がん治療に伴う爪囲炎
~治療はスキンケアと薬(国立がん研究センター中央病院 山崎直也科長)~
手足の爪の周囲にできる爪囲炎(そういえん)は、がん治療の副作用で見られる場合がある。痛みなどのために日常生活に少なからず影響するが、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)皮膚腫瘍科の山崎直也科長は「副作用はつらいかもしれませんが、薬の抗腫瘍効果の表れとも考えられます。爪囲炎の対処法はいろいろあり、主治医と相談しながらがん治療を続ける点が大切です」と話す。
爪囲炎の初期は爪の周囲が赤く腫れ、痛む
◇発疹や皮膚乾燥の後に発症
爪囲炎は深爪やささくれなどの傷口から細菌などが感染して炎症を起こす病気。発症初期には爪の周りが赤く腫れ、痛みが生じる。さらに、爪が皮膚に食い込んで症状が悪化すると、化膿(かのう)したり、肉芽(にくげ)といって赤い塊ができたりするようになる。
がん治療では、肺がんや大腸がんなどに使われる上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬の副作用として多く見られる。
EGFRは細胞の増殖に関わるタンパク質の一つで、肺がんや大腸がんなどのがん細胞に多く現れる。EGFRが活性化しているがん細胞は増殖して大きくなっていく。EGFR阻害薬は、EGFRの活性を抑えてがんの増殖を阻止する。
EGFRは健康な表皮や、爪の根元にあり爪をつくる爪母(そうぼ)でも活性化しており、皮膚や爪もEGFR阻害薬の影響を受ける。「EGFR阻害薬の治療開始後、比較的早い時期から顔や体ににきびのような発疹が表れ、その後、皮膚が乾燥するようになり、5~6週後頃から爪囲炎が見られるようになります」
◇テーピングで痛み軽減
爪囲炎に対する有効な支持療法(がん治療の妨げとなる症状を抑える治療)はまだ確立されていないが、スキンケアと薬物療法が中心だ。スキンケアは患部の洗浄、保湿剤の塗布に加えて、テーピング法がある。これは皮膚に食い込んだ爪による痛みを軽減するために伸縮性のあるテープで固定する方法。薬物療法では炎症を抑えるためにステロイド外用薬を使用し、さらに抗菌薬のミノサイクリンなどを内服する。
爪囲炎は日常のちょっとした動作の影響を受けやすく、症状がつらくてがん治療を中断するとがんの進行を許すことになる。山崎科長は「爪囲炎などの皮膚障害はEGFR阻害薬ががんに効いている可能性を示しています。副作用が出ても慌てず上手に付き合いながら、がん治療を継続することが大切です。主治医に相談し、皮膚科専門医の受診をお勧めします」と助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/06/25 05:00)
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