医学部・学会情報

マゴットセラピーの新規医療用ウジの同定と評価方法を世界で初めて確立
~難治性潰瘍などの治療に期待―東京慈恵会医科大学~


 4.今後の応用、展開

 本研究では、ヒト組織を用いた医療用ウジの機能評価系の構築と、法医解剖検体のウジを利用した新規系統の樹立に、それぞれ世界で初めて成功しました。今回、われわれが提示した、新規医療用ウジ系統の評価方法と探索のためのストラテジーは、世界のそれぞれの地域において、マゴットセラピーに適したウジ系統を樹立することを可能にするものです。

 今後、医療用ウジの遺伝子情報を詳細に解析することで、ウジの壊死組織除去能力や抗菌物質の分泌に影響する遺伝子レベルの要因を明らかにする予定です。また、難治性潰瘍の症例や従来の治療法が奏功しない症例を対象に、新規医療用ウジ系統を治療に用い、安全性評価と治療効果の評価を実施することにより、臨床応用へ展開することも計画しています。

 5.用語説明

 【難治性潰瘍】
 糖尿病動脈硬化症などの原因により血流が不十分となり、深部まで及ぶ傷が悪化し治りにくい状態を難治性潰瘍と呼びます。難治性潰瘍は細菌が体の中に入る入り口となるため、感染を起こし悪化すると敗血症となり命にかかわることもあります。下肢血行再建術などの血流の治療、抗生物質や肉芽形成促進効果をもつ軟こうなどによる保存的治療が奏功しない場合には、手術による足趾や下肢の切断が検討されます。足の難治性潰瘍では、血流が改善しない場合に下肢切断となるリスクが高く、国内でも年間1万人以上が下肢切断に至っています。大腿(だいたい)からの切断の場合、切断後の5年生存率は20%と、生命予後が極めて悪いことから、切断に代わる治療法が求められています。

 【マゴットセラピー】
 クロバエ科の一種であるヒロズキンバエ(Lucilia sericata)のウジを用い、壊死組織を除去する治療法です。医療用に無菌的に生産管理されたウジ(マゴット)を潰瘍に載せ、壊死組織を摂食させます。マゴットセラピーの大きな特徴として、①壊死組織除去、②殺菌作用、③肉芽組織増生が挙げられます。外科的治療と異なり、壊死組織のみを除去でき、麻酔が不要で、副作用や禁忌症例はほとんどありません。抗生物質耐性菌による感染性潰瘍にも有効なことから、近年改めて注目されています。

 【ヒロズキンバエ】
 クロバエ科キンバエ族のハエです。マゴットセラピーに安全で適した種として、世界中で最も多く使用されている種です。世界中の温暖な地域に広く生息しており、日本国内の全土で身近にみられるハエの一種です。成虫は金緑色をしており、その幼虫(ウジ)は釣り餌としても利用されています。完全変態昆虫で、卵、1齢〜3齢幼虫、蛹を経て、成虫として羽化します。マゴットセラピーに使用するのは、1齢〜2齢の幼虫です。


以上

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