子どもに関心湧かない
~ボンディング形成不全(九州大学病院 山下洋特任准教授)~
親が自分の子どもに対して抱く「いとおしい」「守りたい」などの特別で肯定的な絆や感情を「ボンディング」と言うが、そうした感情が湧かないボンディングの形成不全(ボンディング障害)が起こるケースがあるという。子どもの心身の発達に否定的な影響があるだけでなく、親の育児負担感が強まり、産後うつなどに至る例も。九州大学病院(福岡市東区)子どものこころの診療部の山下洋特任准教授に聞いた。
子どもに肯定的な感情を抱けない
◇時に強い怒りも
ボンディングの形成不全は、子どもへの肯定的な感情や関心の乏しさの他、重度であれば拒絶、強い怒りの感情を伴う場合もある。産後女性の1%程度に見られるという報告があるが、「わが子はいとおしく感じるものという社会通念があり、ボンディングが築けず苦しんでいても周囲に打ち明けられない人はいるでしょう」と山下特任准教授。
いわゆる子ども嫌いとは異なり、望まない妊娠やパートナーからの暴力、思うような妊娠経過をたどれなかった心的外傷(トラウマ)体験、メンタルヘルスの問題、激しい子どもの泣き―など複数の要因が重なっていることが多い。妊娠中からの胎児への気持ちも影響する。
「ボンディングが育っていなくても、育児はきちんとしなければならないと自分を追い込んでしまう人が多いです。さらに、育児ストレスが強まると産後うつにつながったり、子どもとの触れ合いや2人きりになることを避けるようになったりする例もあります」
◇自分を責めないで
ボンディングの形成には心身ともに安心できる場での親子の触れ合いが大切だ。出産直後に子どもを母親に抱かせて肌に触れさせる、直接のスキンシップが難しければ子どもの写真やビデオを見せるなど「ボンディング形成に配慮した医療機関の取り組みも広がっています」。親が胎児や乳児に子守歌を歌い聞かせるのも効果的とされる。
産婦健診や、自治体から派遣された保健師らによる乳児の家庭訪問も支援の糸口となる。「赤ちゃんの世話を楽しめているか」といった母親の気持ちに焦点を当てた質問をきっかけにして子どもへの気持ちを確認し、必要に応じて母子保健スタッフの訪問や家事・育児サポートサービスの案内、医療機関の紹介などが行われる。
自治体に設置されている「こども家庭センター(旧子育て世代包括支援センター)」などを中心とした「地域に根差しながら親子に積極的に関わるアウトリーチ型の支援が増えてきています」。
親が自分をねぎらえると、子どもにも愛情を持って接しやすくなるという。「セルフケアを大切に。周囲の人は、つらいときもあるよねなど、親へのいたわりの気持ちを伝えてください」と山下特任准教授は助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/05/08 05:00)
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