女性医師のキャリア
外科医の男女格差是正へ歴史的前進
~女性医師は担い手不足解消の切り札となるか~ 【「函館宣言」座談会・上】
◇手術成績に差なく
大越 私が入局した時はまだ外科が臓器別になっていない時代でした。出産前であっても「女は乳腺外科」といった風潮があり 、希望を聞かれることなく、乳腺を選択する女性医師が多かったように思います。
総会での大越医師の発表
私は16年前に長女を妊娠した頃からジェンダーの問題に興味を持ち始めました。日本外科学会のアンケート調査を利用して男女の外科医の収入差を明らかにした論文を書いたことがあるのですが、それを同学会の英文誌に投稿したところ、「このテーマに関しては海外の読者は興味がないので日本語で日本の雑誌に投稿するように」と言われたことがあります。当時、国内でジェンダーの問題は関心度が低く、軽んじられている印象を受けました。
米国の研究で「男性医師よりも女性医師が担当した方が入院患者の手術予後がいい」という論文*1がありました。 日本でも調査したら面白い結果が出るのではないかと思っていたところ、消化器外科学会からNCDを利用した研究の募集があったので、野村先生にご相談しました。この調査では国内において手術成績に男女差がないという結果が示されました。さらに、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を執刀する医師は男性が多く、女性が少ないという症例の不公平性も明らかになりました。女性は糖尿病や高血圧、心疾患など手術成績に悪い影響を与える可能性が高い、併存疾患を持つ患者さんを割り当てられることが多いということも分かりました。
野村 BMJという世界的なジャーナル誌が大越先生の論文に対して大変好意的でした。その大きな理由は、女性は糖尿病や高血圧、心疾患といった併存疾患の多い患者さんの手術を多く執刀しており、かつ、手術成績も同等だったということです。それにより評価が高まったのだと思います。
―併存疾患のあるハイリスクの手術を女性医師が多く執刀するのはなぜでしょうか。
河野 さまざまな理由があるとは思いますが、今回の調査時のデータが開腹手術から腹腔鏡手術へ移行する過渡期だったことも影響しているかもしれません。日本外科学会の専門医資格は3段階方式になっていて、1階部分は「外科専門医」、2階部分がサブスペシャリティで、消化器外科であれば「消化器外科専門医」、一番上が「肝胆膵外科高度技能専門医」「内視鏡外科学会技術認定医」のような最難度の資格です。特に3階部分の専門医資格は役職に就く上で重視されます。ビデオ審査にパスする必要があるため、併存疾患があるリスクの高い患者は避けられる傾向にあります。
◇5年前から宣言準備
「函館宣言」に署名する野村医師(右から2人目)
―函館宣言の構想はいつごろから始まったのですか。
野村 私と河野先生、大越先生は女性外科医の男女格差について、同じ問題意識を持っていたことから意気投合し、2015年11月に「消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)」を立ち上げました。分科会として日本消化器外科学会に申請したところ、却下されたため、Covidien Japanのご支援の下で独自に活動を始めました。それ以来、地道に活動を続け、当会の働き掛けで、学会内に男女共同参画委員会や働き方改革のワーキンググループが設立されました。今回の函館宣言プロジェクトは、立ち上げメンバーである大越先生と河野先生が中心となって5年前から始めています。
河野 今年7月に北海道函館市で日本消化器外科学会の総会が3日間ありました。学会1日目のAEGIS-Womenのセミナーに楠田倫子さんを演者としてお招きし、早くから男女平等を企業文化として確立している日本ロレアルの先進的な取り組みについて講演していただきました。3日目に上野千鶴子先生に基調講演をお願いし、その流れでお二人に函館宣言を見守っていただきました。
(2024/01/01 05:00)