医療ADR

【連載第1回】医療トラブル、話し合い解決も=ADRをご存じですか?

 ◇専門性、多様性に特徴

 それでは、ADRにはどのような特徴があるのだろうか。その第1は「自主的」な手続きであるという点。ADR法2条1号は、民間紛争解決手続について「民間事業者が、紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について、紛争の当事者双方からの依頼を受け、当該紛争の当事者との間の契約に基づき、和解の仲介を行う裁判外紛争解決手続」であるとしている。

 このため刑事裁判のように、公権力の行使に関するものは対象にはならない。あくまでも民事上の紛争で、当事者が和解によって解決できるものが対象になっている。

 民間の手続きであったとしても、公平な第三者でなければ紛争の両当事者に納得してもらうことは難しい。どのようにして公平な第三者を創り出すかが、ADRの一番の工夫のしどころだ。

 第2の特徴は「専門性」。裁判官や弁護士が得意とする「法律問題」が紛争になることも多く、そういう場合には、法律家としての専門性が生かされる。ただ、法律問題以外の専門性が必要となる場合も多い。

 例えば、国境を越えた国際取引、コンピューターのソフトウエアに関する紛争などは、専門知識が必要とされる紛争の典型だ。スポーツの国際大会への代表選考についての争いなどは、スポーツ界の実情に詳しい人に第三者的に和解の仲裁などをしてもらうことが必要で、こうした専門性を生かした紛争解決がADRの得意技だ。

 第3の特徴は話し合いの方法や進行役のあっせん人の選任方法、人数、専門家の関与のさせ方など制度設計が自由な「多様性」だ。法律の専門家が集まる日本弁護士連合会(日弁連)は、さまざまな分野の専門性を生かす手続きを創出。ADRセンターが中心となり、一般的な民事紛争だけでなく、震災や金融、国際親子関係など各分野に即した多様なADRを支援してきた。

 第4の特徴は「迅速性」11年3月11日の東日本大震災では、不動産や原発事故をめぐるトラブルや賠償請求などさまざまな問題が起きたが、多くの被災者にとって、長期間かかる裁判で争うのはあまりにつらい選択肢だった。

 このため仙台弁護士会は震災発生1カ月後、被災者の早期生活再建を目指し、経費が安く迅速に解決することを目指した震災ADRを発足させ、3年間で500件を超える申し立てについて解決が図られた。国の原発ADRでは、これまで2万件近くの紛争が解決された。

 第5の特徴は「非公開性」。裁判は公開されるが、ADRは非公開である。紛争を抱えていることを人に知られずに解決することができ、当事者の秘密は守られる。


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