への道筋が見えてきた~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第17回】

 日本では2月から、新型コロナウイルスのワクチン接種が医療従事者を対象に開始されており、4月からは高齢者への接種も始まりました。接種開始から2カ月が過ぎ、ワクチンの副作用も次第に明らかになってきました。また、海外ではワクチン接種者の割合も増えて、その効果についての新しいデータも出ています。今回はコロナワクチンの最新情報をご紹介しながら、ワクチンが今後の流行をどのように終息させていくかを予測してみましょう。

新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける高齢者施設入所者=4月12日、岡山市

 ◇1976年の豚インフルワクチン事件

 新しいワクチンの接種を始めた時には、思わぬ副作用が生じることがあります。その代表的な例が1976年に米国で起きました。

 この年の1月、米国東部の陸軍基地で、豚インフルエンザに感染した兵士が数名発生しました。米疾病対策センター(CDC)は、新型インフルエンザの流行に発展する危険性があると判断し、新しいワクチンの開発を開始します。時のフォード大統領もこの開発計画を支援し、間もなくワクチンが完成しました。そして、このワクチンの集団接種が10月から全米で開始されたのです。

 ところが、開始直後から接種を受けた人の中に、ギランバレー症候群という神経疾患を発症する人が続出しました。その数が年末までに500人以上に達したため、米国政府はワクチンの接種を中止します。その後、新型インフルエンザの流行は起こりませんでした。このワクチン禍の影響もあり、同年11月に行われた米大統領選挙では現職のフォード氏が落選しています。

 この1976年の事例以降、米国では新しいワクチンの接種を始める際には、効果と安全性を十分に判断することが法制化されます。そして、この方式は日本を含む多くの国々にも広がっていきました。

 ◇mRNAワクチンという新しい製剤

 今回のコロナワクチンの承認に当たっても、こうした方式に従って十分な検討が行われてきました。2月に日本で承認されたファイザー社のワクチンは、今までに実用化されたことのないmRNAワクチンという製剤でもあり、効果はもちろんのこと、安全性についても詳細なデータが検討されました。もちろん、1976年の豚インフルワクチンで見られた神経系の副作用がないことも確認されています。

 ここでmRNAワクチンの効果の仕組みを確認しておきましょう。このワクチンは、接種した場所(腕)でウイルス表面にあるのと同じタンパクを作ります。その結果、ワクチン接種を受けた人は、このウイルスを排除する免疫機能を獲得することができるのです。このタンパクは人の体に悪い影響を与えませんし、接種後、短期間で消失します。ただし、十分な免疫効果を得るためには、ファイザー社のワクチンでは、3週間間隔で2回接種をする必要があります。

 ◇高い効果が半年は持続する

 今年の2月にファイザー社のワクチンが承認された時、メーカーから提出された資料は、接種後2~3カ月という短期間のデータでした。しかし、ワクチンの効果は90%以上という予想以上に高い数値だったのです。この効果とは発症を予防する効果で、季節性インフルエンザのワクチンでは60%ほどですから、かなり高いことが分かります。

 その後もファイザー社は臨床試験を続け、今年の4月初旬に接種後6カ月の成績を発表しました。この結果によれば、6カ月後も90%以上の効果が維持されているとともに、南アフリカ型の変異株にも同様の効果があることが明らかになりました。なお、このワクチンは、日本で拡大している英国型の変異株にも有効とされています。

 ◇感染予防効果もありそうだ

 3月末には、米国で医療従事者約4000人を対象に行った調査結果が報告され、ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンは、新型コロナウイルスの発症だけでなく、感染を予防する効果もあることが分かってきました。この調査では、接種を受けた人の鼻腔(びくう)内のウイルスを定期的にチェックしており、ワクチンを2回接種していれば、90%以上の感染予防効果があるという結果でした。

 さらに、イスラエルでファイザー社のワクチン接種を受けた180万人を対象にした調査でも、感染予防効果を示す結果が出ています。

 ワクチン接種で新型コロナウイルスの感染を予防できれば、私たちはマスクのない生活を取り戻すことができるでしょう。さらに、ワクチン接種を進めることで集団免疫が成立し、新型コロナウイルスの流行そのものを終息させることが可能になるのです。

 ただし、現時点ではそうしたデータがあるという段階なので、ワクチンを受けた人も引き続き感染予防には心掛けてください。

副作用について知らせる張り紙

 ◇軽い副作用は高頻度に起こる

 このように、日本で接種が開始されているファイザー社のワクチンについては、かなりの効果がありますが、問題は副作用です

 接種部位の腫れや痛みといった局所反応、全身倦怠(けんたい)感や発熱といった全身反応は、接種者の半数近くに見られます。特に2回目を接種した翌日に多く、若い人や女性で高い頻度になります。

 あまりに痛かったり、高熱が出たりした場合は、鎮痛剤や解熱剤を服用して構いませんが、2回目の接種翌日は仕事を休むことも考えた方がいいでしょう。いずれにしても、こうした症状は長くても2~3日で治まりますので、あまり心配しないでください。

 重篤な副作用としては、アナフィラキシーという重度のアレルギー反応が時々起こります。今のところ日本では、その頻度が2万人に1人とされており、インフルエンザワクチンに比べると高い頻度ですが、それで亡くなったり、後遺症が残ったりしたケースは今までに報告されていません。アレルギー体質のため接種が心配な人は、事前にかかりつけ医や自治体のワクチン窓口などに相談しておきましょう。

 ◇流行終息までの道筋

 このように、日本で接種が始まっているファイザー社のワクチンについては、変異株も含めて高い効果があるとともに、感染予防効果も期待できそうです。一方、軽い副作用は高率に起こりますが、ここは我慢しなければなりません。

 日本では、ワクチン接種のスケジュールが遅れ気味になっており、4月中旬の時点で医療従事者の接種は道半ば、高齢者の接種もやっと開始されたという状況です。変異株による第4波が拡大する中、医療機関や高齢者施設でクラスターの発生が起きると、重症者の急増を招くだけでなく、医療崩壊にもつながります。

 そこで、まずは医療従事者と高齢者の接種をできるだけ早く、確実に進めることが大切です。そして次の段階として、一般国民に接種を拡大し、秋までには集団免疫の目安となる、国民6割の接種を達成することが必要なのです。

 ようやく終息までの道筋が見えて来ました。(了)


濱田 篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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