女性医師のキャリア

外科医の男女格差是正へ歴史的前進
~女性医師は担い手不足解消の切り札となるか~ 【「函館宣言」座談会・上】

 ◇旧態依然の医薬界に驚き

 ―楠田さんは医療者ではない立場で函館宣言の場に立ち会われて、どのような印象を受けましたか。

総会前夜の顔合わせ。(左から時計回りに)大越、河野、楠田、野村、上野の各氏

総会前夜の顔合わせ。(左から時計回りに)大越、河野、楠田、野村、上野の各氏

 楠田 あの日、衝撃を受けたことが二つあります。私の勤めている日本ロレアルという会社はフランスに本社があり、化粧品会社ということもあって女性の比率が6割ぐらい、管理職の半分以上は女性で、役員クラスも4割ぐらいが女性です。私は二十数年間この会社で働いてきましたが、女性だから何か不都合や不利益があるということはまったくありませんでした。私自身、1986年の男女雇用機会均等法施行後に、昔ながらの日本の大企業にも短い間、総合職として在籍し、お茶くみや掃除ばかりしていた経験もあります。その後すぐ退職し、米国に留学して戻ってきてから現在の会社に就職しました。さすがに20年の間に日本の社会は変わっているだろうと思っていたので、旧態依然の状況に大変驚きました。

 もう一つ、世界的に見てもアカデミアの女性の進出が遅れているということで、ロレアルは女性科学者の支援に力を入れています。日本でも10代の若い女性が理系に進むことに対してバイアスがかかり、理系の女子の比率が低いということは知られていますが、医薬は例外だと思っていました。理系の才能があって優秀な女性は医療業界では安定的に活躍できる環境にあると思い込んでいましたので、医師になられた女性の働く現状を知ってさらに驚きました。

 ―上野千鶴子先生を演者としてお招きした経緯を教えてください。

 河野 私は医療界におけるジェンダー問題をテーマに2008年から地道に活動を行ってきましたが、個人・施設・学会の努力のみでは限界があり、国民や政治家、メデイアの皆さんを巻き込んだ議論が必要であると考えたのです。2022年にパブリックリソース財団が行なっている「女性リーダー支援基金~一粒の麦~」*2という支援に応募し、支援対象者に選ばれました。その時の審査委員長が上野千鶴子先生でした。女性学、ジェンダー研究の第一人者でもある上野先生に函館宣言の場に来ていただければどんなに心強いかと思い、初対面にもかかわらず立ち会いをお願いしました。

上野氏の基調講演

上野氏の基調講演

 ◇他分野への広がりに期待

 ―上野先生は函館宣言にどんな印象を持たれましたか。

 上野 函館宣言の前夜、皆さんと顔合わせをし、この日のために科学的なデータを地道に分析し、時間をかけて一生懸命に仕込んできた人たちがいたということを知りました。ここに至るまでに十数年もの長い時間を費やしたそうで、どれだけ大変な思いをされてきたのかを伺い、感無量になりました。

 そして一番感心したのはエビデンスが出てきたということです。セクハラもDV(配偶者や恋人などからの暴力)もきちんと「見える化」しないと、たとえ事実であったとしてもなかったことにされてしまいます。エビデンスを出すというのはそのぐらい重要で、まさに私たち社会学者と同じことをし、添付文書で確認し、成果を出したということです。あれだけ大量のデータに基づいて手術経験のジェンダー差が示されたのは国際的にも初めてでしょうから、これに習って今後、他の分野でも追随事例がどんどん出てくればよいと思います。

「函館宣言」を終えて日本消化器外科学会理事と野村医師(右から2人目)

「函館宣言」を終えて日本消化器外科学会理事と野村医師(右から2人目)

 しかも、名称に「女性」という文字を一切付けることなく、日本消化器外科学会が宣言を出したというのは快挙です。学会長や大会長があの場に立ち、何年間で女性にこのレベルの経験をさせるという数値目標をしっかり示し、それを実行するための定期的な調査を学会がお金を出して行うと約束したのです。男性主導の組織をここまで説得し、合意を形成したことには感心しました。私も大学の教員でしたから、日本型組織を動かすことがどれほど大変か十分に分かっています。あの日、舞台上で小柄な野村さんが大きな男性の間に堂々と立っている姿は本当に感動的でした。(続)

聞き手・文:稲垣麻里子、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師)

【注】
*1) Tsugawa Y, Jena AB, Figueroa JF, Orav EJ, Blumenthal DM, Jha AK. Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates for Medicare Patients Treated by Male vs Female Physicians. JAMA Intern Med. 2017;177(2):206–213. doi:10.1001/jamainternmed.2016.7875

*2) 構造化された男女格差を是正するためには、意思決定に参画する女性リーダーを増やすことが急務であるという石川清子さんの強い思いで2021年から始まった基金

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