女性医師のキャリア

患者に寄り添い続ける!
~地域医療の現場でがんと闘う医師の強さとは~ 女性医師のキャリア 医学生インタビュー

 ◇治療しても再発を繰り返す

 すぐに手術となり、最初はステージ2bで遠隔転移していなくてよかったと喜んだのもつかの間、がん性腹膜炎になり、卵巣、子宮へと次々と転移。あっという間にステージ4になってしまいました。卵巣と腹膜を切除し、その後、子宮を切除した時には肺の転移も見つかりました。肺のがんを切除しようと思っていた矢先に、2個だったがんが50個に増加していたため手術を断念、抗がん剤に切り替えました。その後、50個あったがんが1個になったのですが、それがどんどん大きくなったのでラジオ波で焼灼(しょうしゃく)。肺転移は消滅し、落ち着いたと思いきや、今度は腹膜に再発してしまいました。今度こそはと治療しても、すぐに再発するので、結果を見るたびに幾度となく心が壊れそうになりました。

奈良県立医科大学付属病院の病室で

奈良県立医科大学付属病院の病室で

 人からよく「強いですね」と言われます。本当はいつも不安で怖くて泣きたくて大声で叫びたいけれど、我慢しているだけなのです。現在は母校である奈良県立医科大学付属病院に3カ月に1回通院し、抗がん剤治療は自身が勤務する網走の病院で受けています。治療に専念した方がいいのかもしれないと思うこともありましたが、私が今いなくなったら患者さんたちはどうなるんだろうと考えると、気になってすぐここに戻ってきてしまいます。結局、自分の治療に専念するという選択肢はなく、つらいからと言って泣いている場合ではないんです。

 ◇私を救ってくれた音楽との出会い

 入院中に友人から見舞いにもらったクレイジーケンバンドのCDに入っていた「生きる。」という曲を聴き、体中に電撃が走りました。中でもギターの音にすっかり魅了され、それ以来、クレイジーケンバンドとギタリストの小野瀬さんの追っかけをしています。最近ではライブ仲間の友人もでき、時間と体調の許す限りコンサートに足を運んでいます。今年の3月は毎週ライブに行きました。

クレイジーケンバンドのライブ会場(神戸国際会館)

クレイジーケンバンドのライブ会場(神戸国際会館)

 私の人生はいつも運に恵まれていて、こうなったらいいなと思ったことは大抵実現しています。ただ不思議なことに、一番かなえたいと思っている「病気を治す夢」だけがなかなか思うようにいかず苦戦を強いられています。大好きなアーティストのライブに行きたいから元気に頑張る、そうすればきっと病気も良くなる、今はそう考えるようにしています。

 ◇「大丈夫」患者さんの不安を受け止める

 患者さんにも自分がやりたいことをやってほしいと伝えています。病気だからといって病気のことばかり考えていると、どんどん深刻になり、負のスパイラルに入り込んでしまいます。治療は治療で頑張り、治療以外の時は気持ちを切り替えて、自分が好きなことを考えるようにした方がいいと思っています。

 そして、できる限り患者さんの不安な気持ちを受け止めて、いつも口癖のように「大丈夫だよ」と何度も言ってあげています。それで患者さんが安心できたら、絶対に治療にいい影響があると思えるからです。

左上:河野恵美子医師、右上:稲垣麻里子、左下:鈴木夕子医師、右下:井上美穂さん

左上:河野恵美子医師、右上:稲垣麻里子、左下:鈴木夕子医師、右下:井上美穂さん

 ◇諦めない生き方が人を強くする

 治療しても治療しても再発を繰り返し、毎回今度こそと思いながら、つらい治療に耐えてきました。私が今こうして頑張っていられるのは「絶対に負けない」「絶対にあきらめない」という強い気持ちを持ち続けているからであり、それが今の私のすべてです。泣いていても笑っていても同じ時間が過ぎていきます。だったら、いつも笑っていた方がいいに決まっているし、思い悩んでいる時間がもったいない。

 昔から欲張りな性格でした。病気であっても医師の仕事は続けたいし、遊びにも行きたい。病気だからといって、何一つとして諦めたくないんです。病気に限らず、人生の中でいろいろな事情でできないことがたくさんあると思うのですが、できるだけ諦めずに頑張れる生き方をお勧めしたいです。(了)

聞き手:井上美穂(東京医科歯科大学医学部4年)・稲垣麻里子、文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師)

鈴木夕子医師プロフィル
 JA北海道厚生連 網走厚生病院呼吸器内科医師。1993年奈良県立医科大学卒業。同大呼吸器内科入局。済生会吹田病院、大阪厚生年金病院(現・JCHO大阪病院)勤務を経て2012年から現職。日本内科学会認定医・指導医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸器内視鏡学会専門医・指導医。趣味はダイビング、クラシックバレエ、ヨガ、お酒。

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